名探偵
「ふーん、それで俺様ちゃんのところに来たんだ。可憐で聡明で儚げな最高の名探偵である俺様ちゃんのところに。
「一年も顔を見せかったくせにそんなつまらない相談で来ちゃったんだ。恋しくって、寂しくって、会いに来てほしかったけどなぁ。繊細な俺様ちゃんの心が傷付いちゃったらどうするんだよ。割れ物だぜ?
「でもさぁ、ねぇ、元助手ちゃん。いくら寛大な俺様ちゃんでも怒ろうってもんよ、名探偵に会いに来るのに手土産に謎を持ってこないなんて、天が許しても俺様ちゃんが許さない。
「そんな不条理まかり通る訳がないじゃん。名探偵に会うならそれっぽい事件と謎が必要だろう。何でまだ一人も死んでないのに来ちゃうんだよ。
「いくら俺様ちゃんが慈愛に満ち溢れているとはいえ、いくら仲良しこよしの関係だとはいえ、そんな風に使われると俺様ちゃんでも困っちゃうぜ。浅ましいなぁ、実に浅ましい。
「こんなレール上を走っているだけのつまらない話で、俺様ちゃんに相談するのは止めてくれよ。元とはいえ、俺様ちゃんの助手、もとい右腕だったんだぜ。俺様ちゃんとのただれた過去を思い出してくれよ。
「この一年間でこの街の馬鹿どもに寄りすぎだよ。元助手ちゃんが馬鹿なところを見るとまるで俺様ちゃんが馬鹿なのかと錯覚してしまいそうになる。
「怖い怖い、俺様ちゃんが自信なくして引きこもりになったらどうするんだよ、全世界の俺様ちゃんのファンが泣いちまうっての。
「俺様ちゃんの懐の広さを試してんのか?なんだ?俺様ちゃんへの試験か?不遜だね。烏滸がましいね。でもまあ、俺様ちゃんの助手の育成が失敗だったと言われるよりは、師匠に反抗的だと言われる方がまだ可愛げがあるね。再教育のやる気も出ようってものだ。
「えーと、えとえと、話を戻そうか何だったっけ、何も悩むべきところがなくて、君が何に悩んでたのか忘れてしまったよ。
「解決も何ももう詰んでるよ。盤面が完結してる。後はもう水のように重力にそって落ちてくだけさ、ひっくり返すもなにも、ファエちゃんにはひっくり返せないよ。動機がない。動機がなけりゃ何も起きるわけがない。
「いや、むしろこの場合はあるのかな。妹が助かる可能性を反対の天秤にぶら下げられたファエちゃんに、何かが出来るわけがない。いいんじゃない。この先の展開もおおよそ予想できるが悪いようにはならならいよ。
「犯人といって良いのかは微妙だけど、そこは丸めて犯人も、俺様ちゃんによれば、そのうち分かるんじゃないかな。
「ふーん、でもまあやっとわかった、何をしたかったのかわからなかったけど、そういうことか、途方もない努力家なことで。
「それに比べてとは言えないか、マキねえ、どっちもどっちだが君もまたネーミングセンスが悪いね。
「君の場合は俺様ちゃん達のせいとも言えるのだろうけど、そんな主張は傲慢だよ。最初に投げ出したのは君だろ、そんなひねくれてる君が悪いのさ。
「それをさしおいて、やれ思春期に変人しかいなかっただ?君それ口癖かい。実に都合の良い思考回路だな。
君は染めるのは簡単だが、染め直されるのも簡単なのは頂けないな。実際、俺様ちゃんの教育が欠片しか残っていないじゃないか。あー、やだやだ。
「それで何だっけ?実際のところ君はなんとも思っちゃいないだろ、たまたま組んだ仕事のパートナーが、少し傷ついて今後が不安だ、下手すれば自分の命が危うい。そんなもんだろ。
「下手を打たずにちゃんと逃げる準備もしている。一体これ以上何が不安なんだよ。状況が見通せないから?この世に状況を見通しせてるやつなんて僅かしかいないっての。不安だけで泣きつかれちゃ困ろうってもんよ。
「あ?挑戦的だな、起きる前に解決するのが本当の探偵だって?探偵を何だと思ってるのさ、たとえ死ぬと知ってても、それが俺様ちゃんの見せ場のためなら、防げても見殺すっての。
「そうでもしなきゃ、解決すべきことがなくなったらどうすんだっての。世界が順風満帆にまわり、名探偵が必要なく、代わりに、俺様ちゃんはおまんま食いっぱぐれ、転職活動で大忙し、わざわざそんな世界を自分から作るほどのアガペーは持ち合わせちゃないね。
「だいたいさ。人に助けを求める時の説明に、自分を出来るかのように語るのが許せないよね。何が後期クイーン問題だよ。たまたま、俺様ちゃんの助手してて知ってただけだろ。アドニスも知らないで、知識人ぶるなよ。
「んー、それにしても、君そんなにアホな能力だったんだな。皆と居るうちは使い勝手の良い体質だと思ってたけど、こうみるとグダグダだね。
「不満そうだね。ここまで文句を言われると思ってなかった?そんな事言われても、1年で落ちぶれた自分のせいだよ、人にその悪さを押し付けるのは良くないね。
「まあ悪口は置いといて、君の利益によりそって考えても余り助言もないんだよな。君の考えた通り多少俺様ちゃんに寄っとくといい。
「まぁ、しょうがないね、馬鹿だ馬鹿だとはいっても可愛い可愛い元助手だ、こうして、慕ってきてくれたことだしね。
「助言という言葉は誰か嫌なやつを思い出しそうで嫌なんだが、というか君はあいつに……は会えないな。そんなにみんなを敵視するなよ。悲しいねぇ。
「そうだね。助言しよう。君さ、魔法にあまり興味ないだろ、少しだけ説明したげるよ。あれね、実際のところ大したことないんだよ。そもそもさ、あー、元の世界でいい。人の願いが遂げられるために、唯一必要なのは何だと思う。そう動機さ。
「その動機、願いの強さだけが唯一願いを叶えることができる。んー、願いが叶うことどこかにあるゴール地点にたどり着くことに例えることにしよう。願いの場所を知るのが哲学や知識、願いに近づくための交通手段は、権力や金。交通手段を動かすエンジンが動機さ。
「動機さえあれば、極論徒歩で世界中歩けさえすれば、願いなんて叶うんだよ。実際はそんなことせず、先に乗り物を探すのが効率的なのだろうけどね。世の人々が常に効率的に動けることを期待するのは、蒙昧だね。
「話を戻すと願いが叶うために必要なのは、叶えたい気持ち、動機、強い願いだけだよ。
「叶うに足る強い願い以外をねだりと定義すれば、叶わない願いなんてこの世にないんだよ。
「叶わないならそれは願いじゃない。明日晴れたら良いなとか、何となくそうなればいいなとねだってるだけ、動機が足りない。
「そんな物は願いだと認められない。世の中への出力を伴はない、ただのねだりだ。無いのと変わらない。
「おっと、話がズレたね。少し戻すとね、魔法はこの例で言う、権力や金と一緒だ。動機を消費して、対価として心を差し出し、よくわからない法則で願いが叶う。
「こんなもので叶う願いは、元々叶うんだよ。動機はあるんだから、魔力とかいう謎エネルギーのお陰でちょっとその道が分かりやすく、歩きやすくなっただけだよ。
「だから、魔法に、人々の願いに気を付けなよ、この世界は願いが叶う速度が早い。その速度に取り込まれないように。
「それじゃあさようなら、早く帰って、新しい義妹ちゃんを安心させてやると良い、何、カマリの言葉を借りると私達は義兄妹なわけだ、今更異妹が一人増えたくらいで慌てるなよ。
「それとも、最年少の甘やかされポジションがそんなに大事か。心配するなよ器のでかい偉大なお姉ちゃんが、そんな心配する隙間もないほど二人を愛で包んでやるから。