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マリーゴールドを枯らして  作者: 燐火
塵燃ゆる
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エクスタ・ラ・ファティシエール

彼女、マキの半生を語るにあたり、僕ではない誰かが未来に得た情報も含めて、語らねばならない。そうでなければ、彼女の願いをを真に伝えることが出来ないだろうから。

未来から得た情報といったが、そもそも、語り手たる僕を描いているのは本物の僕ではなく、偽物の僕による僕を騙った虚偽が含まれていることは、事前に申告しておこうと思う。


さて、彼女の半生を一言で纏めるのであれば悲惨、その一言に尽きる。

皆さんも御存知のとおり、彼女には兄がいる。

堅忍力行、彼女がそう語ったとおり、彼は彼女に対して実にいい兄だった。

真面目で、勤勉な兄だった。


そんな彼女達の悲劇の始まりは、彼の優秀さにより引き起こされた。出る杭は打たれる。それを知らない彼ではなかったが、それを支えるバランス感覚には、経験値が足りていなかった。

言葉を知っていても実感を持って、飲み込めてはいなかった。


不条理の代償はあまりにも重かった。目をつけられたのが、国の重鎮の子供だったこともあり、彼の家は瞬く間に崩壊した。

優秀さが仇になり、彼の実直さでも覆せない、不条理だった。


彼の、彼女達の悲劇は堰を切ったようにとどまることを知らず、友を財を親を数々のものを飲み込んでいった。唯一彼が守りきれたものは、何よりも大事にしていた妹であった。


ただし、それを守る代償は、彼の命そのものだった。

周囲の嫉妬を読み切れなかった、読みきれず優秀でありすぎた。彼のそのちっぽけな罪は、周囲の全てを嫉妬の濁流に飲み込ませた。


彼女はその被害を一身に受けた、地位を親を金を、最愛の兄を喪った。それは彼女にとってこの世の全てだった。つまるところ、彼女の世界は瞬く間に崩壊した。

唯一、兄の愛。最後に兄から託された、せめて妹だけは健やかに。その思いで発動した、彼女を今後の世界から守るための魔法、その効果による兄の経験、知識をその身に受け継いで。



だから、だからこそ彼女はぴったしだった。僕への人身御供に、経験、兄への思い、何もかもが都合が良かった、この計画を立てた悪役にとって。

まるで、そのために彼女達の破綻が用意されたかのようにおあつらえ向きだった。

兄を失った妹、妹を目覚めることのない不治の病によって失った兄、まるで欠けたピースを埋めるかのような都合の良さだった。



「だから!だから、やめてくれ!君が望む道の先には、絶望しか無い!」

「そんなことは、ありません。そんなことだけは!言わせません!たとえそれが用意された道だろうと、私が誰かに操られていようと!そこには復讐があります!この思い!この願いだけは、否定させません!たとえ誰かに、操られていようとも!」

「そんな、そんな悲しい話があるのか?君の兄はなんのために、そんなことのために死んだわけじゃない!君の幸せを願って、最後の力で!希望で!願いで!兄の気持ちが分からないのか!」

「そんなこと、百も承知です…………でも!それでも!そんな兄の我儘聞く気なんかない!それを聞いて私に!ただ!?希望を叶えろと!?いったい何様なんです!?あなた達の願いはあなた達が叶えればいいでしょう!勝手に託して、勝手に死んで、そんな物叶うわけがないでしょう!私はあなた達の代替機じゃない!あなた達の願いなんて知ったこっちゃない!私は私の望む道を行く、兄を喪ったこの思いを世界にぶつけなずに、このままのうのうと生きてなど行けない!たとえ誰に騙されていようとも!!!」

「なら、俺達はどうすればよかったんだよ!どうしようもないこの世界で、何もできなくて、妹一つ助けれなくて!それでも救いたくて!最後のこの願いまで、捨てられるのかよ!………………あまりにも報われないじゃないか」

頬に伝う雫を妹がすくい上げる、まるで聖母のような慈しみの手で。

「そんな余計なことは、過分な願いは、誰も求めていないのですよ。私達はただそばにいていてくれればよかったのです。例え、泥水を啜っても、あなたの命より大切な物は無いのですから」

「……そんな、そんな事があるのかよ。俺らの矜持くらい……」

「それを我儘というのです。あなた達のプライドなんて、私達には一つも興味無いですわ」

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