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次元の魔法   作者: キート
3/20

日常

「ところで」とレイラが口を開く。

先ほど改めて全員自己紹介をして少し打ち解け、リラックスムードになっているところに、それまでの雰囲気を変えるかのように話すレイラに何事かと思い三人は見る。

「どうした?」それに返事をしたのはユウトだった。

「もう一つお前に聞きたいことがあるんだが」

「なんだ?なんでも聞いてくれ。答えられる範囲でなら答えるからよ」と答えるユウトを呆れたように見て軽く溜息を吐く。

「な、なんだよ?その“こいつ何も分かってないな”とでも言いたげな反応は」

「…お前はさっき自分が言ったことを覚えてないのか?」

「さっき?」はて、と顎に手をつけ考え始める姿を見てまた溜息を吐く。

「ほら、お前たちの為になる話と…」

「ああ!」レイラのヒントにようやく合点がいったとばかりにポンっと手を叩く。

「なんで俺がここに来たかってことだな!」

「そうだ…」やっと思い出したかと言わんばかりに軽く睨む。

「悪い!すっかり忘れてた!」

「もういい。思い出したからそれで許してやる。それで…聞かせてくれるか?」

「もちろんだ」その返事は先ほどまでと違い真剣さを帯びてる声音だった。

「まぁはっきり言えばだ…レイラ、お前を助けるためにここに来た」と告げる。

それにどう反応したらよいか分からないようだったが「なんでだ…?」と返す。

「お前に初めて会ったとき言ったよな?お前は死ぬって。でお前は死なない方法を考えると言った。

それを聞いた瞬間、どうやってもお前は自らの命と引き換えに仲間を護る道を選ぶんだろうなと思った。で結果は・・・まさしく今俺が言った通りになったわけだが。

「くっ…!」それにばつの悪そうな顔をする。

「別に責めてるわけじゃない。そのおかげでお前の問いに対する答えを出せたんだから」

「答え?何のだ?」怪訝そうな顔をするレイラに

「おや?君も自分が言ったことを思い出せないのかな?それじゃ人のこと言えないじゃんね」とさっきの仕返しとばかりに意地の悪い笑みを浮かべ口撃する。

「~~~~~~~~っ!」それに悔しそうに歯ぎしりし、ユウトを睨みつける。

「ヒント、本当の理由」棒読みのようにヒントを出す。

「本当の理由?」

「おお、つーかこれもう答えを言ってるようなもんだぞ」

「………」その言葉にしばし考え込んでやがて「あっ!」と何か閃く。

「思い出したか?」

「ああ、ばっちり」

「そりゃよかった。そう、なぜ自分が死ぬことを伝えたのかその本当の理由が知りたいと。

俺もその後色々考えたんだけど結局分かんなかったんだよ。で街に着いた時にある人に会ってな、ヒントをくれたんだ。あなたの望みはなにかって。それで気づけたんだ。俺はお前を護りたいのだと」

「…私を…護る?」呟くようにユウトに問いかける。

「ああ。お前は文字通り命懸けで仲間を護るけどそんなお前は一体誰が護るんだ?

自分の命を簡単に投げ出すような奴はその命を懸ける資格はない、そんな命に意味はない。本来命ってのは生きて何かを成し遂げる為にあるんだよ」

「………」

「だからな」それまでの険しい表情を一変させ微笑を浮かべる。

「どんな無茶なことや危険なことをしてでも誰かを、何かを護ろうとするお前を護ってやりたい、その始めの一歩としてここに来た」

「始めの一歩?」

「ああ」一呼吸おいて

「これからそんなお前を護らせてくれないか?」と告げる。

「なっ…!」

「それって…!」

「何?どういう事?」

「静かに!今良いところなんだから!」と訳が分からずカレンに尋ねるルーギを制す。

「そうすればお前は後ろを気にする必要はない。思いっきり何かをやれる。誰かがいてくれる、それだけでも心持ち随分違うもんだぜ?ましてや俺もそれなりに強いからな」ニヤツと笑う。

「どうだ?」

「…ふっ」僅かに口角を上げて真っ直ぐユウトを見る。その視線は穏やかだ。

しばし見合った後話始める。……だが

「えっ?なんて言った?」聞き取ることができずにレイラに尋ねる。

それが聞こえたのかもう一度話始めるが「悪い、よく聞こえないんだ。もう一度頼む」何か話しているのは分かるのだが、まったく聞こえず口パクしているだけにしか見えない。その声が耳に届かない、それに若干イラつき始め「だからもっとはっきり言ってくれ!」と思わず叫んだ。

それが引き金になったかのように周りの景色が急激に歪み始め混ざり合っていく。まるで様々な絵の具を混ぜたかのように。

「…どうなってんだよ、これ?」周りを見回し呟く。そしてレイラ達三人が遠ざかっていくのだ。

「ま、待て!」追いかけようと腰を浮かそうとしたが、金縛りあったかのように全く動くことができない。なんとか力を入れて動こうともがいている間にも、ますます遠ざかっていく。

「レイラーッ!!」喉が張り裂けんばかりに叫ぶがその声は届かず、とうとう見えなくなってしまい周りの景色は黒に覆われた。

「…何だよ…これ…」体が自由を取り戻しがっくりとうなだれる。その時「ん?」誰かの声が聞こえた気がした。「…気のせいか?」周囲を見回すが何も見えず、人の気配もない。

「~~~~~」また声が聞こえた。今度ははっきりと。

「誰だ!誰かいるのか!…はっ!」背後で何かが光り急いで見ると、その光は瞬く間に周りの空間を塗りつぶしていく。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」そしてユウトを飲み込んだ。




「あんたいつまで寝てんの!さっさと食べないといつまでも片づけられないでしょ!」と布団を引っぺがされる。

「っ!!」それに飛び起きて慌てて周囲を見回し、自分に向かって叫んだ人物で視線が留まり「…母さん?」ぽつりと呟いた。

「何?まだ寝ぼけてるの?顔でも洗ってシャキッとしてきな!」と言って部屋を出ていく。

それをぼんやり眺め、先ほどまでと違い見慣れた部屋の内装を目に映して「俺の…部屋?」とまた呟く。「じゃあさっきのは…夢?」ようやく事態を認識し始め「…はぁ~、マジかよ…」と至極残念そうに顔を手で覆った。








月曜日は一週間の中で最も過酷な曜日だろう。休み明けというのもこの認識に拍車をかけている理由の一つではないだろうか。

また一週間が始まるという嫌悪感、休みの日に充電した力で何とか今日を乗り切ろうという悲しい意気込み、月曜日が二度と来なければいい、そんなことを考える人も一人や二人ではないはずだ。

そしてこの男もその一人だ。大村優斗、ここ私立北山学園に通う2年C組の生徒だ。

見た目は至って普通、特徴と言えば世間一般からみて身長が高い部類に入ることだろう。

無駄に背が高いので中学まではバスケ部に所属していたのだが如何せん運動神経が悪い、とにかく悪い。 おまけにとろい。

早々に図体がでかいだけの役立たずと不名誉な烙印を押され、中学三年間で一度も補欠にすら入れなかった。

では勉学のほうはどうなのかいえばこちらもあまりよろしくない。1年の時は皆真面目に取り組むので彼もその流れにのり中々良い成績を修める。

だが2年になると慣れから来る特有の中だるみに見事に感染してしまい、周囲の雰囲気も相まってどっぷりと浸かり成績も散々なものになってしまった。

それが尾を引いて思うように集中できなくなり、結局復活を果たしたのは受験間近になってからだった。

過去の成績から言って一発勝負のテストでは勝ち目がないと悟り、受験すれば受かるといわれる学校一本に絞りここ北山学園に入学し今年で2年目を迎えた。

なぜ受験すれば受かるとされているのかと言えば主にニつ理由がある。一つ目は単純に受け入れ人数が多いためである。そしてニつ目は「本来教育とは学のない子に物事を教えることで、学校はその為の場所であるべき。」という創始者の言葉を今も守っている為だ。そのため偏差値はお世辞にも高いとは言えず“滑り止め”として有名である。最も全ての生徒が優斗のように他に行くところがなかったからというわけではない。

そして優斗は悪夢とも呼べる中学の出来事から部活はもうこりごりと帰宅部になる予定だったが、偶然街で見かけた楽器屋に立ち寄り、初めて自らの意志で楽器に触れた。

当時よく聴いていた曲を演奏できるようになりたいと思い、その日の内に楽器屋が行っているレッスンに通うことを決めた。

最初はただ楽器をやれればいいと思っていたが、次第に聴く側から聴かせる側になりたいと思うようになり高校で知り合った友人に誘われたこともあって軽音楽部への入部を決めた。

ちなみに勉学の方はどうかといえば「やればできる、ただやらないだけだ。そういうのってかっこよくね?」という思春期にありがちな考えにこれまたハマってしまい、そのせいで1年の成績は酷いものになってしまった。

そして両親それぞれからきついお叱りを受け、せめてテスト前だけはしっかりやろうと心に決め今日も登校するのだった。

見慣れた校門を通過し下駄箱へ向かう。北山学園という括りの中に中等部、高等部、北山学園大学の三つがある。それぞれ違う場所に存在しているのだが、その一つ一つの敷地は広い。特に高等部は全国的にみてもかなりの広さを誇る。1学年に一つずつ校舎が与えられている。まず校門から見える立派な校舎、これがこの高校の象徴とも呼べる3年校舎だ。今から35年以上前に建てられたこの校舎は、長い年月の中で風雨に晒され、所々老朽化が見られるものの、未だ荘厳な佇まいを見せている。

もはやこの学校を語る上ではなくてはならない物になった。だが耐久性の問題からか校舎を建て直そうという話が出ている。

そしてグラウンドを挟んで見えるのが1年校舎と優斗が現在通っている2年校舎になる。

この2つの校舎は2階で繋がっており、大多数の生徒はここから行き来する。

主に1年校舎は文化部の部室があり、2年校舎は講習など様々な用途で使われる教室が多くある。

グランドを隔てて1、2年校舎があるので登校時と下校時にどうしてもグランドを縦断しなければならないのだ。

そして昇降口らしい昇降口はなく、校舎の陰に屋根付の下駄箱からあり、そこからいくつか開いているドアから各々勝手に入り教室へ向かうという自由かつ少々珍しい方針をとっている。

下駄箱で室内履きに履き替え一番近くにあるドアから校舎内へ入り教室へ向かう。

だが優斗のクラスである2ーCは1~3年含める全55クラスの中で最も教室に辿り着くまでに時間がかかるクラスの一つなのだ。1フロアに6~7クラスがあり、アルファベット順に上の階から割り振られてしまうため

必然的に一番上の階になるのだ。

おまけに廊下の端と端にしか階段がないため、真ん中であるC組はどうしても2、3クラスは通過しなければならない。

そんな行程を今日も歩き切り、ようやく自身の教室へ到着する。時刻は8時24分、予鈴が鳴る1分前である。この時間だと校内も廊下も歩いている生徒はいない。皆それぞれの教室へ入り、担任が来るのを友人達と話すなり、読書をするなり思い思いの方法で待っている。

事実優斗もここへ来るまで誰とも会っていない。

この時間だと教室に入ってくるのは大体先生方なので、前から入るとどうしても注目を浴びてしまう。

なので後ろからこっそり入り自身の席へ腰かけた。と同時にチャイムが鳴る。そしてそのタイミングを見計らったかのように担任が入ってくる。

その姿を確認した生徒たちは談笑を止め、それぞれの席へ戻り日直の号令を待つ。

そんな繰り返しの毎日がまた始まる…、と考えるとどうしても気が滅入るが致し方ないだろう。

机に置いた鞄を無造作に床へ置き、大きく欠伸を一つ、続いてもう一つ。

目尻に溜まった涙を人差し指で拭っているとチャイムが鳴り終わり日直が号令をかける。

「起立っ!」日直の女子が教室全体に聞こえるように大きな声で号令をかける。

それを聞きがたがたと音を立て全員立つ。だがスッと立つ者もいれば、かったるそうに立つ者もいたので全員が立つまでにばらつきがあった。

「気を付けー、礼!」おはようございます、と挨拶をし着席する。

「はい、おはようございます」と訛り気味に話すのは2-C担任の長谷川文明。50代後半のベテラン教師で化学を担当している。話しかける時にはふみさん、何かの拍子で名前が出てくる時には文明ぶんめいなどと呼ばれ親しまれている。

性格は適当で、言わなければならないことを忘れ、どうでもいいことを長々話し、度々授業が中断し雑談タイムになる、そんなことも日常茶飯事だ。しかし授業内容は的確で、生徒が集中しやすいようにあらかじめいくつかピックアップするピンポイント学習を採っているので分かりやすい、やりやすい、と化学という不人気な科目であるにも関わらず好評を博している。

だがもしかしたら雑談をしたいがために最低限のことしかやらないのではないか、と考える生徒もいる。

「今日は月曜だけど、明日から皆お待ちかねの連休に入るから授業に集中できないと思う。それは仕方がないと思うんだ。僕の授業だったらいいってわけじゃないけど、まぁ大目に見てあげるよ。でも怖い先生の時にそれやったらみんなも怒られるし僕も怒られるからその時だけはしっかりやってね。

でもさ、なんで今日だけあるんだろうね?どうせだったら今日から休みにした方がみんなも嬉しいよね?僕も嬉しいし。でさ、みんな休みの間何か予定はあるかな?

僕は家に娘夫婦が孫連れて来るからさ~、楽しみでしょうがないのよ。というのも――――」と連絡事項もそこそこに早速雑談タイムになった。

それを聞き流し頬杖をついて窓の外に顔を向ける。前まで桜の花が見えていたのだが今はもう5月の半ば

とっくに桜も散って新緑の葉が生い茂っている。

(もう桜の季節も終わったんだ…)毎年必ず言う台詞を今日も心の中で呟く。

ボーッと眺めていると意識は自然と金曜日に見た夢のことへ移っていく。

(まさしく妄想通りだったなぁ…、ピンチに颯爽と駆けつけ見事救い出す…、結局あれから見れてないけど、かっこよかったなぁ…)しかし当然疑問が出てくる。

(なんであんな夢見たんだろ…)夢というのは自分の意志で見られるものではない。ましてや見たい夢を自由自在にというのは到底無理な話だ。

もちろん個人差はあるがよく見られる傾向としては願望や普段抑圧していること、あとは何かしら自分に関係がある事柄だろう。寝る直前にしていたことや読んでいたものの内容などもあるがそれでも思い通りにというわけにはいかない。余程印象に残ったか、強く思っていない限り。

「欲求不満…だったのか…?」

「何が?」一人ごち呟いた台詞にすぐ近くで反応されビクッっと肩を震わせる。

「い、いきなり話しかけんなよ!びっくりした…」

「悪い、けどもうHRも終わったのにボーッっとしてたからよ。ただ眠かっただけかもしれないけど、もしかしたら具合でも悪いんじゃないかって思ったら何か言ったからよ。」それでも少し話しかけるの躊躇ったんだけどな、と話す彼の名は今沢直真(いまざわなおまさ)。2ーCの出席番号2番で3番である優斗の前の席だ。入学初日の教室で初めて会ったにも関わらずすぐに意気投合し、以来大体行動を共にしている。プライベートでも付き合いがある数少ない友人の一人だ。

お互い決してクラスの中心メンバーではないが、二人のやり取りは近くにいる生徒をたまに笑わせることがある。

ちなみに優斗が楽器をやっていると知ると一緒にやろう、と軽音部に引き入れた張本人でもある。

「あ…」と漏らして教室を見る。朝のHRは終わり担任の姿は見えず、教室は喧騒に包まれていた。それに気付かなかったとは余程考え込んでいたのだろうか。

「悪ぃ、ちょっと考え事してた。」

「考え事?眠かっただけじゃなくて?」

「それもあるけどよ。こないだ良い夢見てさ…」と話をしようとしたところへ

「はよー!今日もぎりぎりだったな!」一人の男子生徒が入ってくる。

名前は佐倉透(さくらとおる)。2年になって知り合った友人で、まだひと月と少ししか経っていないが優斗も心を開き軽口を叩ける間柄だ。

誰とでも、男子女子分け隔てなく接することができるので、本人の性格もあって話しやすく自然とイジられキャラになってしまう。その為ムードメーカーとしてクラスを明るくする一方、少し面倒事を起こしたりとトラブルメーカーの地位も築きつつあった。

「まぁいつものことだろ」と若干眠そうに答える。

「まぁな、けどいつもよく間に合ってるよな~」と登校時のことを話し始める。いつもどこか一線も二線も引いて会話するのだが、この二人には最初から大村優斗そのもので接することができた。

なぜかは分からない、強いて言えば同じ匂いがしたから。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。こんなことそうあるもんじゃない、そしてそうできるのがとてつもなく嬉しいことだと過ぎ去った日々を少し思い出す。

「俺にはあんな芸当できねぇよ。狙ってる?」

「狙ってるわけじゃねぇよ。気が付いたらそうなってるだけだ」

「天然もの!?恐ろしいな…。それがいい方向にいけばいいのにな」

「ほんとにな。こんなことだけしっかりできてもしかたねぇよ。でも時間通りだろ?」

「気持ち悪いほどに正確にな」とその後も他愛もない会話をする。

そこへ「でさ大村、さっきの続き聞かせてもらっていいか?」と今沢が一段落ついた頃を見計らって声をかける。

「さっきの続き?」と佐倉が不思議そうに返す。

「ああ、HRが終わった後こいつボーッとしてたろ?」

「あ、そういえばそうだったね」少し上を見ながら軽い感じで返事をする。

「で訊いたらさ、良い夢見たって言うんだよ」

「良い夢どんな?俺にも何か利益ある?」

「俺も聞いてないから分からないんだけど…、でも俺にもお前にも利益は無いと思うぞ」

「へぇ~、で何?俺にも話してくれんの?」

「いいけどさ…、でもいざ話をするとなると恥ずかしいな…」

「別に減るもんじゃないんだからほら。何だったら俺らも話すよ。俺は特に無いけど今沢はあるかもよ?」

「俺もねぇよ…」

「お前らなんだよ…ま、いいや。えっとだな―――」話をしようとしたところに、続きを遮るように一時間目の始まりを告げるチャイムが鳴る。

「タイミングが良いのか悪いのか…」

「言い渋ってるからだぞ!」

「悪かったって、昼休みにでも話すからさ。ほら席戻れ。権田さんはうるさいぞ~。いつも5分くらい遅れるつっても。な?学級委員長?」

「委員長じゃねぇって!」とつっこみながら自身の席へ戻っていく。

「俺は?」と何かを期待するかのような視線を向ける。

「お前も前向いとけって。それに今日お前日直じゃなかったか?」

「あ!いっけね!忘れてた!急いでペアの子の所に行かないと…、誰だっけ?」

「えっと女子の2番は・・・芦川さんだな」

「サンキュ!」と礼もそこそこに慌てて駆けていく。

それを横目で見ると視線を窓の外に向けた。


ありがとうございました!と授業終了の挨拶をする。これで午前の授業は終了、後は昼を食べて午後の授業だけだと考えると自然と心が軽くなる。そんなことを考えながら一息ついている間にも教室はざわめき始める。挨拶が終わると同時に購買に駆けだす者、手洗いを済ませるために教室を出る者、仲の良いもの同士で準備を始める者など様々だ。

優斗もそんなクラスの景色の一つになるべく昼を摂るため鞄を漁り始める。

すると「よっ!」という声と共に背中を叩かれる。

鞄から目的のものを取り出しそちらを見ると、佐倉が弁当と水筒を持って立っていた。

「昼休みまで待ってくれって言ってたからさ。ま、食いながら話そうぜ」と言って近くの席に腰かける。

「そうだな、俺も聞きたいし」と今沢も包みを優斗の机に乗せる。

それに頬を掻いて「あ~言ってもいいんだけどさ…ここだとほら、必要以上に大声出さなきゃならないからさ…」と歯切れ悪く言う。

「それになんて言うかさ、誰に聞かれるか分からないじゃん?」

「いやこんだけ広いんだし、おまけに結構騒がしいから俺たちの声も埋もれるだろ?それに俺たち端っこにいるんだし」

「けど分からんぜ意外と聞こえるもんだし」と言って後ろを見る。佐倉もつられてそちらを見る。

そこには五人ほどで固まり談笑しながら昼を食べている男子生徒達がいた。

その会話も全部は聞こえないが所々聞こえてくる。

「…確かに」苦笑を浮かべながら納得したように頷く。

「向こうのが聞こえるってことはこっちのも聞こえるってことだろ?それやなんだよ。

変な奴って思われるし」

「気にしないと思うけど…」

「かもしれないけどさ。断片的に聞こえる会話ほど恐ろしいものもないぜ?あらぬ想像されそうだし。

ま、それはともかく食おうぜ?腹減ったよ」と言い包みを開けようする。

そこへ「人がいなければいいんだな?」と今まで黙っていた今沢が声をかける。

「え、ああ、できればいない方がいいかな」と少し動揺しながらもなんとか返す。

「そうか。じゃあ当てがあるにはある」と言って立ち上がる。

「どこだよそれ?」と尋ねる優斗に「お前にも関係があるところだよ」と返し弁当と飲み物を持って教室を出ていく。

「なんだあれ?」

「さぁ…?とりあえず俺たちも行こうぜ」と残された二人は顔を見合わせながらもそれぞれ頷き今沢の後を追った。


三人は連れだって廊下を歩きある場所へ向かう。昼休みになったばかりということもあって生徒の数も多い。歩くのにさほど支障はないが、それでもぶつからないように気を遣う。

「どこ行くんだよ?」前から来る生徒を避けて佐倉が今沢に尋ねる。

「大村はもう分かったよな?」とそれには答えず優斗に問う。

「ああ…まぁ…」と言葉を濁しながら階段を降りる。

「どこだよ?」

「…軽音の第2部室。俺もここ通るまで気づかなかったけど」と右手にある通路を見やって嫌そうな顔をする。

「第2部室?」

「ああ、軽音って文化部の中でも2、3番目?に人数が多いんだ。だから部室をニつ貰えてんだ。

もっともそれだけが理由じゃないんだけどな。

ただメインは1年校舎にある方だから機材もあんまり良くない、空いてる教室を適当に改装したような感じだし。そんなわけだから部員もあまり使わない。これで人がいないって条件をクリアできる。それに結構寛げるんだぜ?」と佐倉の疑問に私見も交えながら答える。

「へぇ~、じゃ何で大村はあんま乗り気じゃないの?」

「ええっと…」言葉に詰まる優斗に

「他の人に会うのが嫌なんだと。だから部活にもあんまり来ないし」と助け舟を出す。

「何で?」

「何話したらいいか分かんないんだよ。喋るの苦手だし。変なこと言って空気が悪くなるのは気まずいし。だったら行かない方がいいだろ?お互いの為にさ」

「まぁ…気持ちは分からなくはないけど」

「人には得手不得手があるから俺もあんまり強くは言えないけど、でもこれからはお前もそういうわけにはいかなくなるだろ?」

「そうなんだよ…そう考えたら本当嫌で…」

「え?どういうこと?」

「こいつのパート知ってる?」

「いや?初めて会った時には軽音に入ってるってことしか言われなかったから…」

「何で言わないんだよ?別に減るもんでもないだろうに」

「言ってもしょうがねぇだろ?なんか自慢してるみたいだし。大事なのはどの部活に入ってるかってことなんだよ。

例えば運動部の奴に部活何やってるって訊くことはあってもポジションを訊くことはあんまないだろ?

センターとかMFだとか言われてもピンと来る奴の方が少なくないか?」

「確かに。大事なのは部活だよね?何をやってるかなんてぶっちゃけどうでもいいし」

「だろ?」

「…お前らしいな、その屁理屈」

「屁理屈言うなや!」バシンと肩を叩く。

「話戻すけどな、こいつはドラムなんだ」

「なっ…!」

「へぇそうなんだ。すごいじゃん!」

「おい今沢!このタイミングで言うか!?」

「それを今言わなきゃ話が進まないんだよ。でドラムってのはバンド内で最も重要なんだ。

ドラムの良し悪しで出来が決まると言っても過言じゃない。

全体をまとめなきゃならないからメンバーとのコミュニケーションが不可欠なんだ。

プロだったらその場で初めてあってもちゃんとできるけど俺らはそうじゃない。

高校で始める奴がほとんどなんだから、最初の内は親睦を深めるべきなんだ。

実力が無いんだからそれ以外のところでカバーするしかない。

逆を言えばコミュニケーションをとらずにやっても、鳴らしたいように鳴らすだけでまとまりのない耳障りにしかならん。

きちんと取り合ってればいざ合わせた時に、こいつはこういう性格だからこうなんだってのがなんとなく分かるようになるし、色々はかどる。最終的には良い方向にいくはずなんだ。だから―――」

「長ぇだろ?何が言いたいのかはなんとなく分かるんだけど、とにかくこいつの話は長いんだ。俺も途中までしか聞いてないし」

「確かに。俺も何が言いたいのかは分かるんだけど何言ってるかわからん。もっと話をまとめてから来いよって感じ?

とりあえず大村がドラムやってることは分かった」

「それで十分だろ。それにこいつこんな偉そうなこと言っても、俺と同じで高校から始めたんだぜ?」

「まじか」と今沢が自らの音楽理論を力説している間2人で喋り始める。話は前半しか聞いていない。

「でもさっき何で止めようとしたの?」先ほどの2人のやりとりを思い出して尋ねる。

「なんつーか…驚かせたかったんだよ…」と言いにくそうに答える。

「何で?」

「だって普段冴えないアイツが実はこんなことが!?ってなったらかっこいいじゃん。

だから文化祭まで黙っとこうと思ったんだよ。お前口軽いからすぐ喋りそうだし」

「秘密にしといてくれってこと言うほど俺も口軽くねぇよ!」

「あそう?ま、それはともかくライブでかっこよく決めたら好きになってくれる子がいるかもしんないじゃん?」

「確かに、ステージに立つとかっこよく見えるもんね。ってかそれが本音か!?」

「当たり前じゃん。むしろそれ以外に何がある?」

「お前清々しいほど動機が不純だな…。でもモテるかどうかは別問題だろ」

「う…やっぱりそうか?」

「たぶん」

「やっぱそうか…、なんとなく分かってはいたけど…。でもとりあえず内緒にしといてな?

いきなりステージに立って驚かせたいから」

「それはいいけど他にも部員がいるんだろ?だったら俺が言わなくても同じ気が…」

「その心配はない」ときっぱり言い切る。

「何で?」

「俺軽音に入って一度も部室で叩いたことないから、俺がドラムだってことも知らないと思うんだ。

部室自体片手で数えるほどしか行ってないから、そもそも俺が部員だって知らなくても不思議じゃない」

「それ大丈夫なのかよ!?そんなんでばっちりできんの!?」

「たぶん大丈夫だろ。練習は貸しスタジオでやってるし、あと一応レッスンにも通ってるからある程度はできるようになったはず」

「それ今沢は知ってんの?」

「もちろん。何回か合わせたから。でも部室にはほとんど行ってないから行きにくくて…」

「だろうな!」当然と言わんばかりに声を張り上げる。

「何が?」そこへ自分の世界に入っていた今沢が戻ってきた。

「ああ、こっちの話」

「そう。要は大村はコミュニケーションが圧倒的に不足してるからそれを何とかしなきゃ。

とりあえず今日部室に来いや。嫌っつっても連れてくからな」

「分かってるよ。そろそろ行かなきゃまずいと思ってたし。けど大丈夫か?」

「あれぐらいできれば大丈夫だろ。ドラムはいつの世も、どの学校も不足してるから向こうから

『頼む!』って言ってくるだろ。ぶっちゃけお前の人間性は関係ないぜ?どっしり構えてけよ」

「だといいけどな・・・」と話しながら歩いてると目的の場所に着き三人は立ち止まる。2年校舎にある部室に到着したのだ。

「ここって鍵は?」

「ここは掛かってない。向こうは掛かってるけど」

「それは知ってるよ」

「でもそう考えると本当に第2なんだな…いろんな意味で」とニ人の会話を聞き佐倉がぽつりと呟く。

「とりあえず入ろうぜ?ここで突っ立ってたってしょうがないし」と言って手をかける。

「おい、本当にいないんだろうな?いたら帰るからな」

「んなこと言ってどうすんだよ。お前だって部員なんだからもっと堂々としてろよ。

部員じゃない奴の方が堂々としてるってどうなんだよ」と言って佐倉を見る。

「こいつはほら…図々しいから」

「まぁな」

「お前ら酷くね!?」と言い合いながら中へ入っていく。



「「へぇ~」」と感嘆の声を漏らしながら珍しそうにきょろきょろ辺りを眺める。

そんなニ人とは対照的に今沢は慣れた様子で机と椅子を用意し、窓を開けていく。

「俺こういうスタジオっていうの?初めて入ったよ。まさか入れるとは思わなかったし」

「やっぱ普通の人にとっては珍しいよな。俺も初めての時は感動したし」と自身の過去を思い出して同意する。

「おい、突っ立てないぜ食おうぜ?」そこへ準備を終えた今沢が手招きする。

それに返事をして右から今沢、優斗、佐倉の順番で座る。

しばし話は佐倉のペースだった。あれは何だとか、どうやって使うのだ、とあれこれ質問してくる。

それに今沢が簡単に説明していく。だがドラム関連の質問になると解答者は優斗に移る。

そこまで詳しくないから望む答えが出せるかは分からないけど、と前置きして自分が知っていることをなるべく分かりやすく説明していく。

そんな話をしながら昼食を食べ終える。気が付けば昼休みも半分近く過ぎていた。

「いや~悪いね!俺ばっか喋っちゃって!」

「別にいいよ。大村よりよっぽど興味ありそうだし、もしよかったらウチに入らないか?」

「せっかくのお誘いだけど遠慮させてもらうよ。高校では部活に入らないで勉強するって約束だし」

「真面目だねぇ~。部活は高校生活を彩る一番の要因だぜ?」

「まぁね。でもそれ以外のことは目一杯楽しむつもりだからさ。

その一環ってわけじゃないけどこれからもたまに来ていい?なんていうか雰囲気だけでも味わいたいというか、独特な感じがあるじゃん?それにいるだけで楽しいし」

「もちろん大歓迎だ。こっちは本当に滅多なことじゃ人来ないから心配ないし。もし来ても見学者ですって言えばそれで済むし」

「ありがとう!」がしっ!と今沢の肩を掴む。

「テンション高いな、佐倉」

「しょうがないじゃん!初めての場所じゃそうなるでしょ!大村だってそうだったんでしょ?クールぶっちゃって!」

「俺はテンション高くても行動に移さないからいいの」

「本当か~?あ、せっかくだから大村が叩いてるところみたいなぁ~」

「今日は無理、気分じゃないし。それに叩くやつ持ってきてないし」

「スティックって言えよ…」と呆れ気味に呟く。

「じゃあ本題というかメインに入ろうか」と今沢が切り出す。

それにニ人は頭上に?を浮かべるがすぐに察したように、ああっと頷く。

「あ、そういえばそうだったよね。じゃあ聞かせてもらおうかな。その恥ずかしぃ~い夢のことを」と

ニヤニヤ笑う。

「そうだな…」と言いながら沈黙する。どうやって話そうか考えているのだろうと判断したニ人は優斗が口を開くのを待つ。

「なんか…」やがてぽつりと呟く。

「ん?」

「何?」それぞれ反応する。

それに苦笑しながら「なんか…重い。空気が…。そんな大したことじゃないのに、この空気だとまるで重大な何かを言うみたいで、すっげー話しにくい」と告げる。

その発言に一瞬間をおいて「「はぁ!?」」ニ人の声が重なる。

「お前それはねぇだろ!人がいない方がいいって言ったからここまで来たのに言わないつもりかよ!」

「そうだぞ!最初は話題の一つぐらいにしか考えてなかったけど、今じゃ気になってしょうがないんだよ!絶対喋らすからな!」とすごい剣幕で詰め寄る。

それにたじろぎながらも「い、いや!話さないとは言ってねぇよ!ただ…こうやって改まって話すことじゃないし…恥ずかしい」と返すも最後の方は聞き取れないほど小声になってしまう。

「なんだそりゃ」

「ほら、会話の最中で話題を変える時とか、そんな感じでなら問題なくいけると思うけど…」

「まだお膳立てしろとのことですよ、大村様は」

「まったくわがままですね、大村様は」

「何で様付けなんだよ?バカにされてるみたいなんだが」

「気のせいだ。…しょうがねぇな。佐倉、何か話せ」

「えっ!?俺!?」

「他に誰がいるんだよ。それに大村様たっての希望だし」

「「いや俺(大村)はそんなこと言ってないし」」

「何でもいいよ、ほれ」と何か喋るよう促す。

「そんなこと言っても…」と少しの間考えるが「あ、そうだ」と何か思いつく。

「俺妹いるんだけどさ―――」と健気にも今沢の無茶ぶりに従い、場を盛り上げようと話し始める。

(すまねぇ…佐倉)と優斗は心の中で謝罪した。


「―――ってことで仲直りできたんだけど本当に怖かったね。女って恐ろしいわ。この世で一番かも知んない」と何とか話し終える。

「本当そうだよな。俺、姉ちゃんと妹いるんだけどさ、中学になったら冷たいっつーか、素っ気なくなったっていうかさ。それが居心地悪いのなんのって。一日中部屋に閉じこもってたわ」

「俺一人っ子だからよく分かんないけどそんなもんか。マンガとかアニメとかのは?お兄ちゃん大好き!

みたいなの」

「「あんなの幻想だ」」大村の問いに間髪入れず、且つまったくずれることなく言い切る。

「ああ・・・そうなんだ・・・」

「俺記憶にある中でお兄ちゃんなんて呼ばれたの小学校の低学年くらいまでだわ」

「俺もそんな感じ。でも気づいたら呼び捨てだぜ?」

「呼び捨てだけまだマシじゃん。俺なんておい、とかそこのだぜ」

「それはきっついな!」

「だろ?何で妹萌えなんてジャンルができたんだか…妹燃えなら分かるけど。

ありゃモンスターだ。一刻も早く狩猟しないと」

「ほんとそれだよな。現状に不満があるからそういうのができたんだろうけどさ、でもそれはそれでいいんだよ。俺も楽しんでるし。ただ現実なんてそんな幻想粉々にしてもまだ足りないくらいだけどな」

「現実では味わえないからせめてゲームの中だけでもって感じかな?

けどそれ言ったら恋愛ものとか女性キャラクターもこんな奴いねぇよ!って思うよな」

「確かに。でも心のどこかではそういう人がいるはずだって信じてるからまた厄介なんだよな」

「まぁ、ゲームをゲームと捉えられずに現実とごっちゃにし出したら人として終わりだろうけどな。

ゲームはあくまでゲーム。現実では味わえないエンターテイメントだとしっかり認識しなきゃだめだな」

「全くな」

「お前ら何でそんな真面目な話してんだよ」

「さぁ?」

「気が付いたらだよな。でもたまには真面目な話もしないとな。現実で人殺したら大問題になるけど

アニメとかだったら大したことないじゃん?」

「何が言いたいんだよ?」

「そういう事件が最近起こったじゃん。取り調べで『俺はこの世の正義だから悪人を裁ける。』とかさ。

そういう風にならないように再認識しようねって話!」

「なんだそれ…あ、そういえばお前らフォルトニルって知ってる?」

「フォルトニル?ああ、あれね。もちろん知ってるよ」

「つい最近もアニメ化だーって騒いでたよな」

「そうそれ。俺さ…この間…その世界に行ったんだよ!」

「……は?」ぽかんとする佐倉。

「お前…今俺が言ったばっかじゃねぇか。現実は現実、マンガはマンガ。その線引をしっかりしろって。言った傍からこの様か…

頼むから犯罪者だけにはなるなよ?知り合いが犯罪者なんてことになったら俺は…!」

「ちょ、ちょっと待て!何でそうなるんだよ!俺はちゃんと区別できてるから大丈夫だって!

おい、その目を止めろ!俺を蔑むような目で見るな!あの世界に行ったって言ってもな―――」

「夢の中で…だろ?」傍観していた今沢は大村が言おうとしたことを先に言う。

「そうだよ。ったく変な早とちりしやがって…」

「あ、そうだったの。よかったよ~本当に。そこまでイっちゃってたらこれからどうしようかと…」

「変な考えはその窓から捨てとけ。ついでにお前も飛び出せ。

でさ、その時がちょうどガーマとの最初の全面対決の時だったんだよ」

「ああ、それ!俺あれショックだったわ~、何であそこで殺すの!?って。だって殺す必要なくない!?

まだ活躍できる場面だってあるだろうに。

俺さ、今までマンガ読んでても思わなかったんだけどさ、初めて作者恨んだね」

「俺もあれは衝撃だったし今でも理解できないわ。しばらくショックで立ち直れんかったし。

でも次の週になったら何事もないかのように立ち読みしてるし。単行本だって大村に借りてしっかり見てるし。でも問題のシーンは見ないで飛ばす」

「分かるわそれ!ていうか読めない」とニ人で盛り上がりかけるが「待った」と制止の声をかける。

「話にはまだ続きがあんの。まぁ結論言うとさ、俺が助けたんだよ」

「へぇ~」

「…何だよその反応?」

「だって夢の中なんでしょ?だったら全然ありでしょ。俺なんて夢じゃなくても妄想で脳内設定ねじ込んで世界観ぶち壊してるからね。まゆちゃんとラブラブだし」

「誰だよ、まゆちゃんて…」

「知らない?最近俺の友達の妹が可愛いくてしかたないんだがってやつ」

「悪い、俺そういうの見ねぇんだ。タイトルだけでなんかやだし、そういうの見始めたら終わる気がする」

「何が終わるんだよ…」

「人として。今の俺には戻れないというか。なるべくその一線は越えないようにしてる」

「そんなんで終わるんだったら今すぐ死ねよ!俺はなぁ、まゆちゃんに会えて毎日幸せなんだよ!

朝はあの笑顔に元気もらって今日も頑張ろうって思うし、寝る時だって今日も頑張ったね、お疲れさまって言って俺を癒してくれるんだよ!もう俺にはまゆちゃんのいない生活なんて考えられない!」

「おい、さっきと言ってること真逆だぞ。がっつり現実まで浸食されてるぞ」

「あいつが一番犯罪者ルートまっしぐらじゃねぇか」

「そんな目で俺を見ないで!分かってるよ!俺が異常だってことは!でも今だけはこのままでいさせてくれぇ!必ず戻って来るから!」

「落ち着け。期待しないで待ってるからよ」と少し泣いてる佐倉を宥める。

「大村はこういうの見ないんだっけ?」

「ああ、こういうタイトルってどうなの?って思ってさ。俺の考えが古臭いってのは分かってるけど。

内容も聞く限りじゃあんまり…。どっちかってーと少年漫画みたいな熱いやつがいい」

「俺も好きだよ。ああいうのっていくつになっても心が熱くなって俺にもできる!って思えるからいいよな。必殺技だって昔はよく真似したし。

じゃあ今はフォルトニルが?」

「それ以外も見てるけどお気に入りはそうかな?夢に見るぐらいだし。でもさ、こういうのってあるの?」

「何が?」

「夢の中でヒーローになってるって」

「誰でも一回はあってもおかしくないだろ。一説によれば心の底で望んでることを見るって言われてるし」

「ほんとかそれ?」

「さぁ?だといいよねって話」

「おい!」

「ま、それはともかくそんな恥ずかしがることでもないんじゃない?夢の中で活躍してるってこと話すぐらい」

「でも人によるだろ。お前や佐倉だったらまだいいけど、俺みたいな陰キャラがそんなこと言った日にゃ卒業までキモって言われ続けるわ。変人としてしか見られなくなるわ」

「すぐにネガティブになる癖どうにかしろよ。なんでそんなマイナス思考に逞しいんだよ」

「よく後ろ向きに前向きって言われる」

「ややこしいわ。それにそんな心配したって無駄だよ。人は思ってる以上に人のこと見てないから」

「確かに。これどう見られてるんだろ?変に思われてないかな?って皆考えてるよね。

人の目を気にして自分にしか向き合ってないから結果的に他人のことを見てないんだよ。

自分しか見てないって言うのかな?だって俺を見ろよ!人の目を気にしてたらこんなこと言えないぜ?」

「お、復活したか。じゃあ座右の銘は?」

「他人を気にしたら負けだと思ってる」

「お前が言うと説得力あるな。つまりお前は考えすぎ。もっと気楽に考えろよ。自分でハードル高くしてどうするんだよ。そんなんじゃそのうちパンクしちまうぜ」

「それもいいかもな」

「冗談でも言うなや。こっちは親切心で言ってんのに」

「分かってるよ。気を付ける」

「とりあえず俺が言いたいのは、気にするなとは言わないけど気にしすぎるなってこと。

人は人、俺は俺、それでいいんだよ。実際そう考えたら大分楽になったもん、俺」

「そう簡単に割り切れないんだけどな…でもサンキュ、参考にさせてもらうよ。

悪かったな、こんなこと聞かせる為にここまで来させて」

「気にすんな」本当に気にしてなさそうな今沢とは違い「本当だよ」と佐倉は肯定した。

「もっととんでもないことだと思ってたのに、そんな普通すぎることで逆に驚いたわ」

「そう言ってやんなよ。お前にとっては普通以下かもしれないけど、こいつにとっては大事なことだったんだろ?」

「それにお前と違って俺って繊細だし。お前みたいな恥知らずじゃないからさ」

「確かに」

「お前らちょいちょい俺を貶すよな。俺にだって羞恥心ぐらいあるわ。

まぁそれはともかくとして、せっかくだから俺友の話を聞いてけよ。お前ら染め上げるから!

あ、でもまゆちゃんはだめな?俺の嫁だから」

「なんだそれ…」

「お前言ってて虚しくない?絶対に手に入らないものを自分のものだって言うの」

「全然!だって知り合いに話せる奴が少ないから寂しいんだよ。お前らもすぐに対等に話せるようにしてやるから心配すんな!」

「せっかくのお誘いだけどもう時間だ。見てみろよ」と言って壁に掛かっている時計を見る。時刻は午後1時10分。午後の授業開始まであと5分だ。

「そ、そうだな!戸締りして早く戻ろうぜ!」わざとらしく大声を出して立ち上がる。

「分かったよ…。でもいつかこの良さをたっぷり聞かせてやるからな!」と宣言し片づけ始める。

「悪い、助かった」教室へ戻る途中で今沢に囁く。

「気にすんなや」と返し微笑を浮かべた。


「それじゃこれで終わるけど皆くれぐれも休みの間事故に気を付けてよ?せっかくの休みが台無しになっちゃうし、僕も大変になるから。ま、ほどほどにね?それじゃ解散」

午後の授業も全て終わり帰りのHRもこれにて終了。晴れてここからは自由の身だ。

そんなことを考えてるのか教室はどこか浮き足立っているように見える。

鞄に教科書などを入れてさて帰るか、と腰を上げたところで「どこに行くんだよ?」と声を掛けられる。

「どこって帰るに決まってんだろ?今日は何もないし」

「お前昼休みのこともう忘れたのかよ?今日は部活行くっつったろ?」

「ああ、そういえばそうだったな…。悪ぃ、忘れてた」

「しっかりしてくれよ…。でさ悪いんだけど俺日誌書かなきゃならねんだわ。

ちょっと待っててもらっていいか?もちろん一人で行くって言うならそれでもいいけど」

「…答えが分かりきってること訊いて楽しいか?俺一人じゃ絶対行かねぇよ。待っててやるからさっさと書けや」

「了解」返事をすると日誌に向き合う。

その姿を見ると窓に近づき外の景色を見る。

眼下にはまだまばらだが、これから部活に行く生徒や帰宅する生徒が見える。まだ時間が早いのもあるので、これからもっと増えるだろう。

それをぼんやり眺めていると意識は再び例の夢のことへ向けられる。

(同じ夢を二回見ることってそうはないよな…でも、もう一回でいいから見れねぇかな…。あのまま上手くやってればいずれは…)と沈みかけたところで

「悪ぃ、行こうぜ」今沢が声をかけられ、現実に戻る。

今度は驚くことはなく「ああ」と返し鞄を持って立ち上がる。

「また妄想してたのか?」からかい交じりに今沢が尋ねる。

「妄想って言うなよ、響きが何かやらしい。それより職員室に持ってかなきゃならねんだろ?それ」と日誌を顎で示す。

「いや、芦川さんに頼む。確かあの人部活に入ってなかったはずだし」揃って彼女の元へ向かう。

「芦川さん、悪いんだけど日誌職員室に持ってってもらってもいいかな?俺たちこれから部活に行かなきゃなんなくて」

「うん、いいよ。まだあたしの分書いてなかったからちょうどいいよ。それより日誌任せちゃってごめんね?」

「別にいいよ。分担してそうしようって決めたんだし。じゃあよろしくね」日誌を渡し軽く手を振って教室を後にする。

「ああ言われたら断れないだろうな。よっぽど親しくない限り」廊下に出てすぐに優斗が口を開く。

「確かにな。でも面倒じゃん?一階に降りてまた上がって来なきゃならないなんて」

「まぁな。でも俺だったら自分で持ってくわ」

「人見知りだから?」

「それもある。っていうか女子に声をかけるのってすっげぇ緊張するし、気を抜いたらどもりそうになるからなるべく話さない方向でいきたい」

「まぁ気持ちは分からなくはないけど」と談笑しながら部室へ向かう。

1年校舎と2年校舎を繋ぐ通路を通って1年校舎に入る。造りはほとんど同じだが廊下や教室の床の色が違う。

2年校舎は無機質なグレーっぽい色でどこか冷めた印象を受ける。

一方1年校舎はどこか温かみを感じさせる赤っぽい茶色をしている。

「ここもしばらくぶりだな~」辺りを眺めながら大村が呟く。

「お前は特にな」

「うるせ。部活とか用事がない限りここに来ることもないじゃん。ついこの間まで俺らここにいたのに」

「確かに急に居心地が悪くなるよな。もう俺らの場所じゃないって校舎から言われてる気がするし」

「あ~、なんとなく分かるわ」と話しながら歩いていれば知らない内に部室に到着する。

「何か緊張するな…初めて来た時みたいだ」

「お前はそうかもな。でも俺も皆も気にしないよ。ほら、入ろうぜ」と促し扉を開ける。

「ちわーっす!」とどこかの運動部のような挨拶で入る今沢とは対照的に、ものすごく気まずそうに入る優斗。

広さは二年校舎にあるものより二倍近くあり、一般的な教室よりやや広めだ。

入口から左側はステージ上になっており、一通りの機材が揃っている。

右側は教室と同じように教卓や机、椅子などがある。

「おお、今沢かっと…おや?」既に部室にいた男子生徒が二人の姿を確認すると近づいてくる。

「いや~久しぶりじゃないか。元気にしてるか?大村」

「ええ、まぁまぁです。部長もお元気そうで」軽く会釈する。

部長と呼ばれるこの生徒の名前は本田篤史(ほんだあつし)。ここ北山学園高等部軽音楽部部長だ。

とても仲間思い且つ仲間の意思を尊重するので、優斗が幽霊部員化していてもそれを許容し

「人にはそれぞれ理由があるから無理に来いとは言わない。けど俺が卒業するまでに一回でいいから来い」と言った人物で、優斗も今沢や佐倉ほどではないにしろ、心の内を話せる数少ない理解者である。

「まぁな」

「でもいいんですか?ここにいて」

「なに、この時期はまだ大変じゃないから問題ない。文化祭の五分の一くらい大変だ」

「それ分かりにくいです。でもそうかもしれないですよね、会場準備とか曲の練習とかと比べたら」

「そうなんだよな。まぁ受験で大変になるとは言っても息抜きは必要だからな。休める時に休んどく。

時間がある時くらいここに来てもいいだろ?」

「それは別にいいと思いますけど」

「まぁそれはともかくとしてだ、せっかく来たんだからなんか叩いてけよ。今沢から訊く限りじゃ大丈夫そうじゃないか」

「それはどうかは分からないですけど。それに今日は練習しに来たんじゃないんで」

「顔見せに来たみたいですよ、こいつ」

「そうか。まぁそれでもいいや。もう少ししたら他の部員も来るだろうし挨拶してけば?それに今年入って初めて来たから1年のこと知らないだろ」

「あ…そういえばそうですよね。俺が2年になったってことはそういうことか・・・

すっかり忘れてましたよ」

「おいおい、しっかりしろよ。これからはお前も先輩なんだからよ」

「ですよね。それはそうと何人入りました?」

「11人だな。ちなみにほとんどギターかボーカル志望」

「まぁしょうがないっちゃしょうがないですよね。かっこいいし目立ちますし」

「俺もそのクチだしな。一応2年を紹介する時にお前のことも言っといたけど、後で1年が来たら紹介するから何か考えとけよ」と言い置いて練習に戻る。

「でどうなんだ?比率的には。俺らの時は3ボ4ギ2ベ2ド1キーだったよな?」

その姿を見送った二人は部室の隅に行き適当に腰掛ける。と同時に大村が口を開く。

「ああ、今年は…3ボ5ギ3ベ…だな」

「今年は0か」

「こればっかりはどうしようもないけどな。だからお前が残ってくれると俺らもすごく助かる」

「求められるならやるけどさ。そのかわりへたくそとか言うんじゃねぇぞ?」

「じゃ、そう言われないように頑張りな」といって近くにあった音楽雑誌を手に取る。

それを見て眉間に皺を少し寄せ、若干不機嫌そうにして今沢を蹴飛ばす。

「痛っ!何で蹴るんだよ!」

「いや、何かむかついたから」と言い今沢と同じように雑誌を読み始めた。



「おーい大村!ちょっと来てくれ!」しばらくそうしていると徐々に人が集まってくる。

それを見計らったかのように1年を自分の元へ集め優斗を呼ぶ。

「知らない奴ばっかだな…」

「そりゃそうだろ。あそこにいるの全員1年だし」

「やだな…注目浴びるのって…」

「軽音部にあるまじき発言だな」

それに応じ本田の元へ向かう。

「ここにいるのは全員1年だから大村は多分知らないと思う。本当はあと三人いるんだがこれだけいれば十分だろ、いない奴らは後日でいいだろうし」

「その子たちが来るたびに来なきゃいけないんですか?」

「それが嫌なら毎日来いや。そしたらいつか会えるだろ」

「俺が軽音ここにいる限り会う機会はいずれあるでしょうけどね…」

「そんなことより自己紹介しろよ。名前とパート、後は何か一言」と言ってその場から一歩退く。

立ち位置は二人は後ろから来たので1年生を挟んで向かい合っている。

二人が話すとどちらを向いたらいいか分からずきょろきょろと忙しなくなってしまう。

それを改善して話をしっかり聞くように、顔がしっかり見えるように、後はこれから先輩になるんだからという言葉の意味も含めてここに来るよう示す。

そしてそれを理解した今沢は優斗の肩を掴み、1年生をかき分けて前に進んでいく。

「今沢!別にここでいいって!」

「お前も部員なんだから部長の指示に従えよな。それにお前の為だけじゃないし」

「は?それどういう―――」

「ほら、自己紹介」と言って背中を押す。

「……はぁ」聞き取れないほど小さくため息を吐き

「えー初めまして。2年の大村です。パートはドラム、これからよろしくお願いします」と言われたことを淡々と話会釈する。それにお願いします、と声が上がる。

「前にも説明したと思うけど大村は去年の四月から入ってたんだけど、訳あって偶にしか来れなかったんだ。今日来れたのも偶然みたいなものらしいし。皆もそこのところは理解してくれ。

人にはそれぞれ事情があるんだから、それを訊こうなんて野暮ってもんだぜ?

だから皆が知らなくても当然だと思う。まぁ皆は2年校舎に行くことはあんまりないと思うけど、もしどこかであったら声をかけてやってくれ」と本田が言うとそれぞれ返事をする。

「まぁこいつは人見知りだから返すかどうか分からないけどね」

「うるせぇ、人見知りだって挨拶されれば返すわ」と茶化す今沢を蹴飛ばす。

「まぁそんなわけでこれからお願いします」と再び言えばお願いしますと返事が返ってくる。

それをどこか楽しげに見る本田と今沢だった。



「でお前明日どうする?」日が傾き始め、オレンジ色に染まりつつある通いなれた通学路を歩きながら今沢が尋ねる。

あれからしばらく部室にいたが1年生や同級生、先輩達に次々声をかけられ、あまり喋ることが得意でない優斗は狼狽えてしまい適当にあしらったのち、逃げるように部室を後にした。今は下校中である。

「何の話?」

「俺は明日行くつもりだけどお前はどうするかって」

「俺は…第2なら行ってもいいけどあっちは…」と渋い顔をする。

「それでもいいや。鍵が掛かって無いからいつでも行けるし。それに俺はこれじゃなきゃ嫌だとかわがまま言わないし」

「あんま偉そうにすんなや。お前だって高校から始めたくせに」と肩を叩く。

「まぁな。それよりどうだった?皆気にしてなかったろ?」

「むしろよく来たな!みたいな感じだったな。どっちの意味かはともかくとして」

「ああ……」優斗の言った意味をしっかり理解しどこか遠い目をする。

「話変わるけどお前フォルトニル全部持ってたよな?」

「まだ連載中だから全部とは言えないけど、今出てる分なら」

「ならよかった。悪いんだけど明日持ってきてくんない?お前の話聞いてたら読みたくなっちゃって」

「別にいいぜ」

「サンキュ。俺は昼頃行くつもりだけど大村はいつ来る?」

「俺もそれぐらいかな?それに俺は休みなのにわざわざお前に貸すために行くんだからな。感謝しろや」

「何を偉そうに」とそのマンガについて盛り上がり始める。しばらく盛り上がったところで大村が黙り込む。

一人で喋っていた今沢はしばらく気づかなかったが、返事がないことを不審に思い声をかける。

「大村」

「………」

「おい大村!」それにビクッと肩を震わせて

「なんだよ、脅かすなよ」

「聞いてなかったのか?てかその反応…またか?」今沢が何を言いたいのか察した優斗は口ごもりながら答える。

「ああ、関連性がゼロとは言えないんだが…」

「と言うと?」

「お前アニメやマンガの世界に入れたらいいなって思ったことあるか?」

「もちろんあるよ。それが恥ずかしいとは思わないし。そのことを人に話そうとは思わないけどな」

「そうか…。バカにされると思うけど割とまじで考えてたんだ。その世界に入ることはできなくても似たようなことが起こらないかって…」

それを生易しい目で見ながら軽くため息を吐く。

「…もしそうしたいんだったら理系に進むしかないな。俺らは文系だからその方法を解明するのはほぼ無理だろうけどな。」

「………」

「けど方法がないわけじゃないだろうな」

「と言うと?」

「ああ、全部が全部できるってわけじゃないだろうけど、多少ならできるだろ。

例えばバトル系のだったら格闘技やればいいんだし、派手にドンパチやりあうのだったら戦地に行けばいいんだし。」

「……危険すぎだろ」

「だから言ったろ?現実は現実、二次元は二次元だって。こっちの世界じゃ生身で自由に空を飛ぶことはどうやったって無理だしな」

「………」

「仮にその方法を見つけて入ったとしよう。その後どうする?入ること自体が目的じゃないんだろ?」

「もちろん。そこで俺はここじゃできないことをする。誰でもそう思うだろ?」

「まぁな。けど等身大の大村優斗じゃ村人Aや町民Bがやっとだろ。

主人公と深く関われるでもなし、今のまま、いやそれ以上に酷い扱いだろうな。何せ名前も無い完全なモブキャラだ。

そんな思いをするぐらいなら俺は今のままがいいねって結論に達した。それ以降本気で入りたいと思ったことはないな」

「だからキャラ付けすんだろうが。しっかり設定作っていけば何とかなんだろ。

それに一回くらい主役になってる世界があってもいいじゃない」

「……ま思うことはそれぞれの自由だけどな。けどそうだな……」と顎に手をつけしばし何か考えるような素振りをし、ややあって口を開く。

「もしそう思ってるんならどっかお参りに行って来れば?後は願いが叶うとされてる何かを身に着けるとか」

「おい、バカにすんなよ。毎年願ってるしそういうの見つけたら買うけど、一度も彼女できたことないぞ」

「そりゃ人と話をしようとしないお前に原因がある。黙ってたって女が寄ってくるのはイケメンだけだ。俺やお前みたいなのは土台が無いんだからそれ以外のところでカバーするしかねぇだろ」

「心にダメージのあること言うなよ。結構効いたぞ」

「事実だろうが。それに神頼みなんてのは当たらなくて当然なんだよ。あんなの気休めにしかならないただの自己満足。

お前が悩んでいたから微力ながら思うことを言ったまで。

それにそんな願いを叶える物好きな神様もいないだろうし。

未来じゃどうか知らんが今は夢で逢えるだけよしとしようや。じゃな」手を軽く上げて駅に入り改札を通る。話をしている内にいつの間にかいつも別れる駅まで来ていたようだ。

その背を見つめ「……久しぶりに行ってみるか」とポツリと呟き自転車に跨った。

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