拝啓 目を閉ざした貴方へ
[マトリョーシカの中に。]
氷を素手で触っているかのようにピリピリと冷えるえる季節。
キラキラとしたイルミネーションがたくさん飾られる木々は、魔法の木のように輝いてる。
ー
「久しぶりだね。」
ガラガラと空いた病室のドア。
静かな空間に優しげな声が響いた。
光が差したドアの向こうにはダウンジャケットを見に纏った男。
首からはキラリと輝く指輪をつけたネックレスが下げられていた。
ひまわりのような瞳の先には、
目を固く閉じ、伸ばしっきりになった黒髪が散乱した女のベット…ただそれだけがあった。
「もうクリスマスだよ。」
ゆっくり歩きながら話し始める男。
その声色は今にも泣き出しそうだ。
「だから、プレゼントを持ってきたよ。」
「ほら」
コトッ
白いシンプルなトートバッグから出てきたのは、赤色のサンタクロースが描かれたマトリョーシカ。
メッセージカードには目が覚めたら開けてね。と小さく書かれていた。
「ごめん、もう限界なんだ。」
「……」
「一生覚めない恋だと思ってたよ。
だけどさ、もうあれから五年だ。君の綺麗な瞳が世界を写さなくなってから。」
「愛してるなんて、言わなきゃよかった。なんて思ってないさ。
でも、一人じゃ愛は存在しない。」
「僕だって…一生一緒に居たかった。でも…ごめんね」
そう言って病室を去る男。
コツコツとなる床。
悲しみを背中に背負い、もう二度と病室に足を踏み入れることはなく去っていった。
生気のなくなった部屋には、一つのプレゼントと残された病人の女、そしてシーツに一滴の水でできたシミだけが残されていた。
空は嫌というほどの快晴。
その日の夜。
雪が降るかもと言われていた夜空には、全てを飲み込むくらい一番星が綺麗に輝いていた。
それはもう、恐ろしいほどに……。
ー
狭い暗闇の中、キラリと輝く指輪が一つ永遠に眠っていた。光に当たることはなかった。
マトリョーシカの中には何を入れた?
いっぱいの愛と、一つの指輪。
サヨナラの挨拶。
後は、貴方がまた目を開けることを願った手紙。
僕は永遠に貴方を愛し、見守っています。
貴方の瞳に綺麗な世界が映りますように……。
その時、もう隣には居ないけれど。
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