彼岸に散る花
あの人は運命の人だった。
あの人以外考えられなかった。
でもあの人は逝ってしまった。
寂しさに耐えきれず彼と結婚した。
彼が好きだと思っていた。
間違いなく彼を好きだった。
結婚して気付いた。
好きだけど愛してはいない。
私は彼があの人である事を望んでいた。
そしてあの人ではない彼に失望した。
それが申し訳なくて彼に優しくした。
彼はいつも素っ気なかった。
その度に「あの人じゃない」という思いが強くなり、更に罪の意識に苛まれた。
だから「ごめんなさい」の代わりに「愛してる」と言い続けた。
それでも後ろめたさは消えなかった。
彼が逝ったとき私も跡を追った。
命で償えば罪悪感が消えると思ったから。
私が随いてきた事に気付いた彼は一言、
「生きてる間だけで十分だろ」
その冷たい言葉で悟った。
彼はとっくに気付いていたのだ。
私が彼を見てない事に。
ずっとあの人を思っていた事に。
だから素っ気なかったのだと。
彼は私を置いて去った。
彼を追いかけるわけにはいかない。
けれどあの人の元へもいけない。
他の人を身代わりにしておいて今更どの面下げて会えるというのか。
どこへも行けない私はその場に留まるしかなかった。
それで罪を償う事が出来れば。
死んでまで虫のいい事を考えながら今もその場で立ち尽くしている。