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自分は非力なので誰かに頼って生きていきます

作者: アロエナガ

初めまして、アロエナガと申します。

今回は少し日常・SFを書いてみました。

短編ですが、 もしよろしければ見てください!

時期は八月、 日差しが強く入り込み教室の中は汗の匂いで充満している。

窓から聞こえるのは、 耳を鋭く突き刺すかのような蝉の鳴き声。

エアコンの冷房を付けていないと、 とてもじゃないが倒れしまう。

現に私は持ってきていた水筒の水を全て飲み干した。

とても涼しい空間にいるのに……

「ねぇねぇ聞いた? 今日……転校生が来るんだって!」


「う、 うわぁ⁉️」


机に伏せていた私の目の前に、元気な笑顔を向けた恵那がいた。

あまりにも急に来るものなので、 大きい声を出してしまった……

我ながら恥ずかしい……

こんな私を、 恵那は特に気にしない様子で

「美桜、 聞いてる? 大丈夫?」

と首を傾げている。

なんで元気があるんだろうと、 不思議に思う。

私の友達の恵那は、 髪が腰まで長く全体的に金髪。

なのに毛先だけ青い……

最初会った時は外国人なのかと思ったけど、 驚くほどに母親は日本人だった。

驚くほどに青髪の女性、 毛先の青はこの人だとすぐ分かった。

だが父親の姿は見たことがない……

……仲がいいから気になってしまうのか、 関係を深めたいから気になってしまうのか。

はっきり言って謎のままだ。


―ムギュッ!


恵那は私の頬を摘み眉を顰めながら

「聞いてるの、 美桜! 心配してるんだよ?」

と聞いてきた。

考え事に夢中になりすぎて、 返答するのを忘れていた。

「ごめんごめん、 ちゃんと聞いてるから離して!」

私は涙を浮かべながら訴える、 思いの外痛いのだ。

涙の訴えに恵那も手を離す。

「皆さ〜ん、 時間なので席に座ってください。 これからホームルームを始めます」

同じタイミングで、 先生が元気よく声を出して教室に入ってきた。

恵那は先生の言葉通りに、 自分の席に座りに行く。

……と言っても前の席なので、 あまり変わらないが……

他のクラスメイトも続々と座る。

彼女が言っていたことは本当なのだろうか?

少なくとも当時の私は不安で一杯だった。

先生は教壇に立った後、 何か笑みを浮かべながら

「唐突なのですが、 これから転入生がきます!」

と恵那と同様に笑顔で言った。

……恵那の言葉は本当だった。

クラスメイト一同が先生の言葉にざわつく中、 私は恵那の肩に手を置き小声で

「なんで分かったの? 今日……転校生が来るって……」

私の言葉に恵那はにっこりと笑い

「……後でね!」

と口に人差し指を作った。

恵那の様子に一瞬戸惑いながらも、 後で聞こうと思いその場は聞かなかった。

先生が転校生について離し出そうとする……


コンッ、コンッ、コンッ。


扉を三回ほどノックするのが聞こえた。

ノックの音に聞こえたのか、 先生も慌てた様子で

「ちょっと待ってね、 すぐ扉開けるから……」

扉の先にいるだろう転校生に返答し、 私たちに視線を向ける。

「はい! と言う事で早く皆に会いたいらしいので、 拍手で迎えてくださいね!」

先生は笑顔で私たちに話すと、 「入っていいよ」 と合図を送る。


扉が開くと同時に中に入った人は、 目つきが鋭く細身、 そして焦げている茶色の髪型で特徴的だった。

……なんでだろう?

私はその男性を見た時、 一瞬心がキュッと閉められるような感覚が走った……

初めて会うのに、 どうしても目が離せない……

そんな独特な雰囲気を纏っていた……

これが恋なのだろうか……?


「緊張するかもしれないけれど、 自己紹介をお願いできる?」

先生の言葉に、 転校生は静かに口を開く。

「……宮部倫。 以上だ」

彼は自分の名前を言うと、 先生に促される間も無く私の隣の席に座った。

まるで、 分かっていたかのように流れるまま。

私はそんな彼に思わず見惚れてしまってる。

「おい、 何をジロジロ見ている…… 気持ち悪いぞ」

「あ、 ご……ごめん……」

視線を感じたのか、 彼は私の思いを突き放すように言う。

多分、 第一印象は最悪だろうな……

ずっと見られていたら、 気持ち悪いよね……

少なくとも私はそう思った。

「君ねぇ!」

突如、 恵那が飛び上がるように立ち上がり彼を睨む。

両手を強く握り、 身体を震わせて……

近くにいたクラスメイトも恵那の方に振り向く。

三年間、恵那と過ごしてきたがこんな彼女を見た事がない。

怒りに任せて何かすると思い、 私は恵那の 手を握り

「いいよ、 恵那。 大丈夫だから……事実だし……」

必死に止めようとする。

どんなになっても、 今は止めなきゃ……!

受験生になって、 暴力沙汰で高校受かりませんでしたは絶対に良くない。

恵那も私の顔を見たと同時に、 私の手を握り返して

「良くないよ! だって気持ち悪いって言われたんだよ⁉️」

と真剣な眼差しで私を見る。

友達の為に怒ってくれている事は感謝している。

でも、 だからといって自分の人生を棒に振るのは……‼️

私の気持ちを汲み取ったかのように、 彼は恵那に言い返した。

「……当然だ、 ずっと見られて気分が良くなるわけない」

彼の言葉を聞き、 恵那は

「……あ、 それもそっか。 確かに怖いね……」

とさっきまでの怒りを鎮めて納得した。

そしてそのまま席に座り直す。

私は誰にも聞こえないように、 彼に感謝を伝える。

「……ごめん、 ありがとう」

「次からは気をつけろ」

彼は平然とした様子で注意を促した。

その言葉に小さく頷いたが、 それでも彼のことを見てしまう。

好きなタイプ……ではないけれど、 何かを感じる。

「え〜、 紆余曲折ありましたが……これにてホームルームを終わります」

汗を垂らしながら先生はホームルームの終わりを告げ、 教室から出て行く。


こうして私の平穏な日常は消え、 新たな風が未来を押した。


倫が来てから一ヶ月の時が過ぎた……

九月になろうとも、 まだ日差しは強く熱を籠らせる。

度々髪や服を揺らす風が、 ほんの少しの涼しさを感じる程度。

前なら九月頃に入ると多少、 涼しくなるはずなのだが……

地球温暖化のせいなのだろうか……

もしくは機械化が進んでいった代償なのだろうか……

「……本当に暑いなぁ」

私は独り言を呟きながら、 学校の通りの登り坂を歩く。

右を見れば、 同じ学校の制服を着た人が友達と楽しく道路を走っている。

ロードバイクやママチャリ、 異例として何故かMTBで来る人もいる。

近くに山があるので、 部活で使うのだろうか?

こんな暑い中で歩かせるというのも、 おかしな話だと思う。

ただでさえ体が弱い私に……

「おはよ〜! 美桜〜!」

後ろを振り向けば、 後ろから恵那が手を振りながら走ってきていた。

それはもう……、 とてつもない速さで……

私はすぐに横へ避けようと、 体を傾けようとする。


―どすんっ!


誰かにぶつかった感触がした。

横を振り向いて見れば

「おい……、 何をしている……」

倫が眉を顰めながら私を見ていた。

私は咄嗟に謝ろうとするが、 時が悪く……

「わわ! ちょっ! どいてぇ‼️」

「きゃあああーー‼️」

結果、 恵那と正面衝突してお互い倒れた。

恵那は大した怪我は無く、 ぶつかって尻餅をついただけだが……

生憎私は、 軽いため勢いのままに地面に背中を強打した。

まだ登校していないというのに……

一部始終を見ていた倫も、 ため息を吐きながら手を貸してくれた。

私は倫の腕を掴みながら、 なんとか立ち上がる。

しかし……痛いものは痛い。

必死に涙を我慢しながら、 恵那に顔を向けて

「次は……、 思いっきり走ってこないでね……」

と言葉を返した。

恵那も反省した様子でこくりと頷き、 私たちは学校の門をくぐる。

だが、 誰かが私たちを見ていた事に誰一人気付かなかった……


「……そこにいたのか、 倫。 やっと見つけたぞ……!」



§§§



学校が終わり、 珍しく倫と一緒に同じ帰路を歩いていた。

今日はどうもついていない……

だが倫について意外な一面を見れた。

朝で起きた出来事もそうだが、 数学の授業中……先生に当てられた時、 私は答えることができなかった。

倫は授業を聞いて、 恵那はスヤスヤと寝ている。

唯一話せそうなのは倫だけだが、 初対面の時からすでに嫌われていると感じる……

実質話せるのは誰もいない……

そういえば、 過去に「二次方程式なんて、 コツさえ掴めば答えれる」 と恵那は話したが……

前期末のテストで唯一赤点を取ったのが、 数学だったのだ。

しかも特に苦手な二次方程式。

こんなのわからないよ……

どうしようかと気を落ち込みかけた時

「この問題はX=1±√7だ」

倫は当たり前のように私の答えを言った。

え……? なんで……?

私が思っている事を代わりに言うように、 先生も倫の態度を指摘する。

「あのぉ……、 倫くん? 私は美桜さんに当てたんだけど……」

「答えは合っているだろ?」

倫の覇気に押されたのか、 先生は

「はい……! 正解です‼︎」

と小動物のように震えていた。

凛が私を助けてくれた……?

と倫に対して少し好意を感じたと思うと、 倫は着席したと同時に鋭い眼光を私に向けた。

目を見ればわかる……

次は答えろ、 と……

それから特に悪いことはなかったが、 なぜ助けてくれたのだろうと少し興味が湧いた。

どうにか……話せないかな……?

私は思いきって倫に口を開いた。

「あ、 あの……。 倫くんは好きな場所とか……無いの?」

人生で一番声を出した日だと思う。

特に男子に対しては初めてだ。

だが、 倫は顔色ひとつ変えず

「特に無いな」

とキッパリと返した。

「そ、 そうなんだ……ごめんね、 変な事聞いちゃって」

私は申し訳なさそうに倫に謝る。

少しでも話せないかと思って口に出してみたが、 思い通りにはならなかった。

少しばかりか、 気まずい雰囲気になったと感じた。

これ以上いたら、 倫に申し訳ないな……

そう思った時、 倫は私の行動に何かを感じたのか

「……だが、 嫌いな場所はある」

と呟いた。

予想外の言葉に私は倫に振り向く。

けど、 顔はずっと真顔のまま……

でも目を見ると、 少しだけ悲しそうな眼をしているのを感じた……


倫と帰っていると、 帰路の一つである花屋の前を通る。

私の家の近所ではないが、 とても人気が高く世界中の花を取り扱っている。

だが学校に行くならと、 私はこの道を通るのだ。

今日も季節に適した花を売っている。

だが、 倉庫みたいな大きい建物の前になぜあるのかはネットで調べても理由はわからない。

一部の記事では、 そこで花を栽培しているのではないかと噂されている。

私は特に思わず近寄り、 外に置かれている向日葵を見る。

「わぁ……綺麗な花……、 倫も見てみたら?」

私は倫にも見ないかと促す。

だが、 倫は立ち伏せていた。 まるで石像のように。

ただ花を見ている私を見たまま、 その場にいる……

私は思わず倫に駆け寄る。

「だ、 大丈夫……?」

近くに駆け寄って見れば、 倫は呼吸が荒くなっていた。

そして顔をよく見れば、 今日の朝みたいに眉を顰めている。

「大丈夫? 倫? 具合が悪いの?」

何度も声をかけても、 体はぴくりとも動かない。

どうすればいいのだろうか……

私は思わず、 鞄の中に入っている携帯を手に救急車を呼ぼうとした……

「君が心配する必要はない、 彼は私と再会するのは決まっていた」

長い髪を持つ、 私より身長が高い男が声をかけた。

その男は何処か凛々しく、 そして独特の雰囲気を纏っていた。

倫と会った時の雰囲気とは違く、 例えるなら騎士の雰囲気を纏っていた。

男は私に声をかけた後、 サングラスを外し

「君は平日、 私の店の前を歩き必ず花に声をかける女の子だね……」

花屋の店主を名乗る人は、 私の顔を見るなり語りかけた。

不意にも「はい、 そうです……」 と言ってしまう。

私の答えに口角を上げ、 店の中へ入って行こうとする。

ちょうどその時、 倫が一歩前に行き

「レイン・パルファキア……! 生きていたのか‼︎」

と店主を鬼の形相で睨んでいた。

こんな倫は初めて見た……

「……倫、 相変わらずお前は変わらんな。 元気そうでよかった」

レインと名乗る店主は、 倫の顔にも臆さずに言葉を返した。

そして花を一つ手渡す。

「……なんだこれは」

「これはジャスミン、 今のお前にはぴったりだろう」

レインさんの手渡そうとするのを、 倫ははたき落とす。

はたき落とされたジャスミンを見ても、 レインさんも顔色を変えず

「あまり外で乱暴なことはするなと言っているだろう、 人目があるしな……」

「お前に言われる筋合いはない、 特にお前のような奴には……!」

お互い普段じゃ見ない顔をして話している……

二人の雰囲気に、 とてもじゃないが間に入ることができない……

だけどこのままなら、 喧嘩が起こりそうな気配は感じ取れる。

私も倫と同じく一歩前に出て

「喧嘩はダメですよ! ダメなんです!」

と声に出した。

倫は私の声に反応したのか、 表情を変える。

レインさんも一瞬だが、 眼を見開いていた。

その後すぐに表情を元に戻したが、 何かを感じ取ったのか口角をあげた。

「……お前には、 新しく守るものができたみたいだな……倫」

と何処か嬉しそうな顔をした後、 私たちに店の中に促すように促す。

少し強張ったものの、 せっかくの機会だと思い中に入ろうとする。

レインさんは多分……悪い人ではないような感じがしたから……

私が中に入ろうとすると、 突然誰かに腕を捕まれる。

振り向いて見れば、 凛が私の腕を掴んでいた。

「どうしたの……? 倫……?」

私の問いに、 倫は少しずつ口を開く。

「……すまないが、 暫くこうさせてくれ」

と小さい声で私に言った。

さっきまでの倫とは違く、 どこか寂しそうな雰囲気を漂わせていた。

私は倫に手を掴まれたまま、 レインさんの店の中に入る。


様々な種類がある店の雰囲気とは違い、 レインさんの部屋は暗かった。

真っ暗という程ではないが、 どこか光源が弱く一種のお化け屋敷にいるような感覚だった。

それもそのはず、 レインさんの部屋は地下にあったからだ。

それでも……、 地下ならもっと明るくしないだろうか……

その時の私はそう思った。

レインさんは先程淹れた紅茶を、 私たちの前に置く。

その紅茶からは、 嗅ぎ覚えのある匂いが漂う。

「これ……ダージリンですか?」

「あぁ、 ダージリンにはストレスを緩和する効果がある。 学校終わりの君たちには丁度いいだろう」

私はレインさんに感謝の言葉を述べた後、 一口づつ飲んだ。

倫も同じく紅茶を飲もうとするが、 お湯の温度でカップを持つことができていなかった。

今日は色々な倫を見るな……

倫の反応を見たレインさんも、 私と同じことを思ったのだろう。

二人して含み笑いをした。

その様子を見ていた倫は眉を顰め

「何を笑っている……、 そんなに面白いか……」

と文句を言っていた。

……倫も文句を言うんだ。


暫く時間が経ち三人が紅茶を飲み終わった後、 私はレインさんに尋ねる。

「なんで私たちを、 部屋に呼んだんですか?」

私の問いに、 レインさんは先程までの優しい顔ではなく真剣な顔を向ける。

そして胸ポケットから幾つかの写真を取り出した後

「美桜……、 君は今日の事を他言しないと約束できるかい?」

と私に問いを投げた。

真剣な顔を見せるレインさんに驚きながらも、 首を縦に振った。

「私、 倫をもっと知りたいんです。 お願いします」

レインさんは私の態度を見た後、 写真を見せた。

「………え?」

そこには、 銃とナイフを持った倫の姿があった。

体は傷らだけで、 所々傷から血を流していた……

「これ………倫、 ですか………?」

わかっていながらも、 私は質問した。

「……あぁ、 そうだ。 そこにいる倫だ。 写真の傷は私がつけた」

レインさんの言葉と共に倫に顔を向けると、 倫は悟ったかのように眼を瞑っていた。

……本当なんだ。

でも、 なんで倫はレインさんが嫌いなんだろう……

私は思い切って聞いてみた。

するとレインさんはな懐かしむように下を向き

「簡単に言えば敵だったんだ、 だから彼は酷く私を嫌っている……倫の家族を奪ってしまったからな……」

と言葉を返した。

倫にも大切な家族がいたんだ……

と思いながら続けて写真を見ていると、 そこには倫の姿をした男があった。

「これ……誰? 倫の兄弟……?」

私は思わずそう呟いた。

すると、 私の言葉を聞いた倫が写真を取る。

そしてその写真を見て放った一言

「誰だ……こいつは……、 俺は会ったことがないぞ……?」

今まで見たことがなかった、 倫の驚いている姿。

その表情を見て、 思わず息を飲み込んだ。

そしてレインさんから、 唐突に告げられる……

「彼は、 倫の兄でありクローン……覇道倫だ……」

レインさんの言葉に、 私は驚きが尽きない。

今日で何回驚いたんだろう……

レインさんは続けて言う。

「覇道倫は……、 この街を戦場に変えるつもりだ……。 美桜……君にも家族がいるだろう……、 今のうちに遠くに避難しておいた方がいい……」

心配と決別を示すように、 レインさんは私に言い放った。

私は彼の言葉に一瞬、 理解ができなかった……

けど……、 倫が元兵士だったことを踏まえると、 一般の私には逃げることしかできない。

しかも体が弱いから……

私はレインさんの言葉に、 従うことしかできなかった……

「はい……、 わかりました……」

私の答えに、 レインさんは何処か意味があるように頷いた。

気づけば時刻は五時半……

私は家に帰る支度をする。

「ごめんなさい……、 先に……帰らせていただきます……」

私はレインさんに帰る事を伝え、 階段を上る。

だが上っている時……、 一瞬だけだが窓から一つの突起物を見る……

その形は銃の形をしているが、 暗すぎてあまり細かくは見えない……

なんだろうと思いながら、 花屋から一人で帰路を歩く。


「見つけた、 君が倫のガールフレンドだね?」


突如、 首筋に痛みが走る……

誰かに斬られたのだろうか、 もしくは刺されたのだろうか……

さっきまで鮮明だった意識は、 痛みを境に少しずつ無くなり……

気づけば私は、 何かの衝撃と共に歩道に倒れていた……

そして何かも知らない痛みと共に、 私は意識を失う……


§§§


レインと倫は美桜が誰かに襲われ太ことを知らぬまま、 二人で覇道の事で話していた。

レインは倫に美桜についてのことを問う。

「時に倫……、 お前は美桜を妹と重ねている……だろう?」

「……何が言いたい」

「今日のお前の態度を見てわかった、 お前は不器用だな」

レインの言葉に、 倫は眼力を強くする。

「変な冗談を言うな、 今日が命日になるぞ」

「……そうだな、 減らず口が過ぎた。 だがこれだけは言いたい……」

レインは再度淹れたであろう紅茶を飲むと、 倫を見て

「私は今回の件で死ぬつもりでいる……、 贖罪のつもり……とは言わないが、 これも一つの運命だ、 命を懸ける」

と真剣な目で言い放った。

その姿はまるで死に場所を見つけたような眼差しだった。

レインの言葉。 そして決意の宿った眼に、 倫は血相を変え感情のままに机を叩く。

「お前にはそんな資格はない! 俺の妹を殺したお前に、 そのような資格が……‼️」

「……そうだ、 私にはその資格がない。 だからこれは勝手にやらせてもらう」

全てを賭けた瞳。 倫はその覇気に押され、 何も口を出す事ができなかった。

その静寂の時間は暫く流れ、倫は階段の窓に見た物について話す。

「窓から見たあの機械は一体なんだ……、 俺と戦った時はあんなものは無かったはずだ……」

レインは少し口角を上げ、 期待について語り出す。

「あれはあの戦争の後、 私が独自に作り上げた機体だ。 少なくとも何億は消えたがな……、 だが性能は全て覇道が作ったモノよりは確実に上だ。数はコイツ一機だけだが」

「お前……本気なんだな……」

「あぁ‥…だが、 もし仮に生き延びたときは……」

言葉を最後まで聞く前に、 倫は部屋の扉に手を掛けていた。

そして扉を開くとき、 レインの顔を見て階段を上る。

倫もまた、 同じように窓越しに映る機体を見て

「……死ぬなよ」

と呟いた。


§§§


どれくらいの時間が過ぎたのだろう……

数十分……? 数時間……?

私は長い間、 気を失っていた……

……あれ、 ここは……?

眼を見開いてみれば、 目の前には町を映す窓ガラス…;

そして辺りを見渡せば、 廃墟のような場所だった。

物静かで無限に影が伸びる景色……

あまりの光景に、 私は声をあげそうになる。

「あれ、 もう起きたんだ。 早いお目覚めだね……」

背後から声が聞こえる……

声の方向に体を向けようと、 動かそうとする。


―ギシッ


何かに拘束されているようで、 動かない……

暗すぎる為何に縛られているのか、 まるでわからなかった……

そして声も出そうとすれば、 口に何か入れられて思うように顎も動かない……

私は今、 何もできない状況にいる……

一部始終を見ていた声は、 クスクスと笑い声を上げながら

「ダメだよ……、 下手に動けば君は死ぬんだ。 そこで大人しくしててね」

足音を鳴らしながら、 近づいてくる。

誰かもわからない状況……

少なくとも私は恐怖に満ちている……

そして声の正体が私の前に来たと同時に、 先程まで隠れていた雲が晴れ月光が照らし出した。

そして月光により映し出された姿は、 私の予想とは大きく外れていた。

なぜなら、 その男は白い帽子を被った白髪の少年だったからだ。

目元までは見えない、 だが顎の形や喉は倫そっくりだったのだ。

「ふふ……、 びっくりした? 僕の格好! どう? 綺麗でしょ?」

男は全身を見せるように、 何回も体を回す。

上から下まで白色の服装をしているが、 所々黒を織り交ぜている。

男は鼻歌を交えながら、 私の口の中に入っていた物を取り出す……

「……おぇ、 ゲホッ……ゴホッ……」

私は思わず咳き込み、 顔を下に向ける。

そしてもう一度、 辺りを見渡す……

男の手に握られていた物……

いや、 口の中に入っていたものは、 犬用のボール……

そして手首や足首には縄で括り付けられていた。

「なんで今このような状態になっているか、 気になるかい?」

男は私に向かって、 笑顔で問いかける。

でも私は早く、 家に帰りたい……

こんな所には……、 ずっといたくない……

「わ、 私を……家に帰らせてください……」

不意に出た言葉はこれだけだった……

すると男は足音を大きく鳴らし……

建物内に響くほどのビンタをした。

そして右手で私の顔を掴み

「僕が先に質問してるんだ、 普通答えるよねぇ? そんなに可愛い顔をしても手加減とかしないから……」

と言い放った後、 顔を掴まれたまま

「……もう一度言うね? なんでこの状況になっているか知りたいよね?」

私は流れるままに

「……は……ぃ……」

とまともに話せない状態で男に言う。

だが顎を掴まれているせいで、 しっかりと発音ができなかった。

その事に男は再度怒り、 今度は左手で喉を掴み右手で頬を殴った。

貧弱な私は拳を直に受け、 勢いよく右を向いた時には口から歯を飛ばした。

男は荒い息を整えた後、 窓に体を向け

「もういいや……、 君に聞いても無駄だってわかったよ……もう面倒臭いから全部話しちゃうね……」

と男は言った後、 懐から一つのボタンを取り出す。

そして見せびらかすようにボタンを持ち

「今から君たちの街を滅茶苦茶にするんだよ……!」

と言い放った瞬間、 ボタンを押した。

直後に地面が激しく揺れ、 地面から人型の機械が飛び出る。

この光景を男は高笑いしながら、 私に近づき

「さぁ……! 一緒に見よう! 君の街が壊れる姿を‼︎ 真っ赤な火の海になる景色を‼️」

と再び顔を掴まれ、 見たくもないような景色を見せられる……


「嫌……、 嫌ぁ……‼️ やめてぇ……‼️」

私はただ、 泣き叫ぶしかできなかった……

これから起こるような悲惨な光景を、 見るしかできない……

涙を流したまま、 光景を見ていると……

街から一つの光が見えた。

その光は徐々に近づくと共に重音が轟く……

私はすぐに気づいた。

「レイン……さん……」

私は思わず口に出した。

その言葉に男は、 酷く焦っていた様子を見せ

「な、 なんで街から兵器が……‼️」

と怖気つく様子で、 その場から離れた。

「動くな……動けば撃つ……」

私の背後から聞き覚えのある声……

「……ごめんね、 倫……」

私は後ろにいるであろう、 いや間違いなくいる倫に謝罪の言葉を送る。

唯一の逃げ道だった部屋の扉から、 倫は静かに近づいてくる。

そしてやっと視界から、 倫が見えた時には……

身体中に枝が刺さっていた……

「倫……そんな傷で……、 どうして……」

大粒の涙を流しながら、 倫に震える声で問いかける。

以前と変わらず倫は、 手に持っていたナイフで縄を切りほどき

「かすり傷だ、 それに……」

私の拘束が解かれた直後に、 前のめりに倒れる身体を抱きしめ

「お前には散々世話になったからな……、 おかげで退屈しなかった」

と耳元で囁かれた。

あまりの反応に、 私は顔を真っ赤にしてその場に崩れ去る……

だが窓に視線を向けてみれば、 レインさんの機体が機械を次々と破壊している。

だが数では機械の方が優っており、 最初は押していた戦況も徐々に劣勢になっている。

手に持っていた銃の弾が尽き、 レインさんの機体は慌てて後退し戦況を整える。

私がその光景に見惚れていると、 倫は上着を被せ視界を遮らせた。

「少し待っていろ……美桜、 すぐに片付ける」

倫は私にそう呟いた後、 静かにその場から離れた……


§§§


倫はポケットからボタンを取り出しボタンを押す。

直後、 さっきまでいた扉が爆発し通路を塞いだ。

「そんな……唯一の逃げ道が‼︎」

男は塞がれた扉を見て焦った様子で声を発した後、 感情に任せるように倫の方を向く。

だが振り向いた先には倫はいなく、 慌てて足元を見ると既に懐に入っていた。

「この国では殺したらまずいからな、 拘束させてもらう……」

倫は男の鳩尾に肘を突き刺し、 右手でアッパーを突き出す。

流れるように二つの攻撃を受けた男は、 子鹿のように震えながら倫から距離を離す。

男は吐血しながらもなんとか状態を戻し、 倫を見つめる。

そして何かを考えついたように口角をあげ

「そういえば……君は彼が殺したと思っているようだけど、 君の妹は……僕が殺したんだよねぇ‼︎」

と挑発するような言動で倫を煽る。

怒りの感情を抱いたまま、 地震に接近するところを攻撃するつもりだったのだろう。

だが、 その挑発の答えは一発の銃声だった。

突然の銃声に驚いた男は、 撃たれた場所を確認するように身体を見る。

だが、 どこにも傷はなかった。

「あれ……傷、 無い……?」

安堵し今一度倫を見た男は、 再度フェイントに引っかかってしまう。

倫は先程と同じく男の懐に入り込むと、 今度は抱くように突進する。

勢いのまま男を床に倒した後、 馬乗りになり拳を振り続ける。

男は腕で防御するが、 体重が乗っている倫の猛攻に耐えきれず姿勢を崩す。

腕には無数の痣があり、 このまま殴り続ければ骨が折れる程弱っていた。

男にはもう抵抗できないと判断し、 腰に挟んでいた縄で腕を拘束する。

「ちょっと待てよ! 僕はお前の兄だぞ‼︎ 家族に向かって……やめろよ‼️」

男の言葉に、 倫は拘束していた縄を離し拳に力を入れ

「お前は家族じゃない、 俺の妹を殺したお前に資格がない‼️」

と男の顔面に渾身の一撃を放つ。

鼻は見事に潰れ、 男は穴という穴から血を垂らし気絶する。

倫は身体を起こし、 男の体を拘束している。


§§§


「もういいぞ、 服をどかしても……」

倫の言葉通りに、 服を手に取り背後を見る。

そこには、 拳から血を流した倫の姿があった。

「倫……! 大丈夫……?」

私はすぐ、 倫のそばに駆け寄る。

同時に、 窓ガラスに最後の機械を破壊したレインさんの機体が見えた。

大した外傷はなく、 機体の中心部分のハッチが開く。

そこにはスーツに着替えていた、 レインさんの姿があった。

そして私たちを確認した後、 手に持っていたコードを兵器の指に括り付けそのま馬窓ガラスを蹴破り入ってくる。

倫に顔を向け

「覇道の捕獲に成功したのか……?」

と作戦の確認をする。

倫は男の身柄を担ぎ

「あぁ……これで俺の復讐は終わった」

倫はそう呟いた後、 レインさんの兵器に持って行こうとする……


その時、 何かが作動するような音が聞こえる……

一番近い倫が、 その音に即座に気付き男の身体を離す。

そして……私に覆い被さる……

男の体から、 なんとかレインさんの元に移動はした……

けど、 その出来事は一瞬だった。

男の体が爆発し、 私たち三人は爆発に巻き込まれてしまった……

勢いのまま私たちは、 窓ガラスから落ち地面に激突する。

そしてあの時と同じように、 意識を失った……


§§§


あの事件から翌日、 私たちはなんとか一命を取り留めた。

家族や友達の恵那は、 私のことをすごく心配していたけど……

私が一番心配していたのは倫とレインさんの事だった。

昨日のように、 また険しい雰囲気が漂うのかと思ったが……

「私のスティアは無事なのか……?」

「問題無いようだ、 あの機体は修繕された後レインの元に帰ってくるようだ……」

「そうか……あれは特別だからな」

「しかしデータは多少抜かれるようだ、 研究材料に欲しいと……」

「……無傷では帰ってこないのか」

と昨日までの空気が今では、 快く話せる友人の関係になっている。

倫が守ってくれたことにより、 二人に比べて軽症だと先生が言ってくれた。

と言っても、 運ばれた病院は特殊で先生も個性的だった。

私が意識を戻した直後、 目の前にあったのはベッドやカーテンなどでは無く木で造られた仮面だった。

その後先生は仮面を取り微笑んではいたが、 一ヶ月以上は残るトラウマだった……

それでも、 なんとか無事に帰れたのは不幸中の幸いだったのだろう……

少なくともその時の私は、 そう思うことにした。


「こっちだよ〜、 倫!」

「大声を出すな……浮かれるぞ」

「何二人っきりで話してるの? 早く行こうよ!」

時は冬、 雪が積もる季節。

私、 倫、 恵那は三人で志望校の合格通知を見ていた……

元々は二人で行こうとした学校だったが、 気づけば倫も同じ場所だったのだ。

私たちが行きたかった高校は、 簡単に言えば自分のやりたい事ができる場所。

なんでもできる事はないが、 数多くある部活数は日本の中では一位に輝く。

なので何かに熱中したい人達は皆、 この高校を受けるのだ。

恵那はアメフトをするために……

倫は心理学を学ぶために……

そして私は、 この高校で楽しいと思える物を見つけるために……

「そろそろ見える距離だな」

「私受かってるかな……、 心配だよ」

「大丈夫だって美桜! 散々復習したでしょ!」

不安と期待を膨らませながら、 私たちは前列に進む……


合格者発表の中には、 私たち三人の名前が書かれていた。

その場で恵那と飛んで喜び、 倫はそれを見守っている……

そしてこの気持ちを話すために、 私たちはその足でレインさんのいる場所に出向く。

「合格しました、 レインさん!」

「そうか……、 なら祝いに胡蝶蘭を渡そう。 気にするな、 金は取らん」

「やったー! ありがとうございます!」

と暫く話に花を咲かせ、 それぞれの帰路についた……


あの件以来、 私は心が少し強くなったと思った。

しかし、 だからと言って慢心するつもりはない……

合格したところで、 私がやりたいことはいまだに決まっていない。

だからこそ、 あの場所で何かできるなら……

自分で言い張れるぐらい、 熱中できる物に出会いたい……

そう思いながら、 歩いていると私と同じ女子二人、 男子一人の集団とすれ違う。

私たちと同じだな……

そう思いながら、 私は家の玄関の扉を開け帰宅する。

だが……、 通り過ぎた後……

その彼女達と高校で出会うとは、 思いもしなかった……


「恵那もあの高校に合格したのか……、 まあアタシは知ってたけど」

「そうだね、 これで皆でアメフトができるね」

「でも流石にもう一人欲しいよね、 頭が良い子で頑張り屋さん」

「そんな奴、 今の世の中にいると思うか?」

「流石に夢見すぎか……、 でも良いと思うな〜」

「でも恵那なら、 その子を連れてくると思うな。 少なくとも僕はそう思う」

「お前が言うならそうだな、 なら期待するかね……」


読んでくださり誠に感謝申し上げます。

ここまで読んでくださった方々には感謝しかないです。

感想や評価を頂けたら幸いです。

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