奈良娘 VS 和歌山娘
──さあ、興奮冷めやらぬ第一回戦第十四試合。続きましては奈良娘 VS 和歌山娘の対決ですが、どうでしょうか、イチローさん。この二人の戦いは。
「そうですね、どちらも個性が爆発してて面白いですよ。奈良娘は別名・大仏大魔神娘と呼ばれてますし、和歌山娘も別名・南高梅太夫チッキショー娘と呼ばれてますからね」
──大仏大魔神に南高梅大夫チッキショー娘。……確かに個性が爆発してますね。
「技も個性的なんですよ。奈良娘には【奈良の大仏シーカーチョップ】が、和歌山娘には【千畳敷・三段壁・円月島のトリプルボンバー】という技がありますからねー」
──奈良の大仏シーカーチョップに千畳敷・三段壁・円月島のトリプルボンバーですか。どんな技か想像もつきません。
「特に和歌山娘は他にも【清め流れろ那智の滝】【中華そばなめんな拳】【さらさら茶がゆの幸せアタック】という個性的な技がたくさんあります。見ていて飽きないのではないでしょうか」
──それはもう別の意味で恐怖すら感じますね。それでは早速入場してもらいましょう! まずは奈良娘。大仏様の格好をした可愛らしい娘が鹿を大量に引き連れてやってきました!
「せんべいをあげてますよ」
──意外や意外、ものすごく健気そうな可愛い娘です。彼女が別名・大仏大魔神なんでしょうか?
「はい、彼女が大仏大魔神様です。ああ見えて怒らせると怖いんです。くわばらくわばら。南無阿弥陀仏」
──そんなに怖そうには見えないんですけどねー。いっぽうの和歌山娘ですが……。
「………」
──………。
「………」
──酸っぱそうな顔をした梅干しのお面をかぶってますね……。
「梅干しのお面をかぶってますね」
──あれが……和歌山娘ですか?
「はい。あれが別名・南高梅太夫チッキショー娘です」
──こちらがチッキショーと言いたくなりますね。
「個性が爆発していますよ」
──さあ、そんな両者が向かい合いました。それでは奈良娘 VS 和歌山娘、バトル開始です!
カーン!
──おっと! 先に仕掛けたのは奈良娘! 鹿にあげていたせんべいをそのまま和歌山娘に投げつけたー!
「【シーカーせんべい手裏剣】です。せんべいかと思いきや手裏剣だったという鹿もびっくりの攻撃ですよ」
──鹿も「なにー!?」という顔をしてますねー。知らずに食べていた鹿たちが可哀そうです。
「鹿が食べても害のない手裏剣なので大丈夫です」
──和歌山娘、そんなシーカーせんべい手裏剣を「チッキショー」と言いながらかわす!
「発音、声量、タイミング。すべて完璧な、良いチッキショーです」
──(良いチッキショーってなに?)しかし奈良娘のシーカーせんべい手裏剣は止まらない! 鹿にあげていたせんべいをことごとく投げつけている! 鹿たちがかわいそうだ! そして和歌山娘もそのたびに「チッキショー」と言いながらかわしてます!
「このチッキショーはもはや芸術ですね」
──どこがどう芸術なのかわかりませんが、おっと! 今度は和歌山娘が大胆に奈良娘の懐に飛び込んでいったぞ!?
「ああ見えて身軽なんです」
──一気に奈良娘の懐に飛び込んだ和歌山娘! その渾身の右鉄拳が炸裂ーーー!
「【中華そばなめんな拳】です! 和歌山の中華そばをバカにしたらラーメン屋の店主から鉄拳が飛んできたという伝説の技ですよ!」
──どこから生まれた伝説なのか! 気持ちはわかりますが、暴力はいけません。そして心なしか中華そばのスープの香りが漂ってくる!
「あ、鹿に飛び乗って逃げましたね」
──あー! なんと奈良娘、鹿の背中に飛び乗って和歌山娘の攻撃をかわしました! これは見事な鹿さばき! にしても鹿って乗れるんですね。
「乗れませんよ。良い子は決して真似しないでください」
──そして奈良娘、鹿に乗ったまま突進をかけるー!
「【シーカーばいばいバビューン】からの【シーカー奈良漬けアタック】です! これはお見事!」
──個性が爆発してる! 技の名前の個性が爆発してます! いったいどこをどうツッコんだらいいのか。とりあえず奈良漬けはまったく関係なーい!
「さすがの和歌山娘もかわしきれませんね、これは」
──和歌山娘、奈良娘のシーカーなんたらアタックでかぶっていたお面が吹っ飛んだー!
「チッキショーと叫びましたね」
──かわしてもチッキショー、食らってもチッキショー。何をそんなに悔しがってるのでしょうか。
「ああ! あれは!」
──な、なんと! お面の下にはさらにお面! 酸っぱい顔をした梅干しのお面の下には憤怒の顔をした梅干しのお面が隠されていたー! ようやく和歌山娘の顔を見れると思ったのにー! チッキショーーー!
「発音、声量、タイミング、すべて完璧な良いチッキショーです」
──あ、ありがとうございます……でいいのでしょうか。そもそもお面をつけてる意味をまったく感じられません。
「梅のお面はもはや様式美ですからね」
──そうですか。とにもかくにも和歌山娘はまだまだお面をつけたままバトルをするようです。
「お、奈良娘も本気を出しはじめましたね」
──おーっと!? ここでなんと! 奈良娘が杵と臼を取り出しました!
「【超高速よもぎ餅スペシャル】です。勝負に出ましたよ」
──鹿に囲まれたまま、杵と臼をセットする奈良娘! 超高速で餅つきを始めた! 速い速い! 超高速の餅つきだ!
「一説によると、この速さはギネス記録に載ってるそうです」(適当です)
──ギネス記録ですか。さすがは奈良娘。ギネスまで巻き込んでいた。それにしてもこの超高速餅つき。目にも止まらぬ速さです。
「おや? 和歌山娘も何か仕掛けてますよ?」
──あ、本当ですね。何やら両こぶしに気をためています。これは何をする気でしょう?
「おそらく【千畳敷・三段壁・円月島のトリプルボンバー】で迎え撃とうとしてます」
──それはすごい! 【超高速よもぎ餅スペシャル】VS【千畳敷・三段壁・円月島のトリプルボンバー】ですか! 正直、どんな技かまったくわかりませんが、これは見ものです!
「奈良娘が先に発動しましたね」
『超高速よもぎ餅スペシャル!!』
──出たー! 超高速でついた餅を臼ごとアイスホッケーの要領で和歌山娘に撃ち放ったー! ついた餅、ぜんぜん関係なーい!
「さすがは奈良娘、行動が読めません」
──どうなる和歌山娘! あーっと! 和歌山娘がカンフーのようなポーズをとったぞー!? そこから千畳敷ボンバー・三段壁ボンバー・円月島ボンバーのトリプルボンバー炸裂ー!
「背後に絶景が見えます」
──これは絶景かな絶景かな! 素晴らしい三連コンボで奈良娘の放った臼が粉々に粉砕されました! 軍配は和歌山娘にあがったようです。
「いやー、円月島ボンバーの際に見えた夕日は素晴らしかったですねー」
──日中なのに夕日が見えるイチローさん。これは和歌山娘の技がすごいのか、単にイチローさんの目がおかしいのか。
「あ! 奈良娘が!」
──ああ! な、なんと! 奈良娘がすでに次の技の準備に入ってます! これは!?
「【奈良の大仏シーカーチョップ】です!」
──ななな、なんとー! 奈良娘の右手だけが超巨大化していくー!
「でかっ!」
──そのまま和歌山娘にチョップを食らわせたー!
「【超高速よもぎ餅スペシャル】は次の攻撃の布石だったわけですか、素晴らしい」
──和歌山娘、あえなくダウーン! でも素晴らしい景色を見せてくれました。
「和歌山娘の頑張りに感謝です」
〇奈良娘 VS ×和歌山娘 【決め技:大仏シーカーチョップ】




