宮城娘 VS 福島娘
──さあ、早くもバトル会場が壊滅してしまいましたが、イチローさんの必殺技【ご都合主義・次回には元通り】が発動して会場は元通りになりました。
「元通りになってなによりです」
──ということでバトルは続きます。第三試合は宮城娘 VS 福島娘です。すでに両者入場しておりますが、いかがでしょうイチローさん。
「そうですね。この二人の対決はかなり見ものですよ」
──ほう、それはなんでですか?
「実はこの二人、姉妹(という設定)なんですよ」
──へえ、姉妹(という設定)なんですか。
「よく見てください。二人とも眼帯をしてますでしょう?」
──よく見なくとも、二人とも眼帯をしてますね。
「実はこれ、お姉ちゃんの福島娘が厨二病を発症して眼帯を付けだしたら妹の宮城娘も真似をして眼帯を付けだしたんです」
──へ、へえ……。厨二病で眼帯を……。
「やっかいな病気です」
──ちょっと待ってください。ということは、この姉妹対決、圧倒的に福島娘のほうが有利ではないですか?
「なぜですか?」
──だって妹の宮城娘がお姉ちゃんの福島娘を真似て眼帯を付けたわけですよね? それだけお姉ちゃんっ子ということは、本気は出せないのでは?
「そんなことはありません。むしろお姉ちゃんっ子であるからこそ本気で挑んでくるのが宮城娘というものです」
──そういうものなんですか。
「そういうものなんです」
──それは逆に楽しみになってきました。ちなみに福島娘の得意とする技はなんでしょうか。
「なんといっても【赤ベコぶん回し】ですね」
──赤ベコぶん回し。名前からしてクセがすごそうですねー。
「特定の都道府県娘には動物や妖精といったバトル専用パートナーが認められているのですが、福島娘のパートナーは赤ベコなんです。それをぶん回して相手にぶつけるんですよ」
──クセがスゴイ! それ、パートナーとしてアリなんですか?
「そのためのパートナーですからね」
──絶対違うと思いますけど……。
「クセの強い大技ですが、これがまた強力でして。突進してきた赤ベコの頭でかち上げられた相手は、そのまま何十メートルも吹き飛ばされます。一発KOもあり得ますね」
──何十メートルも吹き飛ばされたらそうなりますね。宮城娘に対抗する術はあるのでしょうか。
「もちろんです。彼女の場合、妹ですから福島娘を誰よりも熟知してます。【奥州名物・ずんだMOCHI】は対福島娘として編み出された技といってもいいのではないでしょうか。
──【奥州名物・ずんだMOCHI】。聞くだけでモチモチした感じですねー。
「突っ込んできた相手をMOCHIでくるんで跳ね返すカウンター攻撃ですね」
──なるほど、カウンター技ですか。
「一説によると、全都道府県娘の中で最強のカウンター技だとか」
──それはさらに楽しみになってきました。さあ、いよいよ始まります。宮城娘 VS 福島娘。バトル開始です!
カーン!
──まず先に仕掛けたのは福島娘! 得意のスライディング攻撃で宮城娘に襲い掛かります!
「キレのある【なじょすっぺスライディング】ですね。すねに当たったら痛いですよ」
──しかし宮城娘、余裕でかわします! その顔には笑みまで浮かべているようにも見えます!
「お姉ちゃんっ子ですから読んでいたのでしょう」
──福島娘、さらにスライディング! そしてスライディング! そしてスライディング! もうひとつスライディング!
「宮城娘、余裕でかわしてますねー」
──ちなみにイチローさん、この宮城娘はカウンター技の【奥州名物・ずんだMOCHI】以外に何があるんですか?
「【独眼竜奥義・GYUターン】が有名ですね」
──独眼竜奥義・GYUターンですか。
「よく見てください、宮城娘の腰に剣が差してあるでしょう?」
──そうですね。見た目の説明を省いてしまいましたが、宮城娘はいわゆる伊達政宗の甲冑姿で戦っています。
「実はアレ、真っすぐな剣ではなくてムチ状の剣なんです」
──ムチ状の剣?
「変幻自在に動き回る剣ですよ。かなり特殊な武器です」
──なるほど。剣が直線的ではなく曲線的に向かって来るわけですか。
「中でも【独眼竜奥義・GYUターン】は、一度相手の元に飛んでいった剣の刃先がギューッとターンして戻ってくる恐ろしい技です」
──避けたと思ったら背後から剣の刃先が襲ってくるなんて怖いですねー。
「初見でこれが来たらまずかわせません」
──宮城娘はなぜその技を使わないのでしょうか?
「【独眼竜奥義・GYUターン】は諸刃の剣ですからねー。戻ってきた剣がかわされたら、逆に自分の身が危なくなるので慎重にならざるを得ないんですよ」
──だからその技を出すタイミングを計ってるんですね。
「そういうことです」
──さあ、福島娘の【なじょすっぺスライディング】はまだ続いている! その名の通り、どうしたらいいのかわからないままスライディングを続けているようです!
「宮城娘には【奥州名物・ずんだMOCHI】がありますからねー。攻めあぐねているのではないでしょうか」
──福島娘、さらにスライディング! 畳みかけるようにスライディング! おおっと、さらにスライディングー! イチローさん、福島娘スライディングしかしませんよ?
「そうですね。秘策があるわけでもなさそうですが……」
──おーっと、さらにスライディング! どういうことだ、福島娘! 本当にスライディングしかしません!
「おや? 宮城娘の表情が少し変わりましたね」
──本当ですね、イチローさん。
「おそらく、宮城娘もまさかこんなに連続で【なじょすっぺスライディング】が来るとは思ってなかったのでしょう。読んでいたとしても、キレのある速い攻撃ですから連続でくるとやはり苦しいのかもしれません」
──ああっと! ここで宮城娘、しびれを切らしたか反撃にうつったー!
『独眼竜奥義・GYUターン!!』
──こ、これは! 【独眼竜奥義・GYUターン】です! 福島娘の【なじょすっぺスライディング】と【なじょすっぺスライディング】の合間に合わせて使ってきました!
「伊達にお姉ちゃんの技は見ていないわと言わんばかりの見事なタイミングですね。伊達(政宗)だけに!」
──うまいこと言ったつもりですが全然うまくないです。しかし! 福島娘、なんとこの攻撃を読んでました! 背後から迫った【GYUターン】を見事【なじょすっぺスライディング】でかわしてそのまま宮城娘に突進していくーーー!
「宮城娘も唖然としてますね」
──読んでいたのは宮城娘だけではなかった! 福島娘も妹の宮城娘のことを誰よりもわかっていた! さすがはお姉ちゃん! さすがは福島娘!
『なじょすっぺスライディング!!』
──決まったーーー! 宮城娘に【なじょすっぺスライディング】が炸裂ーーー! 宮城娘、脛を押さえつけて痛がっています!
「これはもう【奥州名物・ずんだMOCHI】を出す暇もなかったですね。いや、出させてもらえなかったというほうが正しいかもしれません」
──負けてしまった宮城娘、お姉ちゃんの福島娘にゆっくりと起こされて、熱い握手をかわす。負けた宮城娘も福島娘の右手を挙げて勝利を祝っております。まさに姉妹愛。素晴らしい戦いでした!
「いや~、本当に素晴らしい戦いでしたねー」
──美しき姉妹愛。イチローさん、私はもう涙がこらえられません。
「私もです。思わずずんだ餅が食べたくなりました」
──そ、そうですか……。お好きにどうぞ(感動するポイントがズレてるんだよなー、この人)
×宮城娘 VS 〇福島娘【決め技:なじょすっぺスライディング】