栃木娘 VS 茨城娘
──さあ、興奮冷めやらぬ中、第四試合の栃木娘と茨城娘の対決が始まります。どうですか? イチローさん。
「サルですね」
──……な、なにがですか?
「栃木娘といったらサルですよ」
──栃木娘がですか?
「なんて無礼なことを言うんですか、あなたは」
──い、いや、いきなりイチローさんが「サルですね」なんて言うもんだから。
「私が言いたいのは、栃木娘といったらサル軍団ということです」
──ほうほう、サル軍団。
「一応、都道府県娘のバトル専用パートナーは動物や妖精3体までと決められているのですが、栃木娘だけはサル軍団が認められているんです」
──それはかなり有利ですね。っていうか、それルール的にどうなんでしょう?
「ルールなんてあってないようなものですからねー」
──いい加減な大会ですね。
「そうは言っても、大半のサルは遊んでますから。バトルには参加はしません」
──あ、遊んでるんですか?
「ええ、遊んでます。サルですから」
──イチローさんの言い方が妙にひっかかるのですが、もしや過去に嫌な事でもされたんですか?
「あれは忘れもしない、3年前のある夏の日の午後だった……」
──あ、すいません。それ、長くなります?
「1時間もいただければ」
──じゃあけっこうです。
「……サルにメガネを取られました」
──そうですか。(1秒で終わった!)
「まあ遊んでばかりのサル軍団ですが、優秀なボスザルがいますからねー。たいていはそのボスザルが仕切ってバトルをしてくれます」
──栃木娘はその間、なにを?
「ボスザルのサポートですね」
──栃木娘のほうがサポートするんですか?
「栃木娘はとてもバトルするようなコスチュームじゃありませんからねー」
──そうなんですか?
「雑技団のような恰好をしてます」
──それではバトルは無理ですね。
「ええ、サルが戦います。とはいえ、その気になればボスザル含めたサル軍団に一斉に指示を出せる【日光猿岩石】という大技も使えますからね。かなり強いですよ」
──対する茨城娘はいかがでしょう?
「こちらも強烈な個性が光ってますよー。別名:水戸納豆姫と言って、粘っこさなら天下一品。おっとりとした性格ながらも彼女の通った後にはご飯粒が一粒も残らないという恐ろしい娘です」
──なるほど、ご飯を大量に用意しておかなければなりませんね。さあ、そんな両者が入場です! まずは栃木娘。ご覧ください、この奇抜なファッションを。頭にかんぴょうをのっけて、とちおとめの着ぐるみを着て、手にはとて焼きを持って、巨大な餃子にまたがって入場して参りました。その後ろにはたくさんのサルたちがいます!
「まるでサーカス団ですねー」
──確かにこれでは戦えません。サルたちの奮闘を期待しましょう。対する茨城娘ですが、品のある美しい表情をしてますねー。
「水戸のお姫様ですからね。隠れて見えませんが、あの後ろにはスケさん、カクさんという助っ人妖精がいます」
──スケさん、カクさんですか。油断してると印籠を突き付けられそうですね。
「さすがタローさん、お目が高い。そうなんです、茨城姫の必殺技には【水戸の印籠ホールド】という技があって、これを突き付けられたら数秒間平伏させられるという恐ろしい技があるんです」
──数秒間の平伏ですか。バトルにおいての数秒は勝敗を左右しますからねー、これは栃木娘にとっては要注意です。
「さらには技も強力ですよ。【つくばサンシャインエルボー】は食らったが最後、その名の通り天高く舞い上がって第二の太陽の如く光り輝くすさまじい技です」
──逆にサル軍団は喜びそうですねー。
「そうですね。サルですから」
──(なんか根に持ってるなー)それでは栃木娘 VS 茨城娘、バトル開始です!
カーン!
──さあ、まず最初にしかけたのは……おっと! 意外や意外、奇抜なファッションをした栃木娘本人のほうだー!
「子分のサルを使うのではなく、サポート役の栃木娘を使う。これはまったく意表をついた攻撃ですねー。ボスザルの入れ知恵でしょうか」
──それだと主従が逆転してますが……。
「サルの知能を甘く見てはいけません」
──なにはともあれ、仕掛ける! 仕掛ける! 栃木娘が先頭に立ってアツアツの餃子を投げまくっているー!
「【宇都宮流・華厳の餃子】です。無数のアツアツ餃子を両手から放つ気功弾的な攻撃ですね」
──改めて言いますが、これは決して本物の餃子を放ってるわけではありません。都道府県娘のオーラを凝縮して具現化したものです。食材ではありませんので安心してください。
「本物を食べてみたいですけどね」
──さあ、そうこうするうちに茨城娘、粘っこくかわしながらもじりじりと追い詰められていく! さすがに無数の餃子はかわしきれないか!
「あ、スケさんカクさんが出ましたね」
──な、なんとー! 茨城娘の背中からチョンマゲ頭の小さな妖精が二人も飛び出したー!
『こ の 紋 所 が 目 に 入 ら ぬ か ー!!』
──は、ははー!
「いえ、これはタローさんに向けたものじゃなく、栃木娘に向けたものなので……」
──あ、つい反応してしまいました。恐るべし、水戸の印籠ホールド! ですがサル軍団には効いてませんね……。
「ええ。我が物顔でバトル会場で遊んでますよ」
──さすがはサル軍団。水戸の印籠など知ったこっちゃないといったところでしょうか。さあ、そうこうするうちに茨城娘、壁際まで追い詰められたぞー!
「さすがは宇都宮の餃子。とどまる所を知りませんね」
──いつの間にかスケさんカクさんもいなくなってますし。これは勝負ありましたかね?
「いえ、見てください!」
──こ、これは! 壁際まで追い詰められていた茨城娘が何やら両肘を前に突き出して構え始めました!
「【つくばサンシャインエルボー】です! 【つくばサンシャインエルボー】を放とうとしてます!」
──食らったが最後、第二の太陽となってしまうというあのつくばサンシャインエルボーですか?
「わかりました、茨城娘の作戦が! 【つくばサンシャインエルボー】は十分な距離から一気に距離をつめる、音速の攻撃なんです。だからあまりに近すぎると茨城娘も反応ができないため、こうして距離をとってたんです!」
──ということは、栃木娘は攻撃をしかけながらも大ピンチということでしょうか?
「ええ、きっとそうです」
──ボスザルもそれには気づいてますよね?
「…………」
──………。
「………」
──………。
「……あ、寝てますね」
──な、なんとー! 栃木娘のサル軍団、ここに来て遊び疲れたのかお昼寝タイムに入ったようです! なんてことだー!
「栃木娘が必死に何か叫んでますね」
──見ざる聞かざる言わざる状態のサル軍団! これは確かに見てる分には楽しい集団ですが、栃木娘にはたまったものではない! そうこうするうちに茨城娘の【つくばサンシャインエルボー】が発動ーーー!
『つくばサンシャインエルボー!!』
──栃木娘、配下のサル軍団とともに第二の太陽になったーーーー!
「速すぎて全然見えませんでしたね。さすがは【つくばサンシャインエルボー】です」
──ところでイチローさん。
「なんでしょう?」
──メガネが盗まれてますが……。
「………」
──………。
「………」
──………。
「ほんとだ!」
──(気づくの遅……)
×栃木娘 VS 〇茨城娘【決め技:つくばサンシャインエルボー】




