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根無し草王子  作者: 佐藤 皆無
辺境の地、キル
3/10

別れの期間

「ってことだ。OK?」

『それが事の顛末だな』

 ライズはエンスに事の顛末を全て伝えた。

「ああ、判決の権限を奪ったんだろう?」

『だから、魔獣の発表は控えろ、と?』

「ああ」

『なら、お前は一度スタンディング王国に戻ってこい』

 エンスは淡々と告げる。

「ヤダ」

 しかし、ライズはキッパリと否定した。

『ダメだ。もし、戻ってきたらお前の友達の罪は消してやる。お前の罪は消さないがな。それから発表もしない、どうだ?』

 エンスのその条件はとても魅力的だ。だが、ライズにはまだすべきことがある。

「でも、こっちにも準備があるんだよ」

『わかった。五日後にその村を出ろ、いいな?』

「あ、ああ。わかった」

(五日って結構あるな。準備は一日で終わるとして……)

 電話を切る。

「ライズ様。お帰りになられてたのですか」

 執事、スワード・オルン。ライズの親代わりの執事、女の方だ。とはいっても年齢は27だが。

「スワード、悪かったな。昨日は」

「いえ。何か用事があったのでしょう? あと、許して欲しい事が」

「なんだ?」

「フィルがまだ起きてなくて……」

 フィルというのはもう一人の男の方の執事、フィル・ザーマリーだ。

「フィルが? 珍しいな。勿論許すが、何故起きてない?」

「それは……」

「スワード、隠し事は無しだろう?」

「失礼しました。実は昨日、ライズ様のお帰りをお待ちして、夜更かしを」

「いつまで?」

「わかりかねますが、フィルの事だからライズ様を見るまで安心しないと思うのですが……」

 エンスに電話した時、実はフィルは見ていたのだ。

 ライズはそれに気付き、理解する。

「わかった」

 返事をすると、ライズは倒れる。というか、ずっと前から倒れそうだったのだが、ずっと堪えていたのだ。

「ら、ライズさまぁっ」

 スワードの狼狽した声。

「ああ、スワード。寝てなくてな。心配する、な」

 闘いの疲労で倒れたライズは必死に言い訳を言って、眠った。


「ここは」

 ライズが起きると、そこは二階にある自室のベットだった。

「起きましたか」

「スワード、ずっとここに?」

 スワードはベットの近くにある椅子に座っていた。

「勝手に失礼しました」

 スワードはそう言って立ち上がる。

「いや、いい。そのまま座ってくれ」

「はい」

「あの、フィルは?」

「一階で休んでます」

「そうか」

 ライズは手を伸ばして、スワードの座っている椅子のすぐ近くにあるテーブル、その上にあるハンカチを触った。

「濡れてる。涙か?」

「…………はい」

「心配かけて悪かったよ」

「そんな、ライズ様に悪い事など」

 スワードの言葉にライズは少し笑い、言う。

「本当は、どう思っている?」

「もう、心配をかけさせないで下さい、と」

 スワードは恥ずかしそうに言った。

「そうか。ありがとう」

「いえ、では失礼します」

「ああ」


「おはよーー」

 寝ていると、すぐ近くに声が聞こえる。

(おかしいな、フィルもスワードもこんな乱暴に起こさないぞ?)

 目を開けると、シームがいた。

「うわぁ、なんで部屋いんだよ」

「えぇ? 昔はいつもいたじゃん」

何時いつの話だ!」

「うう」

 ライズは部屋の時計を見る。12:00、長針と短針はそう示していた。

(おはようってよりはこんにちはだな)

「ああ、見回りか」

「いや、今日はお見舞い」

「そ、そうか」

「そうだよ~、おかゆ、作ってきたんだ。良かったらどうぞ」

 シームはおかゆをテーブルに置く。

「え? お、おう」

「どうしたの? 不審だよ?」

「失礼だな」

「だってホントだもん」

 ライズは恥ずかしげに言った。

「いや、昨日あんな事があってよく平気っつーか、普通だなって」

「あんな事? ああ、噛まれた時は」

「それもだけど、その後のき……あれだよ」

 キス、と言いかけてやめるが、シームには伝わったようだ。顔が赤くなっている。

「でもあれだぞ? あれはお前を救う為であってだな」

「ああ、うん」

「あの時は、ホント心配した」

(そういえば、スワードもあれくらい心配したんだろうか)

「うん、ごめん」

「いいけどな。心配したけど」

「う……」

「ああ、おかゆ、作ってくれたんだろ? ありがたく貰おう」

「うん」

 幼馴染なんてのは長い付き合いで、その分、喧嘩も衝突も厭わなくなる。

 ただ、そんな彼らでさえも、今まで積み上げてきた全ての信頼を覆しかねない接吻については、禁忌として会話しない事を暗黙の了解としていた。

(幼馴染でも、言えない事ってあるよな、いや幼馴染だからこそ、か)

 彼のその想いは長く付き合えば付き合うほど、言葉を少し間違えるだけで致命傷となりえる、そういうことだった。


 学校。

 キュースは寝むそうな友人を見かける。

「よぉ、タスク。随分寝むそうだな」

「まーなー」

 タスク・シェル。キュースにとって、普通の友人。特別仲が良いという訳でもない。

「どうしたんだ? 遅刻なんて、珍しいじゃないか」

「あー、キュース。昨日の夜、何かあったか?」

「いや、なんにも」

 その会話に事が露見したかの確認が含まれていたとキュースは気付かない。

「そうか」

「どうしてだ?」

「いや、なんでもねえ」

「でも、そーいやさ。ディスメルってなんで学校休んだんかな?」

「なんで、気になるんだ?」

 その言葉に慌てずに返す。

「ああ、そういうんじゃないからな? あいつが休んだのは初めて見たっつーだけ」

「ふーん、そういやお前はよく休むもんな」

「お前、仲良いし何か知ってるんじゃないのか?」

「いんや。知らねえな」

 一瞬見えた動揺。そのタスクの変化をキュースが見逃す事はなかった。

「そうか」

(何か、知ってるのか)


『キュース。順調か?』

 何も無い所から音が聞こえる。

「エンス様ですか。通信王術っすね。俺それ嫌いなんすよ。はたから見れば俺ずっと独り言っすよ?」

『周りに誰かいるのか?』

「もちろん、いないっす」

『だろうな。で、調査の方は?』

「いや、俺はエンス様の弟さんと面識ないし、あっちゃ行けないすよ? できるわけ」

『会ってもいいぞ?』

「え?」

『会ってでも調査しろ。お前はライズが何故キルから出たのかを調べればいい』

「なんでそこまで?」

『先手をとっておくべきだからだ』

「それだけ!?」

『ああ、そうだ』

「それだけで俺の労力は……」

『お前には頼みやすいからいろんな事を頼んでしまうのだ』

「ちょっ」

『ではな』

「あ」

(くっそ)


 タスクはディスメルに話しかける。

「ディスメル、用がある」

「うん、だろうね。私もある。ねえ、どうして発表されないの? 私が魔獣を発見したこと」

「それは、俺とその友達が魔獣を殺したからだ」

「え? ちょっと待って、そんなのおかしい。いや、そんな」

「まあ、驚くのもわかる。お前が見つけた魔獣は、ケルトだろう?」

「ゴメン」

「いや、ケルトは殺した」

「え? 中級魔獣だよ?」

「ああ、仲間が一人死にかけたけどな」

「うん」

「だから、お前には仲間に会ってもらおうと思ってな」

「わかった」

「それから、お前の吐いた嘘は仕方ないと思うぞ?」

「うん」


「シーム、今日はその、ありがとな」

「へ?」

「おかゆとか、さ。感謝してるよ」

「あ、うん」

「なーんてね」

「えー」

「まあ、感謝はしてるけど」

「うん!」

「なんでキスしたらお前が治ったかはよくわからないんだ。悪いな」

「いや、だいじょーぶ」

 二人に一人の男が近づく。

「おー、楽しそうだな」

「あんたは、えっとアール・フェルトさん?」

「アールで言い。ライズ君。判決は王族が決める、しかしそれとは別に警備隊が動く事もある」

「何?」

 ライズは警戒する。警備隊が動く時、それは、

「つまり、スカウトだ」

「へ?」

「スタンディング王国から聞いた話じゃ、事情は知らないが中級魔獣のケルトをたお、いや殺したんだろう?」

「ああ」

「どうだ? 警備隊に入らないか? お前の今、任されている仕事は警備隊と重複ちょうふくするんだろう?」

「うーん。無理だ」

「何故?」

 慌てて答える。

「な、なんとなく」

 ライズは警備隊までやると、シームと会う時間が減ると思ってやらなかったのだ。

 あと五日しか会えないのだから。

「フ、そうか。なら、いい。じゃあな」

「あ、ええ」

「それから、俺の弟には仲良くしてやってくれ」

「弟なんているんですか?」

「ああ、警備隊の暗黙部隊という所に所属していて、表側に明かさない仕事をしているんだが」

「アールさんは?」

「俺は普通のだ。下級ロー中級ミドル上級ハイの内の中級階級ミドルクラスの剣士。まあ、俺なんてのはどうでもいいけどな。重要なのは弟だ。じゃーな」

「?」

「なんだったんだろうね?」

「さあな」

 意味深な会話の後、すぐにまだ別の男が近寄ってくる。

「どーも、キュースでーす」

「あ、えと。アールさんの兄ですか?」

「いや、違うな。キュース・デルタだ。よろしく」

「ん? お、おう」

「いや、お前と同い年だぜ?」

「へえ。そうなのか」

「んで、タスクが仲良くしてるからよ。俺も仲良くなろうかなってさ」

「タスクの知り合い? ってことは」

「ああ、タスクと同じ学校の生徒だ」

「へー、そうなのか。俺はライズ、よろしくな。こいつはシームだ」

「よろしくお願いします」

「シームちゃんとライズの名字は?」

「それは……」

「あはは……」

「う、まあいいや。よろしくしてくれよ~」

「なんか、良い奴だな」

「うん」

「気にしてるか?」

「何が?」

「なんでもない」

「いやぁ、ごめん。わかってた」

「うん」

「気にしてないよ」


「名字が無いなんて事」


「……そうか」

「だいじょーぶだよ」

「あの、帰るか?」

「ライズは、さ。さっきからずっとここで動かないよね? ここで誰かを待ってるの?」

「ああ」

 精一杯の勇気を振り絞りシームは言う。

「それは、恋人、とか? なんて。いや、いいんだ。無理に言わなくて」

「いや、タスクを待ってるんだ。お前にもどうせなら居て欲しいけど、疲れたなら」

「え? なーんだ。居るよ」

「そうか」

(いきなり暗くなったり明るくなったり、昔からこういう所あるよな)

「おい、ライズー」

「タスクか。その女の子?」

「ああ、魔獣を発見したディスメル・ターンだ」

「よ、よろしく」

 緊張と罪悪感が入り混じった震えた声を聞いて、シームは明るく挨拶する。

「うん、よろしくね。私はシーム」

「俺はライズだ」

「あの、ごめんなさい。魔獣はケルトなんだ。モームじゃなくて」

 その言葉にライズは答えない。

「でも、倒しに行くなんて知らなかったからでしょ?」

「それは……」

「で、ディスメルさん。あんた本当に興味があっただけで村の外に出たのか?」

「……違う」

「じゃあ、何故」

「ちょっとライズ、初対面じゃ言いにくい事も」

 シームの言葉を遮る。

「あるだろうが、言ってもらう」

「強引じゃない?」

「かもな。でもお前は死にかけたろう?」

「それはディスメルさんの所為じゃないよ」

「ああ、だから八つ当たりになるかもしれない、だけど理由くらいわかんねえと許せねえんだよ。お前が死にかけたんだぞ?」

「いや、私の所為であってるよ」

「ディスメルさん……」

 シームは悲しそうに言った。でも名前を言っただけで、否定も肯定もしなかった。

「私が村を出たのは」


 帰り道、シームとライズは並んで帰る。

「シーム、どうする?」

「うーん」

「まあ、言わなくてもわかるけどな。助けたい、だろ?」

「うん」

「じゃあ、助けるか」

「でも、ライズがやらなくても」

「お前だけでできるわけないだろう?」

「それは、そうだけど」

「じゃあ、やるぞ」

「うん!」


「私が村を出たのは、私の親が村のすぐ外に魔獣の餌を落としてしまったの」

 タスクが言う。

「ディスメルの親?」

「うん、商人をやっていてね。だから拾いに行こうと思って」

「で、餌を喰いにきたケルトに襲われた、と?」

「うん」

「そうか」


「ああ、シーム。やるにしても、タスクがまた一人でやらないようにしなきゃな」

「うん。一緒に、だね」

(あとどれくらい一緒に居られるだろう?)

「ああ」

 夕暮れ、ライズの悲しそうな顔にシームは気付く。

「どうしたの?」

「いや、なんでもないっ」

 ライズは元気なフリをして笑った。

 シームはその笑顔が作り物だとわかって、

「そっか」

 それでも何も言わなかった。

新キャラは多いです、すみません。

それぞれがそれぞれの立場で動くので、ここからはいきなり何人も新キャラがでるような事はないかなーと、思います。


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