秋田娘 VS 山形娘
──さあ興奮冷めやらぬまま第二試合が始まろうとしています。第二試合は秋田娘 VS 山形娘の戦いです。どうでしょう、イチローさん。この二人の対決は。
「こちらも目が離せませんねー。なんといっても秋田娘は相当な美人ですからね。優勝候補筆頭だと思います」
──なんの優勝候補かわかりませんが、確かに秋田娘は美人ですよねー。
「おまけに彼女は笑顔がキュートで、優しくて、おっとりしていて、色白で、スタイルも抜群で……くどくどくどくど」
──あ、あの。イチローさん?
「くどくどくどくど。そんなわけで見ているだけで癒されるんですよねー。さすがは秋田美人」
──イチローさんの好みを聞いてるわけではないんですが……。技の見どころとかはどうでしょう?
「そうですね、【なまはげ大切斬】が非常に強力です。出刃包丁で相手を真っ二つにする大技です」
──……美人とは程遠い技ですね。
「この【なまはげ大切斬】が来たら要注意ですよ」
──我々も真っ二つにされないように気を付けましょう。対する山形娘はどうですか?
「山形娘はいわゆるクールビューティーなのが特徴です。真面目で冗談が通じないタイプですね。でも勤勉で、もてなし上手。こういう娘もいいですねー」
──イチローさんの好みはどうでもいいんです、技の見どころを教えてください。
「山形娘といったら【チェリーガール・ジャンボマックス】が恐ろしい技ですよ」
──チェリーガール・ジャンボマックスですか。なまはげ大切斬よりは可愛らしい名前ですけど、どんな技なんですか?
「巨大なチェリーがアメリカンクラッカーのようにドシンドシンと落ちて来る技です」
──こ、怖そうな技ですねー。いまいち想像できませんが。
「その破壊力は富士山を吹き飛ばすそうです」
──……はい?
「富士山を吹き飛ばすそうです」
──だ、大丈夫なんでしょうか、この会場。
「安心・安全の耐熱ガラスで覆われてますからね。大丈夫だと思います」
──せめてそこは防弾ガラスにして欲しいところ。さあ、そうこうするうちに両者入場してまいりました。まずは秋田娘。な、なんと!? なまはげのお面をかぶって登場しました!
「泣ぐ子はいねがーでおなじみのなまはげですね」
──まさかのなまはげで登場ですか。せっかく秋田娘の美しいご尊顔を拝めると思ったのですが……。
「そうは問屋が卸しませんでしたね。やはり簡単に素顔はさらしてくれません、さすがは秋田娘です」
──対する山形娘ですが……こちらは可愛らしい女の子ですね?
「雪ん子ですよ」
──雪ん子ですか。
「いわゆる雪の妖精です。座敷童の岩手娘と仲が良いとも言われています」
──ああ、なんか通ずるものがありますねー。二人で雪だるまとか作ってそうな感じがします。っていうか、彼女がクールビューティーなんですか?
「ええ。雪ん子ですから」
──ビューティーというより、キューティーに近い気がするのですが……。
「失礼ですよ。山形娘はこう見えて立派なレディなんです」
──それは大変失礼しました。こう見えて立派なレディだったんですね。
「ちなみに岩手娘(座敷童Ver.)とはよくにらめっこをして遊んでるそうです」
──あ、そうですか……(立派なレディ?)。とにもかくにも、両者そろいました。それでは第一回戦第二試合、バトル開始です!
カーン!
──さあ、まずは山形娘。せっせ、せっせと芋煮を作り始めました!
「山形娘の芋煮会は有名ですからねー」
──そんな山形娘になまはげに扮した秋田娘が「泣ぐ子はいねぇがー」と言いながら圧をかける!
「秋田娘名物【泣ぐ子はいねぇが・おにがわら】です。これを食らったら100%子どもが泣いてしまうと言う恐ろしい技ですよ」
──確かにこれは恐ろしい! 私もちょっとちびりそうになってしまいました。思わず山形娘も大泣きしてしまいましたね。
「大泣きしながらも芋煮を作ってます、さすがは山形娘。手が止まらない」
──そんな山形娘になまはげが包丁を持って追いかけ始めました!
「山形娘も芋煮の鍋を持って逃げ回ってますよ」
──大泣きしながら芋煮の鍋を持って逃げ回る山形娘! その後ろを出刃斬り包丁を振り回しながら追いかけるなまはげ! これはなんともシュールな絵!
「トラウマにならなければいいですねー」
──おーっと! 山形娘、逃げながらも芋煮の鍋から芋煮を投げつけたー!
「アツアツの芋煮攻撃、その名も【山形名物・芋煮かい?】です!」
──ちなみにこの技は都道府県娘特有のオーラを具現化したもので、実際の芋は投げつけてません。食べ物ではございませんのでご安心ください。
「コンプライアンスは大事ですからね」
──さあ、山形娘の放った芋煮、なまはげは持っている包丁で真っ二つにしてしまいました!
「よく切れる包丁です。さすがはなまはげ、一級品の包丁を持参しているようですよ」
──山形娘、なおも芋煮を投げつける! そんな山形娘を包丁を振り回して追いかけるなまはげ!
「いい包丁さばきですねー」
──投げる! 投げる! 投げまくる山形娘! そして切る! 切る! 切りまくるなまはげ秋田娘!
「空中でみじん切りまで披露してますよ」
──すごすぎるぞ、なまはげ! いや、ここは秋田娘のポテンシャルが高いのか! あーっと、ここで! 山形娘が芋煮鍋を持ったままズッコケたー!
「さすがに芋煮鍋の重さに耐えきれませんでしたか」
──チャンスとばかりに包丁を振りかざして飛び掛かるなまはげ秋田娘! 対する山形娘、耳をつんざかんばかりの大絶叫ーーー!
「安心・安全の耐熱ガラスもビリビリ震えてます」
──あっ! み、見てください、イチローさん!
「こ、これは!」
──盛大に泣いていた山形娘に反応したのか、山形娘の身体がぐんぐんと大きくなる! ぐんぐんぐんぐん大きくなる!
「まずいですよ、タローさん。なまはげ秋田娘の【泣ぐ子はいねぇが・おにがわら】が、山形娘の眠れる龍を目覚めさせてしまいました!」
──どういうことでしょうか?
「山形娘は普段は可愛らしい雪ん子なんですが、嫌な想いが臨界点に達すると雪ん子の母・雪女が目覚めてしまうんです。見てください、あの般若の顔を!」
──う、うわ、これは恐ろしい! 「うちの娘を泣かせたのはどこのどいつじゃー!」という顔をしていますね。
「これぞまさしくモンスター・ペアレントというやつです!」
──た、確かにモンスターではありますが……。しかしさすがのなまはげ秋田娘もこの雪女の般若のような顔にひるんでいますね。
「さあ、雪女Ver.の山形娘が仕掛けますよ」
──おーっと、これはー!? 山形娘の頭上に巨大なチェリーが落ちてきたーーー! ま、まさかあれがイチローさんのおっしゃっていた【チェリーガール・ジャンボマックス】でしょうか!?
「そのようですね。赤みが大変素晴らしいチェリーです」
──まさかの雪女に全然関係ない技を出してきた! それよりも大丈夫なんでしょうか、この会場。
「安心・安全の耐熱ガラスですから信じましょう」
──そ、そうですね。私も実況のプロです、命燃え尽きる最期の時まで実況は続けます! さあ山形娘(雪女Ver.)、なまはげ秋田娘にこの巨大なチェリーを打ち付けたーーー!
『チェリーガール・ジャンボマックス!!』
──炸裂しました、【チェリーガール・ジャンボマックス】! 二つあるチェリーがまるでアメリカンクラッカーのようにどしんどしんと落ちていく! そのたびに飛び散る、飛び散る! 会場一面に耐熱ガラスの破片が飛び散ってます! 痛っ!
「折り畳み傘を持ってきて正解でした」
──飛び散る耐熱ガラスの破片を折り畳み傘で防ぐイチローさんもすごいですね! 痛っ!
「この破壊力はすごいです」
──まさに日本が沈没するのではないかと思えるくらいの暴れよう! 大地が震えまくっています。ほ、本当に大丈夫でしょうか。
「信じましょう」
──山形娘の怒りはとどまることを知らないのか! どんどん打ち付ける! どんどん巨大なチェリーを打ち付けているー!
「お、攻撃が弱まりましたよ」
──ようやく収まりましたか。にしても激しい怒りでしたねー。
「そうですね。雪女はもともと気性が荒いと言いますからねー。それよりも勝負はついたんじゃないでしょうか?」
──そうでした。山形娘の【チェリーガール・ジャンボマックス】。あれだけまともに食らっては秋田娘の負けは確定でしょう。
「あっ! いや、見てください!?」
──こ、これは……! 巨大なチェリーを食らったと思ってたなまはげ、なんと直撃を受けていた場所に転がっているのはなまはげの衣装のみ! どういうことだ!?
「ああ、あそこに!」
──な、なんとー! ちょっと離れた場所で秋田美人の秋田娘がきりたんぽを食べているー!
「【チェリーガール・ジャンボマックス】を食らう直前で、動きにくいなまはげの衣装を脱ぎ捨てていたようですね」
──それにしてもなんという美しさ! 美しすぎて目が離せません! まさに絶世の美女という形容が相応しい秋田娘、これが噂の秋田美人か!
「いやー、目の保養ですねー。山形娘もそんなバカなという目をしてますよ」
──そんな秋田娘、山形娘に一気に詰め寄る!
「さすがに大技を出した直後ですからねー、山形娘も動けません」
『秋田美人小町ホールド!!』
──で、出たー! 秋田娘の超必殺技【秋田美人小町ホールド】ーーー!
「秋田娘の全身を使った強力な羽交い絞め技です。これはうらやまし……げふん、げふん。たまらない攻撃ですね」
──あーっと、山形娘(雪女Ver.)そのままカックリと落ちてしまいました。でもご覧ください、この幸せそうな表情。
「やっぱり美人に抱き着かれると男女問わずこういう顔になってしまいますよね」
──私もぜひ抱きしめて欲しい!
〇秋田娘 VS ×山形娘【決め技:秋田美人小町ホールド】