出会い 5
腹が減ったカートゥーンを店に連れてきたレイ。
スララは店に入るのを躊躇っているようだ…。
からんからん…と上品なドアベルが店内に響く。
中では、屈強な男達が酒を飲み騒いでいた。
(客層は全然上品じゃねえな……。)
そう思いながら、席に着く。
しばらくして、美人な女性の店員が注文を聞きに来た。
その瞬間、スララの顔が一気に曇った。
「あれ〜?スララちゃんじゃ〜ん!
なんで最近店に来なかったんだよ〜この〜!
寂しかったんだぞ…?」
想像を180°覆された。
その口から放たれる言葉は『人の神経を逆なでするのが上手い奴』特有のそれだった。
カートゥーンが過去に出会った『そういう奴』の記憶が一気に蘇る……。
「あー、オーナー、腹減ってるんだ。
今日のオススメを3人分お願い。」
レイが言った。
スララはオーナーと呼ばれる女から目を逸らして黙っている。
「あいよ〜!スララちゃんもちょっとくらい返事してくれよ〜?」
「………チッ…」
低く舌打ちが響いた。
なるほど、この店員の喋り方、確かにこれはウザったいかもしれない。
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数十分後
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「あいよ〜!ミノタウロスの甘露煮、野菜スープ、パンとデザートにプリンだ!」
(ミノタウロス……って、上半身が牛で下半身が人間のやつか……。)
文化……というか常識の違いに、改めてここは日本じゃないということを感じる。
しかしどうでもいい、食えて美味いなら文化の違いも受け入れられる。
「……いただきます…。」
…しかし、そうは言ったものの、やはり知らない土地に来て始めての飯、というのはかなり怖い。
恐る恐るスプーンですくって観察する…。
見た目は至って普通の甘露煮、照明の光が肉の表面に映り、つやつやとした見た目が食欲を掻き立てる。
匂いは……やはり普通の甘露煮…いや、これは『美味い甘露煮』の香りだ。
しっかりと熟成された肉に、細かな調合で作られたタレの匂いが空腹を加速させる。
これは確実に美味い。そう確信したと同時に口へと運ぶ。
………美味い。
その一言では表せない味わいが一気に来た。
口に入れた瞬間に甘く香ばしいタレの味わい、そして良く煮込まれた肉の柔らかさ…。
ほどなくして、形を失ったその肉は、空腹のカートゥーンにとって
『この国の料理は美味い』と確信させるには十分であった。
誰よりも早く、カートゥーンは甘露煮を食べ終えた。
しかし、タレが余ってしまった。
そういう時のためにパンがある。
パンにタレを染み込ませ、口に運ぶ……。
溶け出した肉の旨み、タレの繊細な味わいが舌を酔わせる。
じゅわ…と広がった旨味の濃縮液に、カートゥーンの顔が綻んだ。
ちなみに、野菜スープとプリンも美味かったが、まあ普通だった。
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「……ご馳走様でした……。」
涙が溢れそうなくらい、美味い食事だった。あの女性店員の態度以外は★5を付けたいほどだった。
「そういえば…ここの支払いはどっちが払ってくれるんだ?」
なんとなく聞いてみた。
「ああ、それならスララが…」
「それならレイが………」
声が揃った。
まさか、二人とも奢られるつもりで来てたのか。
というかスララはどういうことなんだよ。
子供に奢らせるなよ、年上だろ。
「……あー……私の財布には5000ポンドルしか入ってねえな…。」
「ポンドル…ここの通貨か?」
「ああ、言ってなかったっけ。」
どうやら、ポンドルがここの通貨らしい。
どれくらいの価値なのか。
「5000ポンドルじゃ支払えないのか?」
「無理だなー…会計は15000ポンドルだ…。」
高っか。
いや、高いのかどうかもわからん。
それじゃあ一人当たり5000ポンドルってことか……。
「3人分で、45000ポンドルだな。」
「え、一人当たり15000?」
相当インフレしてるのか、経済状況がイカれてるのか……。
ともかく、スララじゃ払えなそうだ。
「……俺の財布には……建国記念硬貨と…カートゥーンからもらった紙しか……。」
レイ、お前の財布には金すら入ってないのか。
いや金は入ってる(俺があげた千円札)が、使えねえだろここじゃ。
心の中でツッコミが止まらない。
「仕方ねえ……『アレ』やるか……。」
スララがそう言って席を立った。
飲食店で金が無い時にやることっていえば……
「……皿洗いか?」
「『クエスト』だ。」
To be continued...⇛