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第一話 初夏の風香るあの日

 昨日までの『私』が崩れ落ちていった。

 まるでもろいガラスのように。


「もう、部長をやめてくれないか」

 そう顧問に言われた。


 正直、それくらい覚悟の上だったから、どうってことなかったけど。

 でも、彼にふられた時はさすがに苦しかった。



「なあ、これ、盗ろうぜ」

 駅前の小さな雑貨店に私と彼氏の圭一は学校をさぼって来ていた。

「何いってんの。そんなの……」

 突然の彼氏の言葉に私が動揺すると、彼は何とはなしに気軽に告げる。


「じゃあ別れる?」

 私にとってその言葉はナイフのように鋭く突き刺さった。答えは決まっている。いつもそうだから。



 私の手は自然と商品に向かっていた。




「まさか君がそんなことするとは思ってなかったよ」

 担任の阿佐辺がため息をついた。

 私も、まさかそんな事することになるとは夢にも思ってなかったけど。


 そして、あっけなく私の青春は破れてしまった。

 むなしくなるほど、あっけなく。



「やっぱさあ、俺等合わないんだよ」

 圭一は本当に軽く言った。癖なんだろう。もうちょっと重々しく言ってくれたっていいのに。

 そんな軽く言われてしまうと、私の圭一の溝が明るみに出てしまうから。


 こうして、私たちは別れを迎えた。

 6月の初夏の風を受けながら……

 でも、心が晴れることはなかった。当然だろう。

 周りは私に対して一気に冷たく接す。親も友達も担任も……そして頼みの綱だった圭一でさえ。

 

 誰でも言いから傍に来てほしかった。

 私が私でいられなくなってしまうから――


 彼と出会ったのはそんなどん底の時だったから、本当に塵のように飛んでしまいそうな記憶。

 


「黄昏っていうのも悪くはないけど、とりあえずそこのいて」

 私が駅のホームにしゃがんでいると彼が声をかけてきた。

 そんな言葉にも飢えていた私には、久しぶりの温かい人の温もりを感じられるだけで嬉しかったのだ。そう。

 だからそのときほっとした。


 私はとりあえず、彼の言うとおりにした。今考えればいろんな人に迷惑をかけたと思う。

「どうかしたわけ? 桜井サン」


 彼はごく自然に、私の苗字を呼んだ。

 私は、まだ気づいていなかった。


 運命の歯車の作動に……

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