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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

感情

作者: 瓜タカシ
掲載日:2025/10/09

 少年がいた。少年はとても頭が良かったが、感情というものが分からなかった。考えれば考えるほど頭の中で具現化から離れていき、ますますふわふわしてくる。何かこの意識は自分のものではないようなそんな気さえしてくるのだった。いつからそのようなことを思い始めたのかは分からない。だが、言えることは自分は普通の人とは違うということだった。

 少年は産まれた時から親を知らず、孤児院で育った。そして少年は十五になった時旅をした。旅をすれば何か感じられるかもしれないと思ったからだ。お金はもちろんないから、弱そうな人を見つけては襲った。食べ物も人や店から奪った。ある時は逆にやられたりもしたが、少年は気にしなかった。というより何も思わなかった。少年はただ一日一日をロボットのように生きた。

 十七になった少年は人里から離れて旅をするようになった。自然から何かを感じられるかもしれないと思ったからだ。山を越え、川を越え、谷を越え、また川を越え、少年はとにかく進み続けた。毎日が新しい生活だった。ある時、山道を歩いていると、銃を持った人たちに止められた。何を言っているのかはよく分からなかったが、とにかく自分はここから先には進めないらしい。少年はそこで思い出した。小さい頃孤児院で聞いたことがある。この世界は国によって分けられている。国が隣接する国境というところには自由に出入りできないように警備員という人が見張っていると。少年は新たな旅を望んだ。感情を望んだ。そこで少年は国境を越えることにした。少年は見張りのいない険しい山を登った。文字通り断崖絶壁だった。そこには警備員がいない代わりにどこが国境かはよくわからなかったが、とにかく山を越えたからここは隣の国ということになるだろう。少年は自然の中では感情を見つけられないことを悟り、もう一度人里を目指して歩いた。しかし、森は深い割には食料がない。水も川は汚く、とても飲めるものではなかった。少年は仕方なく歩き続けた。しかし、一向に人里は見えない。それから少年は五日間ほど飲まず食わず歩き続けた。意識が朦朧とする。少年はもうじき動けなくなり、死ぬことを悟った。死に対する恐怖はなかったが、感情を知らずに死ぬのはだめだと思った。そこで少年は身を川に委ねることにした。木を重ねてつるで結び、小さなイカダを作った。そして溺れないように仰向けになって、イカダと体をつるで固定した。そしてイカダと一緒に自分の身を流した。運が良ければ誰かに拾ってもらえる。そして少年はイカダの上で意識を失った。

 少年はベッドの上で目を覚ました。一日ほど経って状況をある程度理解した。一応作戦は溺れたこと以外は上手く行ったようだった。状況はこうだ。少年は女に溺れているところを救助された。そして女の家で三日間ほど介抱され、目覚めたようだ。女は夫と五つの息子の三人暮らしらしい。そして、少年はその家で家族の一員となり面倒を見てもらうことになった。

 八ヶ月ほど経って少年は言葉もある程度喋れるようになり、生活にも慣れていった。そしてある程度現状も理解した。ここは八千人ほどが住んでいる町で、差別されている人が集められている。理由は詳しくは分からなかったが、宗教的な理由らしい。それでもなお町民は結束して教会を作り宗教を信仰しているらしかった。少年はみんなに習って宗教を信仰した。というよりは周りに合わせた結果そうならざるを得なかった。差別を受けているとはいえ、そこまで身をもって体感する出来事はなかった。そして少年はまたそこでしばらくの時を過ごした。

 少年は二十五になった。変わったことが二つあった。一つは食べ物があまり手に入らなくなったことだ。物価が異様に高騰したのもあるが、流通している量自体も少なくなっているらしい。そしてもう一つは、今までは普通に生活をしていたが次第に周りに避けられるようになっていったことだ。少年は感情がない代わりにある程度の経験や常識によって行動をしていたが、それだけでは難しい部分もあったのだった。そんな中でも家族は少年のことを十三になった実子と同じくらい可愛がった。しかし少年は相変わらず感情を見つけられないままだった。

 夏のある朝、少年は慌ただしい音で目を覚ました。聞くところによると隣国、もともと自分が来た国と戦争をすることになったらしい。最近の食糧事情もそういう事情があったからだと初めて分かった。国の方針で二十歳以上は徴兵されることになっていたが、この町では差別の影響で全員参加が義務づけられた。少年はそこで初めて差別を経験した。もちろん少年も含めて、町民はみんな訓練など受けたことがないのでとにかく進軍の指示通り進んだ。少年は家族と共に行動をした。戦争が始まって三ヶ月が経った。町民の顔には疲れが見え始めていた。何人か見なくなった町民もいた。途中の銃撃戦で殺されたのかもしれない。家族は全員無事だが、弟が精神的に参ってしまって毎晩のように泣いていた。少年には泣いている理由がよく分からなかった。だが、両親が慰めているのを見て少年もそれに習った。

 そして夜寝ている時だった。懐かしい言語の怒鳴り声で目覚めた。敵に奇襲されたのだ。町民らは瞬く間に囲まれた。少年を含めみんな死を悟った。しかし、彼らはすぐに殺そうとはしなかった。むしろ、殺しを楽しんでいるようだった。まず、町民の半分ぐらいが斧を持たされた。少年の家族は選ばれなかった。敵はカタコトの言葉で一対一で殺し合いをして生き残った奴だけを助けてやると言った。そして、少年たちはそれを見物させられた。みんな泣きじゃくって阿鼻叫喚の嵐だった。少年は胸がドクンドクンと波打つのを感じた。それは初めての経験だった。殺し合いが終わった後、勝ち残ったものたちもまた殺し合いをさせられた。約束と違うじゃないかと叫んだものもいたがその場で射殺された。そしてそれは最後の一人になるまで続けられ、残った一人も結局は射殺された。見物している残りのものらは叫ぶのもやめて、放心状態だった。少年はさらに心臓が波打つのを感じた。その後、敵兵は笑みを浮かべながら少年らを含め残りのものをグループに分けた。分け方は身内同士が多かった。少年も家族という塊で一緒に分けられた。弟が泣きじゃくるのを父も泣きながら慰めていた。母は放心状態であった。そんな中、敵兵が少年に錆びた包丁を渡してこう言った。これでこの三人を殺せ、そうしたらお前だけは助けてやる、と。少年はどうせ自分も殺されるんだろうと思った。しばらくの間少年は動かなかった。すると敵兵が苛立ったように少年の手を掴み、こうするんだよと言った。その直後、父の胸に包丁を突き刺した。父が冷たくなるのを感じた。少年の腕は震えていた。敵兵は同じように弟も殺した。そして放心状態の母に向かって、笑みを浮かべながら、目の前で夫と子供を殺される気分はどうだいと言った。その瞬間少年の目から涙が溢れ出ていた。少年は驚き、これが悲しいという感情なのか、怖いという感情なのかと悟った。そして次の瞬間少年は自分の体が震えていることに気づいた。これは悲しみや恐怖によるものではないと分かった。次の瞬間少年は顔を真っ赤にして叫んだ、とにかく叫んで叫んで叫んだ。同時に少年は包丁で敵兵を滅多刺しにした。そして、敵兵を殺した後、少年は母の元に駆け寄った。直後少年は異変に気付いた敵兵によって母と共に撃たれた。少年は消えゆく意識の中で家族との思い出を逡巡した。

 そして少年と母は死んだ。死んだ後も少年の目からはまだ涙が溢れていた。母の胸の上でぐったりしているその表情はどこか満足そうだった。

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