2ワ#『否定』
僕は昔から、笹子お婆さんと一緒に生活している。5年前に孤児院から引き取られた。
僕は幸せだ。毎日満腹にご飯を食べられるし、元気に学校にいける。叶わない願い事は全部ハシナモにお願いしたらなんでも叶えてくれる!だから何一つ不自由のない生活だ。
─────ただひとつ。悩みがあるとするならば、学校でいじめられている事だ。
「やぁ、貧乏人クーン。おはよう。早速だけど算数の教科書貸せよ。」
そうショウキ君が言うと僕は釣れない顔で「分かったよ」と潔く教科書を貸す。すると
「それでいいんだよそれで。」
とショウキは調子に乗る。
でも、これだけでは終わらない。ショウキ達は何回も、何回も彼に嫌がらせをし続けた。クラスのみんなも彼に同調して遊助をいじめ、或いは無視をした。
───例えば、一週間前。
「遊助の奴、奏川さんのこと好きらしいぜーww」
とショウキとその取り巻きが噂を吹きかけるとあっという間に学校中に知れ渡った。
奏川とは学年一の美女と言われている女子である。彼女もまた、遊助をいじめる一員だ。
「(うわー、あいつが噂の奏川さん好きってやつ...)」 「(まじで!?絶対無いわー...)」
「(あいつ奏川のこと好きらしいぜ!好きなら早く告れってんよなーwそんで玉砕ってなw)」
「(おいおい、聞こえてるかもしんねーぞww)」
───と。こんな感じで言いふらされていて奏川さんの耳にも届いていて奏川さんは「あんな貧乏人が?キモっww」と思っているみたいだ。何しろクソ性格の持ち主だからね。
───────
「なあなあ、みんなー!遊助が今日の放課後に奏川さんに告白するらしいぜー!」
「は!?マジで!?」 「やばいwチョーウケるww」 「ぜってぇおもしれぇじゃんw」
噂に噂を吹きかけた結果、彼は全校生徒369名の前で告白をする事になった。
「「こーくーれ!」」 「「こーくーれ!」」 「「こーくーれ!」」
「「こーくーれ!」」 「「こーくーれ!」」 「「こーくーれ!」」
逃げ場なんてどこにも無い。360度どこを見渡そうとそこは悪意。一人の人間性を嘲嗤う人の壁。そしてこれは彼の意思ではなく、一人の人間が悪意を為した結果だ。
カリスマ、いわば集団を率いる者。そのカリスマ性を持つ者の言葉は誰かの心を傷付ける言葉にもなり得るし、誰かを救う言葉にもなり得る。或いは、自らが無数の言葉の刃を突き付けられる事もありうる。
変幻自在な概念が"言葉"。その言葉をショウキはたった一人の人間を否定する武器にした。
〝何の為に?〟と言われても理由など無い。彼自身の心が気持ちよくなりたいからだ。
そして中々告白をしない遊助にトドメの一言を刺す。
「おい、早くしろよボケ。早くしねーとお前の住所ネットにバラすからな。」
「10、9、8...」
僕はその言葉に緊張感が走るのと同時に恐怖が先走った。どうしようもないこの状況を打破するべく嗚咽混じりに告白をする。
「奏川さん..す、す、すきで..す...」
「ごめんなさーいw無理でーーーーーすwww」
そう奏川が言うとみんなは嘲嗤い、絶叫し、僕を否定した。そこに溢れるは笑いではなく嗤い。人から幸せを受けるのではなく人を見下す嗤い。
それは愚かしくて気持ち悪くて人間そのものを体現しているかのようだった。ただひたすらに残酷すぎるその絵面に僕は吐いてしまいそうだった。
「あはははははは!!!!!」 「キャーーー!!!!!!!」 「気持ち悪ーーーい!!!」
僕に飛ぶのは罵詈雑言。人間というのはここまで残酷になれるのか。それとも根が残酷なのだろうか。それは今の僕にも分からない。
「あっははwいいものを見せてもらった!もう充分だ。みんな帰っていいぞ。」
ショウキの一声でみんなは解散して行った。僕はもう精神的にボロボロになっていた。
「なんで...なんで...なんで...」
僕はもう泣き出していた。それを上から見るようにショウキが嗤いながら応える。
「なぜってぇー?そりゃあ気持ちいいし楽しいからだよ!!」
「それだけ...で...?」
「ああ!お前が用済みになったら他のやつに切り替えるし問題ねぇよwどうせお前は消耗品wwそれに先生も黙ってくれるしなw」
そう言い終わると終わりにするかのように言葉を紡ぐ。
「とりあえず今日は満足したから終わりにしてやるよ。明日はもっと楽しませてくれよな」
確かに彼のいじめは終わったが僕の復讐心は終わってすらない。でも、僕に何か出来るのだろうか...
〝そうだ!ハシナモになんとかしてもらおう!〟
そう思いながら僕はニヤけた顔をしまい、家に戻る。
とても温かい話でしたね!次はもっと皆さんをほのぼの、そして笑顔にさせる話を書くのでよろしくお願いします!(*^^*)