広島娘 VS 山口娘
「もにゅ、もにゅ、もにゅ」
──おや? どうしました、イチローさん。
「次の勝負は広島娘 VS 山口娘ですからね。広島風お好み焼きを堪能してます」
──ああ、なるほど。広島風お好み焼きですか。
「タローさんもどうですか?」
──いえ、自分はけっこうです。というか、お好み焼きを食べる時の擬音は「もにゅ」で合ってるんですか?
「もにゅ以外ありません」
──あ、そうですか。それは大変失礼いたしました。さあ、いよいよ第一回戦も終盤戦に突入してまいりました。次の対決は広島娘 VS 山口娘です。こちらの対決はいかがでしょう、イチローさん。
「甲乙つけがたいですねー。広島娘には広島風お好み焼きが、山口娘にはてっちり鍋といった得意料理がありますからねー」
──別に料理対決をするわけではないのですが……。
「その娘の得意料理を堪能する、それもまた都道府県娘バトル選手権解説者としての役得ですよ」
──……一度も作ってもらったことないでしょ。
「ああ、口いっぱいに広がるお好み焼きソースの味」
──ソースかけすぎです。そして料理まったく関係ない!
「広島風お好み焼きは、こうソースをドバッとかけて食べるのが好きなんですよね」
──広島娘が聞いたらキレそうですね。技の特徴とかあったら教えてください。
「技も多彩で面白いですよー。広島娘の技はなんといっても【もみじカープ】が強烈ですね」
──もみじカープですか。なんとも予想がつかない技ですが、どんな技なんですか?
「もみじの形をした球が剛速球で飛んできます」
──余計分かりづらい……。
「あとは禁断の【尾道ラーメン瀬戸内レモン牡蠣あなご君】という技があります」
──き、禁断すぎる技の名前ですね。どんな技なんでしょうか?
「あなご君という少年が尾道ラーメンと瀬戸内レモンと牡蠣を食べ歩くという技です」
──カオスすぎる! 非常にカオスな技だ! いや、それは技なのか!?
「年末によくやる珍プレー好プレーの珍プレー版で毎回登場する技ですね」
──それは名誉なことなのか、あなご君! ぜひとも好プレーで出演して欲しいぞ!
「そんなあなご君を見たくて赤いキャップをかぶったカープ女子が年々増えていってるらしいです」
──意外にも大人気だった、あなご君! 広島娘人気に貢献していた! 対する山口娘はどうですか?
「山口娘も多種多様な技がありますね。【ふぐ刺し】は強力ですよ」
──ふぐの刺身ですか。美味しいですよねー。
「いえ、【ふぐ刺し】です」
──ですからふぐの刺身ですよね?
「だから【ふぐ刺し】です。ふぐが刺すんです」
──あ、そっちの刺しですか。まんまですか。
「【ふぐ刺し】を食らったが最後、ふぐの毒が全身にまわって死に至ると言う恐ろしい技ですよ」
──い、意外と怖い技だった!
「あとは【幕末維新流・長州砲】も非常に強力ですよ」
──幕末維新流・長州砲。これまたすごそうな技ですねー。どんな技なんですか?
「伝説の黒い船・黒船がやってきて、船首に装備された大砲を発射する技です。宇宙戦艦ヤ〇トの波動砲をイメージしていただければと思います」
──思いっきり説明を省いちゃった! 多作品を参考にというのは愚の骨頂ですよ、イチローさん。
「良い子は決して真似をしないでください」
──(お前もな!)さあ、そんな両者が入場して参りました。まずは広島娘。ご覧ください、Cのマークの赤いキャップを被った可愛らしい娘です。
「広島弁がこれまた可愛らしいんですよねー。方言で甘えてきて欲しい女の子ランキングで常に上位をキープしてる娘です」
──そのランキングの出所が気になるところ! 対する山口娘は、フグの被り物を被った娘が登場して参りました!
「これはまた……独特のセンスをしてますね」
──なんというか……独特のセンスをしてますね。
「色物キャラとしてならダントツかもしれません」
──(色物とか言うなし!)い、言うなれば「さか〇クン」の女の子バージョンでしょうか。なんとなく朝の挨拶で「おはようギョざいま~す♡」とか言ってそうですねー。
「彼女のおはようギョざいま~す♡は聞いてみたいですね」
──そうですね、イチローさんならコロッといっちゃいそうですね。
「コロッとはいきませんよ。せいぜい尻尾を振るくらいです」
──それをコロッと言わずになんと言うのか。さあ、そんなどうでもいいことは置いといて両者向かい合いました。それでは広島娘 VS 山口娘、バトル開始です!
カーン!
──まず先に仕掛けたのは山口娘! 懐から大きな鍋を取り出したぞ! これで何をする気だ!?
「いきなり禁断の技をつかいますか」
──禁断の技ですか?
「ええ、禁断の技。その名も【てっちり・この野郎】です!」
──ひ、品性のかけらもないですね。どんな技なんでしょう?
「てっちり鍋を初めて食べた一人の男が『てっちりこの野郎、うめえじゃねえか』と言ったとされる伝説の技ですよ」
──伝説が伝説すぎていまいち伝わりませんが、とにかく恐ろしい技のようだ! さあ、そんなてっちり鍋から、なんと大量のお湯が飛び出したー!
「ああ! これは!」
──どうしました、イチローさん。
「【てっちりこの野郎、うめえじゃねえか】ではなく【てっちりこの野郎、熱いじゃねえか】のほうでした!」
──もはやイチローさんが何を言ってるのかまったくわかりません! わかりませんが、アツアツの攻撃だということはわかります! ぐつぐつ煮立ったお湯が広島娘めがけて飛んでいくー!
「これは避けないと危険ですよ。一発KOもあり得ます」
──いきなり負けてしまうのか広島娘! いえ、かわした! かわしました! さすがはカープ女子! 見事な選球眼!
「伊達に広島カープを名乗ってませんねぇ」
──伊達どころか一回も名乗ってませんが。おっと! 今度は広島娘が何かを取り出したぞ!
「あれは広島名物もみじ饅頭です! 洋菓子のようなふわふわとしたカステラ生地が特徴で、もちもち&しっとりとした食感が癖になるおいしさですよ」
──広島娘といったらもみじ饅頭、もみじ饅頭といったら広島というくらい有名ですからねー。さあ、そんなもみじ饅頭を広島娘、大きく振りかぶって、投げつけたーーーー!
「出ました【もみじカープ】です! 食らったが最後、もちもち&しっとり感でクセになってしまう恐ろしい技です!」
──何度も言いますが、この技は都道府県娘のオーラを具現化させたもので食べ物ではございません。どうぞよろしくお願いします。おっと! そんなもみじカープを山口娘、手にしたてっちり鍋で完全に防ぎました!
「攻撃に防御に優れた道具ですね」
──本来は鍋をするための道具ですが、おそらく山口娘にとっては武器にも防具にもなるのでしょう。さあ、そうこうするうちに今度は山口娘が何やら呪文のようなものを唱えました。
「こ、これは!」
──な、なんと! 山口娘の周辺が何やら慌ただしくなっていく! これはいったいどんな技だー!?
「【幕末維新流・長州砲】です! さっそく大技を使うようですよ!」
──おーっと、山口娘の呪文に呼応して幕末の志士たちがよっこらせと言わんばかりに黒船を引っ張ってきたー!
「吉田松陰、高杉晋作、木戸孝允、伊藤博文、山縣有朋……。歴代の偉人たちが山口娘の周りに集まってきましたよ」
──さすがは山口娘! 多くの政治家たちとパイプを持っている! 山口といったらたくさんの政治家を輩出してる県としても有名ですからねー。にしても、まさか黒船を人力で持ってくるとは。
「偉人の考えは凡人には理解できませんから」
──むしろ脳筋といえなくもない。さあ、そんな黒船に飛び乗った山口娘! 目の前の広島娘に向かって船首から長州砲を放とうとしている!
「あ、広島娘も構えましたね」
──な、なんと! 広島娘、今度は野球のバッターボックスに立つスラッガーのようにバットを構えた!
「どうやら撃ち返す気のようですよ」
──さすがにそれは無理がある! いくらカープ女子とはいえ、黒船から発射される長州砲を撃ち返すのは無理があるぞ広島娘!
「いえ、見てくださいイチローさん! 広島娘が握っているのはお好み焼きで使うヘラです! バットではありません!」
──余計に大丈夫なのか、広島娘ー!
「広島娘のひっくり返し技を侮ってはいけません。どんなにぐちゃぐちゃなお好み焼きも綺麗にひっくり返せるんですよ、彼女は」
──しかし相手はお好み焼きではありません! いくらひっくり返すのが上手いとしても……あーーっと! 黒船から長州砲が発射されたーーーー! 巨大な砲弾が襲い掛かるーーー! これは広島娘、終わったかーーー!
『お好みカープ!!』
──で、出たーーーー!!!! 広島娘、襲い掛かる長州砲を、ふたつのヘラで見事に撃ち返したーーーー!!!!
「これはお見事!」
──そして撃ち返された長州砲はそのまま山口娘に直撃ーーーー! 山口娘、あえなくダウーーン!
「いやー、これは少しのミスも許されない、完璧な撃ち返し、いやひっくり返しの技でしたねー」
──広島風お好み焼き、ぜひとも彼女に作ってもらいたいですね。ちなみに【あなご君】が今回は出てきませんでしたね。
「ええ、残念でした。ぜひともあなご君の憎たらしくも愛らしい姿を見たかったのですが」
──次回に期待しましょう。あるかわかりませんが。
〇広島娘 VS ×山口娘 【決め技:お好みカープ】