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短編まとめ

乙女ゲームのヒロインに転生したんですけどここから助かる道はありました

作者: よもぎ

アイリ・ミルトスは転生者である。

前世でプレイ済みの乙女ゲームに酷似した世界に転生していたが、しかしアイリは少しだけ賢かった。


(乙女ゲームのヒロインとかに転生は死亡フラグ!!)


己の実家の爵位も男爵家と低い。

元々裕福な商人が何かしらやって爵位を賜って、という経緯があるから裕福な部類に入るのでまさしくお嬢様ではあるが、しかし、爵位は底辺なのである。

そして乙女ゲームのヒロインちゃんは大抵男爵家か子爵家のご令嬢と話が決まっている。


名前は憶えていなかったが、乙女ゲームらしいピンクブロンドに緑の瞳。唇の近くにぽちっとある黒子。

外見だけでも覚えがあるし、家名は強制で変えられなかったので記憶にあったのだ。

ヒロイン確定である。


しかし乙女ゲームへの転生は決してよいものではない。

地獄へ続く道であるとアイリは悟っていた。

主にネット小説のおかげで。


故に。

アイリは記憶を思い出した八歳の頃から、とりあえず未来が大丈夫なように頑張って逞しくなっておこうと思ったのだ。





そうして十五歳で入学となった時。

アイリは勉学に励みつつ、筋トレを頑張りまくった結果。

鉄扇令嬢と呼ばれ、恐れられる存在となったのである。



本人としては、貴族街を散策していたらよからぬ感じの令息にダル絡みされていた令嬢がいたので、その令息を手持ちの鉄扇でシバき回して追い返しただけなのだ。

その後、そいつは令嬢の婚約者だとわかったが、普段からああいう感じで鬱陶しかったのだそうで。

しかもしかも婿入りで格下の家の出ということも聞いて。

アイリは令嬢を伴って勢いのまま令息の家に殴り込みを仕掛けたのである。

そうして半べそでヒビが入った骨の手当などを受けている令息に、次は言葉での追い打ちをかけたのだ。


バシ、バシ、と掌に鉄扇を打ち付けながら、滔々と正論をぶちかますアイリ。

クッソ情けないベソかき面を晒しながら小声で何か言い返しては言葉の拳で殴り返されて言葉に詰まる令息。

そのクッソ情けない姿に欠片ほどはあった情も消えうせ、汚物を見る表情になる令嬢。

駆け付けた親たちは、その地獄のような有様を見て、そして娘息子の態度を見て、婚約はなかったことにしましょう。と言う結論を出したのである。



そうして、実は拗らせた初恋で酷い態度を取っていたクソムシ野郎な令息が、アイリは乱暴で口が悪い卑しい令嬢だと言いふらそうとした。

したのだが。

ほんのりと言い広めたところで彼女はまた家にやってきた。

今度は明確に鉄で出来ていると思しき、先日の「お上品だけど武器にもなる鉄扇」などでなく、きちんとした武器である鉄扇を持って。



「躾が足りませんでしたかしら。

 他家の人間でございますけれど乗りかかった船でございます。

 「真っ当な」令息になるまで本日は励ませていただきます」



事後。

完治、半年。それが医者の下した診断であった。




そういう経緯が令嬢経由で流布された結果、アイリは正義と審判の令嬢として名を馳せてしまったのだ。

本人は「どうして……?」とか思っている。

ただムカついたから正論パンチ(物理)をかましただけなのに。


その正論パンチは普通の令嬢はしないんだよ、と教える人が誰もいないのである!


結果、学園に入った後、揉めそうになると、



「ミルトス嬢をお呼びしてくるわ!」



と、低位貴族クラスのある方へ早足で急ぐ令嬢が続出するようになったのだ。なまはげかな?

それで、アイリを呼び出された結果、普段使いのライトな鉄扇で掌だの尻だのをぶたれたという生徒は多少ながらいる。

アイリはその辺、かなり力加減がうまいので、痣は残さないが痛みはしつこく残るというイヤなシバき方を知っているのだ。



そういうわけで、名物令嬢となりはしたアイリだが、出会いらしい出会いがないのにほっとしていた。

いや、同年代のまともな令息とはお友達になったのだ。

しかし乙女ゲーム的な憧れのアノ令息、みたいな存在とは無縁なのだ。

そしてアイリは塩顔が好きである。二次元ならともかく、リアルのキラキライケメンは息苦しいので嫌いだ。

なので令嬢同士で慎ましく殿方の話をしたりなどすると、皆がキャッキャしている令息にはまるで興味がなく、しかしアイリがステキ!と言う令息には誰も興味を持っておらずという食い違いが発生していた。


そして。

周囲は、そんなに好みなのでしたら! と、塩顔令息ことリオンとの関係を取り持った。

リオンはリオンで普段は礼儀正しく、しかし朗らかで人当たりも柔らかいアイリに心惹かれていたので、二人はぴったしくっついた。

ちなみに、鉄扇を持ち歩き、使うことがあることについては「アイリ嬢がダメだと思うことは大体僕もよくないなって思うことだから別に」とのことだ。



そうしてアイリは問題ごと解決人として名を馳せたのだが、半年ほど経過し秋が半ばになろうかという頃にそっと王家の紋章入りの封筒が届いた。

実家にではなく、クラスに。

しずしずとやってきた届け人は高位貴族なら連れ歩くことが許される侍女で、第一王女の侍女であると名乗った。

なにゆえに?と思ったがアイリは自らの評判を知っていたので、必要なのでしたらということで受け取った。


中には、婚約者ときちんと話し合いたいのにいつもヒートアップしてしまって話が半端に終わるので、どうか同席して私たちを導いて欲しい、とあった。

その際、完治半年までなら罪には問わない、とも書かれていた。

指定の日付は一週間後。

アイリはお気に入りの(とってもつよい)鉄扇を準備してその場に臨んだ。





結果として。

向かい合った二人をジャッジする位置に立ったアイリが見守る中、二人はぽつぽつと話し合った。

素直になりきれない令息。

ストレートに言われたい王女。

それをヒートアップする前に、二人の間にバッ!と広げた鉄扇を差し出し、どうどうと宥めるアイリ。

そうして二人の話を要約し、翻訳し、真意としてお間違えなくって?と確認し。

本来予定していたよりも一時間ほど長く話し合いをさせて、もうこれからは拗れぬだろうというところまで二人の距離を近付けたところでアイリはとっとこ帰宅した。

お金持ちなのに寮に住んでいるので、ちょっと遅くなっても門限までなら許されるのである。


それからアイリは色んなカップルを仲裁した。

王女お墨付きの翻訳係、仲介役である。

ある時は宰相の息子とその婚約者を、ある時は筆頭侯爵家の跡取りとその婚約者を、と、乙女ゲームの攻略対象としか思えない連中のコイバナをわっせわっせと取り持ちまくった。

これでも中身は成人女性である。

思春期の男女のアオハルなど朝飯前だったのだ。


もちろんリオンとは粛々と関係を深めている。

男女で寮が分かれているので門限のあとは交流できないが、ちょくちょく昼食を一緒に食べたり、放課後にカフェテリアで二人でお茶をしたり。

休日には二人で出掛けてあれこれ買い物をしたりもして。

ちなみにリオンはアイリと同じ筋トレをまだこなせていない。

半分くらいで「僕はこれが今限界……!」とへたりこんでしまうのである。

しかし筋トレの道は長い。

いつかは男性のリオンのほうが強くなると理解しているアイリは、優しい眼差しでリオンに休息をさせるのであった。



そんなこんな、すったもんだありながら三年の月日が経過し、卒業式も先ほど終わった。

婚約者であるリオンとは今日以降は自由に会えるし、学園で出来た友人たちとも文通の約束をしたしでアイリは幸せだった。

ふとした瞬間に「乙女ゲームっぽいイベント何一つなかったわね」などと思ったりはしたのだが。

そもそもそれをぶち壊して回ったのが自分だという認識は、結局ついぞ抱かなかったのである。


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