その一
そして迎えた入居第一日目。荷物の輸送を買って出てくれた真樹さんとほっちゃんと別れた私は、少し歩いた先にあるスーパー銭湯でひと風呂浴び、食堂ですっかりほろ酔いになってから家路についた。
「……人目を気にしなくっていいのは、幸せだなぁ」
叔父さんの家にいたころは、帰りが遅くなりそうだと電話がかかってきたし、缶ビールやチューハイなんかを買い込んで帰れば、
「若いうちからそんなに飲んで……」
と、下戸の一家から白い目で見られる始末だった。だが、一人暮らしとなればそれもない。ただただ、好きな時に起きて、好きな時に出かけられる。些細なことのようで、これが案外実現してみるととてつもなく快適だと、第一日目から私はすっかり、一人暮らしの気楽さに酔いしれていた。
「たっだいまぁ――」
誰もいない光月荘の玄関で、帰りがけに寄ったコンビニの袋をぶらつかせながら、私は陽気な調子で声を上げた。戸締りを確かめて、三階へ続く長い階段をあがると、そこには昼間、三人で荷物をあげた六畳三間のふすまと、細い廊下が待ち構えていた。
そして、明かりとテレビをつけ、居間として使うことにした南向きの窓のある、六畳の真ん中へ寝転がると、私は袋からチューハイの缶を出し、そっとタブを起こした。行儀の悪いのは百も承知だが、こんな風にして誰も怒らないのを考えるだけで、すさまじく楽しい。
「――天国! ここは天国だぁ」
テレビから流れてくる、雛壇芸人のトークなど気に留めず、私はささやかな二次会――たった一人きり、ではあるけれど――の余韻にひしと浸かっていた。当然、止める相手もいないので酒の量も増える。四本目の缶ビールを開けたあたりで、いよいよ瞼が重くなり出した。気が付けば、そろそろ日付が変わろうとしている。
「もうこのまま寝ちゃえっ」
どうせ明日はバイトも講義もない。ゆっくり昼まで布団の中にいよう――。
着替えを出すのもおっくうで、履いていたジーパンやシャツを脱ぎ捨てると、私はそのまま寝室のローベッドへ潜り込み、心地よい眠りの中へ体を預けたのだった。