滋賀娘 VS 三重娘
──さあ、会場のボルテージは上がったままの第十二試合。続きましては滋賀娘と三重娘の対決ですが、イチローさん、いかがでしょうこの二人は。
「まさに忍者対決ですよ」
──忍者対決?
「滋賀娘と三重娘といったら甲賀と伊賀ですから」
──ああ、なるほど! 滋賀娘と三重娘といったら甲賀と伊賀ですよね!
「忍法・メガネ残しの術~」
──芸人さんのネタをパクらないでください。ところでイチローさん。甲賀忍者と伊賀忍者ってどう違うのですか?
「え?」
──甲賀忍者、伊賀忍者と言われても、我々にはピンとこないのですが。
「ふふ、そうですよね。わかりづらいですよね。いいでしょう、お教えしましょう! この解説一郎、この日のためにネットを駆使して調べあげました!」
──(ネットかーい!)お、お願いします……。
「えー、一般的にはですね、甲賀忍者は毒や薬に長けたスペシャリストで、伊賀忍者は忍法や戦闘術に長けたスペシャリストだったと言われています」
──つまりは間接的に手を下すか直接手を下すかってことですか?
「わかりやすく言うとそうですね」
──ということはこの両者の対決もその違いが出てきそうですねー。
「それと甲賀忍者は一人の主君に仕える主従関係の間柄で、伊賀忍者は依頼があれば請け負うという、いわば傭兵集団みたいな感じだったようです」
──なるほど。こうやって聞くと甲賀と伊賀ってまったく違う種類の忍者なんですね。
「わかっていただけて何よりです。それと注意書きでネット調べという文言もよろしくお願いします」
──はい?
「文献によると違ってると言われても困りますから」
※すべてネット調べです。
──こ、これでいいでしょうか?
「十分でしょう」
──(この人、解説者なのになー……)それでは甲賀忍者改め滋賀娘と伊賀忍者改め三重娘の入場です!
「………」
──………。
「………」
──……入場してます?
「あ! あそこを見てください!」
──ああ! なんとバトル会場の中心に不自然に生えてる木があります! まさかあれが……!
「滋賀娘です!」
──なんと木の中から緑色の忍者コスチュームを着た滋賀娘がタヌキと一緒に登場したー!
「さすがは滋賀娘。忍法隠れ身の術で登場ですか」
──普通にバレバレでしたが……。対する三重娘はどこだ!?
「あ! 会場の壁面を見てください!」
──あーっと、今度は露骨によくわかります! スポンサーの横断幕の横に「三重娘見参!」と書かれたポスターが貼られてます! そしてその後ろに忍びの格好をした三重娘が隠れていました! なんて雑な隠れ身の術!
「どうやら忍法対決は互角だったようですねー」
──想像していたよりもはるかにレベルが低かった気が……。とにかく両者出そろいました。いったいどんな忍法対決を見せてくれるのか。それではバトル開始です!
カーン!
──おーっと! ゴングの合図とともに会場に煙幕がはられました! どちらが放ったけむり玉かわかりませんが、まさに忍者らしい道具をいきなり使ったー!
「さすがは忍者ですねー。けむり玉を使って姿を消す、これこそ忍者の常とう手段ですよ」
──姿が見えないと実況のしようがありません。まさに実況泣かせの技!
「あ、咳き込んでますね」
──な、なんとー! けむり玉で姿を隠したはずが、両者ともその煙を思い切り吸い込んで苦しそうに咳き込んでいる! 本当に忍者なのかー!?
「こういうお茶目なところも逆に可愛いですよね」
──イチローさんの好みはどうでもいいです。
「あっ、見てください!」
──おーっと! 滋賀娘と三重娘が煙玉でむせてる間に、両者のサポート役の動物が飛び出してきたぞ! 滋賀娘からはタヌキが! 三重娘からは犬が登場してきました!
「忍犬はよくありますが、タヌキは珍しいですねー」
──お互いに牽制し合ってます! これ以上ご主人様には近づけさせないぞと言わんばかりのにらみ合い!
「これは可愛い対決です」
──ここにきてようやく咳が収まったか、滋賀娘! 持っている手裏剣で三重娘を攻撃ー! しかし三重娘も咳が落ち着いた様子! 冷静にこれをクナイで弾きます。
「あ、まずいですよ、これは」
──こ、これはー! なんと投げたのは手裏剣ではなく、手裏剣の形をした袋だったー! 中からどう見ても毒だろと言わんばかりの紫色の粉が舞い散るー!
「毒と薬の甲賀忍者、本領発揮ですね」
──むせるむせる、三重娘! さすがに毒の粉は防げなかったか!
「あばばばば……」
──いや、イチローさんはくらってないでしょ。
「すいません、あの煙を見たらつい。それにしてもこれは三重娘も終わりかもしれませんねー」
──そうですねー。さすがは甲賀忍者の滋賀娘。毒で相手を圧倒してしまいました。
「あ! いや、見てください!」
──こ、これは! 巨大な神社が出て来て毒をすべて吸い取ってしまったー!
「【忍法・伊勢神宮かみだのみ】です! 伊勢神宮の力で三重娘をサポートするという伝説の技ですよ!」
──忍法・伊勢神宮かみだのみ! 確かに伊勢神宮の神様に頼めばなんとかしてくれそうです!
「ただ、何を叶えてくれるかわからない賭けのような技でもありますからねー。今回は運がよかったですよ」
──運も味方につけたか三重娘! 今度は滋賀娘に対して忍犬とともに突撃をかけるーーー!
「【忍法・鈴鹿サーキッチュ】です! 相手に対してジャンピング体当たりをかます大技です!」
──忍法・鈴鹿サーキッチュ! もはや忍法関係ない! 三重娘が滋賀娘にジャンピング体当たりーーー!
「あ、タローさん。見てください!」
──こ、これは! 突撃してくる三重娘の前でタヌキがお腹をポコポコ叩き始めました!
「【忍法・信楽焼ぽこぽこ】です! 【忍法・信楽焼ぽこぽこ】を発動しようとしてますよ!」
──信楽焼ぽこぽこ?
「ほら見てください! タヌキが!」
──な、なんと! タヌキのお腹がどんどん大きくなっていきます! どんどん大きくなって、突撃してきた三重娘をそのまま包み込んだー!
「【忍法・信楽焼ぽこぽこ】に捕まったら終わりですよ」
──これは逃げられない、三重娘! タヌキのお腹に包まれながらもがき苦しんでいる! 当のタヌキはひょっとこみたいな愛らしくも憎たらしい顔をしているーーー!
「店先に置いてあるアレですね」
──さすがは忍者のパートナー! 他の動物パートナーたちとは一味も二味も違います!
「三重娘も脱出しようともがいてますねー」
──イチローさん、これはもはや勝敗は決まってしまったのでは?
「そう思いますが、相手はあの三重娘ですからね。忍者は最後の最後まで何があるかわからないんですよ」
──あーっと! そうこうするうちにタヌキのお腹のあたりが何やら燃えているぞー!
「出ました、三重娘の【忍法・火遁の術】!」
──ようやく忍者らしい技が飛び出したー! 三重娘を包み込んでいたタヌキ、慌てて三重娘をお腹からポンと放り出すー!
「タヌキと火は相性悪いですからねー。よく思いつきました」
──カチカチ山で散々痛い目にあってますからねー。火はタヌキにとって天敵でしょう。さあ、ここぞとばかりに三重娘が詰め寄って来る! こ、これは!?
『忍法・めおと岩!』
──なんとー! 二組の岩が地面からせり出して滋賀娘に襲い掛かるー!
「岩の夫婦です。この絆は固いですよー」
──そんなふたつの岩が滋賀娘に直撃ーーー!
「い、いえ、見てください!」
──こ、これは! 滋賀娘に直撃したかと思いきや、当たったのは入場シーンで登場した大きな木だ!
「【忍法・身代わりの術】ですね」
──ここに来て忍者らしさを演出し始めた両者! さすがに関係各社に怒られると思ったのか、忍者らしい術で対抗しています!
「別に誰も怒らないと思いますが……」
──身代わりの術で姿を隠していた滋賀娘、なんと三重娘の背後に忍び寄っているーーー! とっさに反応する三重娘相手に渾身の延髄蹴りが炸裂ーーー!
『忍法・びわ弧延髄蹴り!!』
──最後はまさかの体術! 甲賀忍者も体術を使うんだぞというアピールでしょうか、見事な延髄蹴りを食らわせました! 忍法なのか怪しいですが!
「忍法つければなんでも忍法になる説ですね」
──……あ、そうですか。
〇滋賀娘 VS ×三重娘 【決め技:びわ弧延髄蹴り】