群馬娘 VS 埼玉娘
──さあ、ノリに乗った第五試合。群馬娘 VS 埼玉娘の戦いです。イチローさん、どうですか? この二人の対決は。
「これは注目の戦いになりそうですね」
──注目の戦いですか。どんなところがですか?
「群馬娘といったら注目ですよ」
──だから、どんなところがですか?
「おや、【学校号令拳~群馬バージョン~】をご存じない?」
──学校号令拳は知っています。すべての都道府県娘が使える「起立チョップ」「礼アッパー」「着席頭突き」の三段攻撃ですよね。
「そうです。逆にメジャーすぎて誰も使いたがらない技です。しかし群馬娘はこの技を使うんですよ」
──学校号令拳をですか?
「【学校号令拳~群馬バージョン~】をです」
──それは普通の学校号令拳とどう違うのでしょうか。
「群馬バージョンは『起立チョップ』と『礼アッパー』の間に『注目エルボー』が加わるんです」
──『注目エルボー』ですか。ということは【学校号令拳~群馬バージョン~】は「起立チョップ」「注目エルボー」「礼アッパー」「着席頭突き」の四段攻撃になるんですか?
「そうです。『起立、礼、着席』で慣れている都道府県娘たちにとっては避けるタイミングが厳しくなるんですよ」
──なるほど。
「さらに言うなら、群馬娘には【百獣の王・サファリクラッシャー】というものもありますからねー。強いですよ」
──百獣の王ということはライオンをイメージした攻撃でしょうか。
「群馬娘は別名『獅子娘』とも呼ばれてますからね」
──群馬なのに『獅子娘』。食物連鎖はどうなっているのでしょう。さあ、そんな群馬娘が入場して参りました。
「穏やかな表情をしてますね」
──獅子娘とは名ばかりの、可愛らしい娘さんが入場してきました。イチローさん、本当に彼女が群馬娘なんですか?
「本物ですよ。普段は穏やか、獲物を見つけると獰猛になる。まさに百獣の王の化身です」
──そんな群馬娘に対抗する埼玉娘はどんな娘なんですか?
「かなりクセが強い娘ですよ」
──クセが強い娘ですか。
「見ていればわかります」
──イチローさんの言葉を信じましょう。さあ、そんな埼玉娘が入場して参りました。フリフリのドレスを着たお嬢様です。確かにクセが強そうだ。
「群馬娘に負けず劣らず可愛い娘ですね」
──おや? 埼玉娘、なんとオロオロと泣きだしてしまったぞ?
「埼玉娘はネガティブなんですよ。自信がなくなるとああやっていつもシクシク泣くんです」
──だ、大丈夫なんでしょうか。
「大丈夫です。いつものことですから」
──いつものことなんですか?
「いつものことです」
──さ、さあ。このままゴングを鳴らしたくはありませんが、これは都道府県娘バトル選手権。私も心を鬼にしてゴングを鳴らします。群馬娘 VS 埼玉娘、バトル開始です!
カーン!
──始まりました、群馬娘 VS 埼玉娘! いったい勝利の女神はどちらに微笑むのか!
「あ、いきなり群馬娘が歩み寄りましたね」
──こ、これは……! まさか漫画とかでありがちな泣いてるヒロインを慰める友情シーンの再現でしょうか!
「そのようですね。ハンカチを持ってますよ」
──あーっと、ハンカチだ! ハンカチを持っている! バトルが始まったというのに、群馬娘がハンカチを持って埼玉娘に近づいているーーー!
「これはうかつですよ」
──埼玉娘、群馬娘からハンカチを受け取ると嬉しそうにニッコリ微笑んだ! まさにドラマのワンシーン! まさに感動的な場面! 素晴らしき友情!
「からの」
──からの、なんとそこから強烈な左アッパ炸裂ーーー! しかしギリギリでかわしました群馬娘!
「見事に騙されましたね」
──イチローさん、これはどういうことでしょうか。
「埼玉娘はネガティブではあるんですが、開き直ってる部分もあるんですよ」
──開き直ってる?
「なんていうか、『自分はダメな人間だ。でもそこがいい』的な考えを持っているんです」
──め、めんどくさい娘ですね……。
「こういう開き直った人物は強いですよ」
──さあ、埼玉娘の不意打ちをかわした群馬娘。手にしたハンカチをしまうと、どこからともなく学校机を取り出した!
「どこからともなくすぎますね。どこにしまってたんでしょう」
──そしてこれまたどこからともなく学校の号令が聞こえてくるー!
「キーンコーンカーンコーンというアレですね」
『学校号令拳~群馬バージョン~!!』
──そして出たーーー! 群馬娘の必殺技【学校号令拳~群馬バージョン~】! 起立チョップに注目エルボー、礼アッパーと着席頭突きの四段攻撃だーーー! 埼玉娘、避けきれずにまともに食らってしまったーーー!
「さすがに避けきれませんでしたね」
──これは痛い! 痛いぞ埼玉娘! 今度は本当に痛そうに泣いている!
「普通は泣くだけではすまない攻撃なんですけどね。やはり埼玉娘の肉体もネガティブにも負けない高い防御力を持っているようです」
──身体的な防御力よりもメンタルのほうが心配になってきます、埼玉娘。群馬娘もやりすぎたと思ったのか、またもやハンカチを持って近づいていきます!
「いやー、まだ近づかないほうがいいですよ」
──心優しき、群馬娘。泣いている埼玉娘に「ごめんね」と言わんばかりの顔でハンカチを差し出したーーー! まさに美しき友情! 昨日の敵は今日の友といわんばかりの素晴らしき絆!
「からの」
──からの、そこから強烈な延髄蹴りーーー! 群馬娘、これもギリギリでかわすーーー!
「学習能力がないのでしょうか」
──さすがの群馬娘、2度も騙されては心穏やかではありません。見てください、みるみる顔つきが変わっていきます!
「獅子の心が目を覚ましましたね」
──穏やかな表情から一変、獲物を見つけた獰猛なライオンのように牙をむき出しました、群馬娘! これは怖い!
「例えるなら暴走モードでしょうか」
──息遣いまで荒くなっています、群馬娘! 今、獲物を見つけたライオンのごとく、低くて太い雄たけびを上げる!
「埼玉娘も『ごめんちゃい☆』って感じで謝ってますね」
──しかしそんな埼玉娘のテヘペロ作戦もどこ吹く風。群馬娘、獣の如く埼玉娘に飛び掛かるー!
「【百獣の王・サファリクラッシャー】ですよ! これは食らったら終わりですね」
『百獣の王・サファリクラッシャー!!』
──出たーーー! まさに全身を獅子の口に見立てた突進攻撃! 埼玉娘、ここで終わりかーーー!
「いえ、見てください」
──こ、これは……! 埼玉娘のまわりに突然風が吹き荒れ始めました! 風が吹き荒れて、そしていくつもの小さな竜巻を起こしている!
「風が語りかけてますねー」
──もしやこれは!?
「風の申し子・埼玉娘の【うまいうますぎるシリーズ】ですよ!」
──出たー! 埼玉娘の十八番【うまいうますぎるシリーズ】! まずは突進してきた群馬娘の攻撃を絶妙なタイミングでかわすー! これはうまい、うますぎる!
「そしてかわすと同時にデコピンを食らわせてますね」
──うまい、うますぎる! さらに背後に回って群馬娘にバックドロップーーー!
「本当にうますぎますよ、彼女」
──さっきまでのネガティブさはなんだったのか! ここにきて埼玉娘、本領発揮です!
「あーっと、群馬娘もふらふらしてますね」
──デコピンにバックドロップ。さすがに群馬娘も目を回したか! そこへすかさず埼玉娘のうますぎるドロップキック炸裂ーーー!
『うまいうますぎるドロップキック!!』
「【うまいうますぎるドロップキック】ですね。これはお見事。うますぎます」
──群馬娘、あえなくダウーン! 勝者はなんと埼玉娘ー!
「あ、また泣いてますね。こんな私が勝ってしまってごめんなさいと言ってるみたいです」
──放っておきましょう。
×群馬娘 VS 〇埼玉娘【決め技:うまいうますぎるドロップキック】