死者の散歩?
まだ物語は動きません。まったり進みますが、お付き合いください。
左胸に決して綺麗ではない風穴が開いてるのを確認し、ようやく現実を直視する事に成功したオレは、ひとまずそれまで寝転がっていたゴミ山から下りた。
ゴミ山にはやはり、瓦礫のほかにも骨や腐った物体が混じっていた。この一山だけで、いったいどれだけの死体や人骨が埋まっているのかと考えると、ゾッとしない。
そんなことを考えつつ地面(らしき物)に降りてみると、山の上よりも苔による光が溢れている事に気がついた。どうやら地面のほうが多く群生しているらしく、山の頂上まで光が行かなかったようだ。
「へえ~、結構多く生えてんだナ~。養分が一杯あるからカ?(死体とか)」
そんな割かしどうでもいい事を呟きながらも、ふらふらと山々の間を縫って歩いてみる。
どうやら自分が降りてきた山は規模が小さい方だったらしく、他の山々には天辺が見えないぐらい高くなっているやつもあった。
そして、面白かったのは山によっては積もっている物体に若干の違いがあったことだ。
例えばつい先ほど通り過ぎた山では、壊れてはいたが椅子やテーブル、タンスや本棚といった家具がメイン。そして今目の前に見える山には、ボロボロではあるがローブやシャツ、スーツなどの衣服類が多く積み重なっていた。
どうやらこの山を形成した人物(居るかどうかは知らないが)は変な所で几帳面なようで、多少の異物は混じっているが(人骨とか瓦礫とか死体とか)ある程度は仕分けされているみたいだ。
その事実に思わず笑ってしまったが、オレからしてみれば勝手につれて来られて勝手に仕分けされて積まれたわけだから、本当は怒るべきだったのかもしれない。
ちなみにオレが居た山は主に死体や人骨などが集められていたようだった、畜生。
さて、そろそろ山による違いを探すのも飽きたし、とりあえず何か真新しいものは無いか探してみようか。
――ガシャガシャゴシャメジャ!!
そう思っていると、今の今までほぼ無音だった空間にいきなり、何かがぶつかり合いながらも落下してくる音が頭上から聞こえてきた。
「うオ!?」
思わず驚いて顔を上げる。するとそこには丁度、右隣に積もっていた山にガラクタや人の形をした物がまるでよう滝のように落下し、積み重なっていってる光景があった。
オレは唖然としてその光景をみる。その無機物で形成されている滝は、闇の空の彼方から降り注いでいるようだった。発生源は確認出来ず、依然として騒音を響かせながらそのゴミ達は山にへと降り注いでいた。
オレはただただ、その不思議で異様な光景を、端から見たら笑える感じなぐらい唖然とした表情で眺めていた。
滝が止んだのはそれから僅か数分後で、あれだけ五月蝿かったのがまるで嘘のように収まり、耳が痛くなるくらいな静寂が辺り一面に広がる。
オレはと言うと、先ほどのあまりの光景でいまだに呆けていた。
なにせ、水ではなく物質が滞りなく、ソレこそ滝のように降り注いでいたのだ。記憶が飛んでしまっている身なので断言出来ないが、普通ではまずお目に掛かれない光景だっただろう。
それほど、先ほどの光景は記憶の無いオレにとっては衝撃的であり、同時に、どうか納得したような心持になっていた。
なるほど、山状にゴミが重なっていたのはこの為か。確かに、上から降らせばそりゃ嫌でもこうなるだろう。
となると、オレもあのゴミ達のように落ちてきて、最初寝てた山に居たのか。しかし、下手すりゃ埋もれたまま出てこれなったかもしれない。いや、高確率でそうなっていただろう。
そう考えると俺は運が良かった方なのか。こんな場所にいる時点で良かったも悪かったも無いと思うが。
「こりゃ、ほんとにゴミ捨て場みたいだぁネ~。」
ため息を付き、暗闇が広がる宙を仰ぎながらポツリと零す。
冗談半分で言ったゴミ捨て場だが、先ほどの光景を見る限り、此処はそれに近い場所のようだ。
少なくとも、僅かに残っている記憶となぜか残っている生前の知識を照らし合わせても、死者をゴミ扱いし、瓦礫やらガラクタやらと一緒に捨てるような習慣などオレの回りには無かった筈だ。
そして墓とは普通、死者を棺桶に入れて地面に埋め、その上に墓石が立ってるものを言う筈。その点、此処はとても墓場とよべるようなものでは無いように思えた。明らかに死者をゴミ扱いしてるし、なにより他の瓦礫や白骨を混ぜている時点でおかしい。
仮に、此処がもし墓場だとしたら、この世界の常識は色々とおかしいと思う。オレの感性が間違っていないことを祈る。
・・・というか、オレも既に死んでいる訳だから、せめてまともな方法で埋葬して欲しかったと思いますぜ?いくらなんでも。
ただまあ、死因となったであろう胸の風穴を考えると、明らかに普通な死に方はしていないと思う。なにせ心臓が抜き取られているのだ。どうやったらそんな死に方をするのか想像すら出来ない。
それとも世界の常識では、死者の心臓を抜き取る風習か習慣でもあったのだろうか?少なくともオレの残っている知識にはそのような情報は無いから違うと思いたい。
「・・・ま、うだうだ考えてもしゃーないカ。」
現時点では無駄な思考に嵌る前に気持ちを切り替える。
此処が何処だろうが、捨てられた理由が何だろうが、死因が何だろうが、とりあえず脇において置く。
今はとりあえず、此処から出る方法を探すのが先決だ。いつまでもこんな場所にとどまる訳にもいかないし、他にやることも無い。
そう意気込み、オレは再び歩きだした。出口を求めて。
さて、次からいよいよ行動開始です。主人公の居る場所についても後々明かすつもりなので。気長にお付き合いくだされば嬉しいです。