青森娘 VS 岩手娘
──まずは第一回戦第一試合、青森娘と岩手娘の戦いです。いかがでしょう、イチローさん。この二人の対決は。
「初戦から非常に楽しみな組み合わせですよ。青森娘は東北の王者と呼ばれてましてね。【イタコ殺法・恐斬】という強力な技を持っているんです」
──イタコ殺法・恐斬ですか。それはなんとも恐ろしそうな技ですねー。
「それはもう恐ろしい技ですよー。恐ろしすぎてどんな技か言えないくらい恐ろしい技です」
──恐ろしすぎてどんな技か言えないくらい恐ろしい技ですか、それは恐ろしい。対する岩手娘はどうですか?
「岩手娘も強いですね。別名・海のハンターとも呼ばれてまして、海の中では最強の狩人なんです。【海女ちゃん奥義・じぇじぇじぇJJJ】という技が有名ですねー」
──海女ちゃん奥義・じぇじぇじぇJJJ。これまた気になる名前の技ですが、いったいどんな技なんですか?
「思わずじぇじぇじぇー! と叫びたくなる技です」
──……はい?
「思わずじぇじぇじぇー! と叫びたくなる技です」
──はい、じぇじぇじぇーな説明をありがとうございました。それでは両者の入場です! まずは青森娘。ご覧下さい、このキリッとした表情、鋭い眼光。着ているのはイタコの衣装ですかね?
「イタコの衣装ですね。青森娘の戦闘服ですよ」
──やる気満々といったところでしょうか。対する岩手娘は……おや? 着物を着た幼女ですが?
「これは珍しい。座敷童モードですね」
──座敷童モード?
「いわゆる岩手娘のプライベートなモードですよ。海のハンターの普段の姿は座敷童なんです」
──岩手娘のプライベートな姿ですか、それは珍しい。
「どうやらこれからバトルが始まろうとしてるのに気づいてないようですねー」
──き、気づいてないんですか? 大丈夫なんでしょうか? 岩手名物のわんこそばも食べ始めましたが……。
「マイペースな娘ですからねー、バトルさえ始まってしまえば大丈夫だと思いますよ」
──そ、そうですか。バトルさえ始まってしまえばですか……。おや? そんな岩手娘に青森娘が何か叫んでますよ?
「あー、本当ですね。何か叫んでますね」
──なんて言ってるんでしょうか? よく聞き取れませんが。
「津軽弁ですね。普通の人には何をしゃべっているのかわからないという伝説の言葉ですよ」
──な、なんと! 伝説の言葉・津軽弁! カッコいい響き!
「青森娘の表情から察するに『これからバトルするのになんでわんこそばなんか食べてるんだ!』的なことを言ってるのではないでしょうか」
──確かに青森娘からすればイタコの衣装を着てバッチリ決めて来たのに、岩手娘がわんこそば食べてたら文句の一つも言いたくなりますよねー。
「まあ、津軽弁でしゃべってるので岩手娘には通じてないようですけどね」
──とほほのほーって感じですね。でもどうしましょう? 岩手娘がわんこそばを食べたままですが、このままバトルを始めてしまってもいいんでしょうか?
「いいんじゃないですか」
──い、いいんですか?
「わんこそばを食べながらバトルしてはいけないというルールはありませんからね」
──そうですね。スタッフの巻いて巻いてコールもうるさいですしね。それでは第一回戦第一試合を開始しようと思います。なお、この大会にはレフェリーがいません。そのため、審判も私が務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
「よろしくお願いします」
──それでは第一回戦第一試合、バトル開始です!
カーン!
──さあ、いよいよ始まりました青森娘 VS 岩手娘。まずは青森娘。背中から何かを取り出したぞ!
「津軽三味線ですね」
──津軽三味線ですか? あの楽器の?
「青森娘にとっては伝説の武器ですよ」
──伝説の武器・津軽三味線! それは熱い!
「どうやら【津軽三味線べべんべんべべん】を放とうとしてますねー」
──津軽……なんですって?
「【津軽三味線べべんべんべべん】です。津軽三味線から放たれた音色が刃となって相手を切り刻む攻撃ですよ」
──津軽三味線から放たれた音色が刃となって相手を切り刻む攻撃ですか。珍妙な名前の割りに恐ろしい技ですね。どうする岩手娘! バトルが始まったのにまだわんこそばを食べているぞ!?
「わんこそばに夢中なんでしょう」
『津軽三味線べべんべんべべん!!』
──あーっと! 青森娘、岩手娘に構わず津軽三味線を弾きました! べべんべんべべーんという美しいメロディーとともに音の刃が岩手娘に襲い掛かるー! これはいきなり勝負あったかー!
「いや、岩手娘も気づいてますね」
──な、なんとー! 避けました岩手娘! わんこそばを食べながら華麗な足さばきで【津軽三味線べべんべんべべん】を避けました!
「さすがは岩手娘です。わんこそばを食べながらも周りの状況をよく見ていますよ」
──しかしそんな岩手娘に青森娘、さらに津軽三味線を弾く! 弾く! 弾きまくる!
「おお、これは見事。津軽じょんがら節が流れています」
──対する岩手娘も避ける! 避ける! 避けまくる! 避けながらわんこそばをかき込んでいる!
「わんこそばなら誰にも負けないぞ! という気迫を感じられますね」
──わんこそば勝負ではないんですけどねー。しかしイチローさん、このままでは岩手娘は攻撃できませんよね?
「そうですね。わんこそばに夢中ですからね」
──何か策はあるのでしょうか?
「ないと思いますよー。岩手娘はマイペースな娘ですからね。このままわんこそばをズルズルと……あっ!」
──あーーーっと! ここで! 青森娘の【津軽三味線べべんべんべべん】が岩手娘を捉えたーーー! 岩手娘のお椀が宙を舞うーーー!
「いえ、岩手娘には当たっていません! お椀だけです!」
──お椀だ! お椀だけだ! 岩手娘、九死に一生を得ました!
「いやー、もしかしたら青森娘、お椀だけを狙ったのかもしれませんよ?」
──お椀だけ、ですか?
「青森娘は全都道府県娘の中で一番プライドが高い娘なんですよ。きっと正々堂々と勝負して欲しいんだと思います」
──なるほど! さすがは東北の王者! さあ、ここに来て初めて表情を変えたぞ岩手娘!
「どうやらお椀を攻撃されたのが癇に障ったようですね。さすがにマイペースな岩手娘もムッとしてますよ」
──おっと、岩手娘の周りに強烈なオーラが立ち上り始めました! 彼女の周りから強烈な風が渦巻いております!
「出ますよ! 岩手娘の究極奥義【海女ちゃん奥義・じぇじぇじぇJJJ】が!」
──発動するのか!? 【海女ちゃん奥義・じぇじぇじぇJJJ】が発動するのか!?
『海女ちゃん奥義・じぇじぇじぇJJJ!!』
──出たー! 【海女ちゃん奥義・じぇじぇじぇJJJ】発動ーーー!! なんということでしょう! 岩手娘の身体が大きくなる! ぐんぐんと大きくなる! そして潜水服を着たスレンダー美女に大変身したーーー!!
「これです! これが【海女ちゃん奥義・じぇじぇじぇJJJ】です!」
──まさにじぇじぇじぇな技ですね! 思わず見惚れてしまいました。
「この姿になったら最強ですよ、彼女は」
──さあ、海女ちゃん美女に大変身した岩手娘、どういう攻撃をするのか。おーっと! まるで海の中に潜るかのように地面の中に飛び込んだぞー!
「岩手娘は地面の下を海の中のように潜って進むことができるんです」
──なんというじぇじぇじぇな能力! すごいぞ岩手娘! 対する青森娘、津軽三味線を構えながら防御に入ります!
「いつどこから攻撃が飛んでくるかわかりませんからねー。神経を集中させてますよ」
──わーーー! なんと青森娘に足元から銛が突き出してきたー! 青森娘、津軽三味線で慌ててガード! しかし岩手娘は姿を現さないー!
「このガードで津軽三味線が壊れました! これは危険です!」
──一気に不利になりました、青森娘! 岩手娘を捉えることが出来るのか! おーっと! 今度は別の地面から銛が突き出してきた! 慌ててかわす青森娘! しかし岩手娘の手は緩まない! 銛! 銛! 銛の波状攻撃だー!
「すっかり形勢が逆転してしまいましたね」
──青森娘、為すすべがありません!
「あ、見てください!」
──こ、これは! ウニです! 今度は大量のウニが地面から一斉に飛び出しました! 青森娘、たまらず両腕で大量のウニをガード! これは痛い!
「ウニのトゲトゲは痛いですよ!」
──なおもウニ! ウニ! ウニ! たちまちウニまみれになっていく青森娘!
「これはもはやどうすることもできませんね」
──ここで岩手娘が地面から空中に飛び出した! そしてそのまま空中で巨大なウニ(推定5メートル)を頭上にかざすー!
「一気にケリをつける気ですよ!」
──ウニまみれの青森娘、為す術がありません! これは勝負あったかー!
「い、いえ、見てください!」
──こ、これは!? 青森娘がいるあたりにただならぬオーラが立ち込めております!
「ま、まさか!」
──オーラがどんどん強くなっていきます! どんどん膨れ上がっていきます! そしてそのまま青森娘を覆っていたウニが一気に消滅していきます!
「【イタコ殺法・恐斬】です! 青森娘はウニをガードしていると見せかけて、【イタコ殺法・恐斬】の印を結んでいたようです!」
──な、なんとー! ただガードをしているだけではなかった青森娘! 次の攻撃の一手を備えていたー! たまらず岩手娘が巨大ウニを投げつけるー!
『イタコ殺法・恐斬!!』
──で、出たーーー! 青森娘の背後から巨大な武者(推定15メートル)が姿を現したーーー! イチローさん、あれはなんでしょう!?
「ねぶたの荒武者です! 日本最大級のお祭り召喚魔法です!」
──恐ろしい形相をしているねぶたの荒武者! 確かに恐ろしい! 恐ろしすぎる! そんなねぶたの荒武者、手に持った炎の剣で巨大ウニを一刀両断ーーー! これはすごいー! いや、恐ろしいー!
「まさに恐斬ですねー!」
──呆然とする岩手娘! まさかウニを斬られるとは思っていなかったようです!
「そりゃそうでしょう」
──そんな岩手娘に青森娘が一気に詰め寄る! そして渾身の【津軽ロマンス】炸裂ーーーー!
「味と粘りに定評があるおいしいお米……じゃなくて技ですね」
──岩手娘、あえなくダウーン! 第一回戦第一試合は青森娘の勝利ー!
「いやー、終わって見るとすごい戦いでしたね」
──そうですねー。第一試合から手に汗握る熱戦でした。おや? 青森娘がまた何か言ってますよ?
「津軽弁なのでなんて言ってるのかわかりませんねー」
──とほほのほー。
〇青森娘 VS ×岩手娘【決め技:津軽ロマンス】