一、光
自分は基本的に臆病である。いつも通う学校のいつものクラスも入るのに戸惑うし、緊張すれば直ぐに腹が痛くなってトイレに籠ってしまう。そんな人間である。クラスに率先してイジメてくるような奴が居ないのは不幸中の幸いだろうか。
そして俺は今日も今日とて、学校で一人寂しくも穏やかに過ごす。勉強面倒だな、家帰ったら何しようか、なんてことを考えていた。
–––もっとも、この後家に帰るなんて考えられない事が起きるのだが。
四時間目が終わり、遂にお昼時である。母から渡された弁当箱を机に置き、包みを開き、蓋を開けて覗く。
(本日は白米、サバの味噌煮に出汁巻、筑前煮と…ッ!な、何故貴様が此処に居るッ…プチトマトォ!)
そこに居たのは俺が高確率で腹痛を起こす原因第三位のプチトマトが、まるで此処に居る事がさも当然かのように鎮座していた。
(何故だ…。母にはトマトは抜いて欲しいと散々言った筈だ…。LINEすべきか…?しかしこんな事を言ったら、じゃああんたが作りなさいよ、的な事を言われるのは確実…。なら俺に残された道はただ一つ…)
俺は鼻をつまみ、プチトマトを口に放り入れた。
結局のところ、
「グッ…ウッ…ハァッ、ハァッ…」
俺はトイレに籠っていた。あの後弁当を食べ切る事には成功したのだが、食べ終わった数分後に俺は猛烈な便意を感じ取った。予想はやはり的中、下痢である。
(結局こうなってしまうのか…)
俺はおもむろにスマホを取り出し、時刻を見た。
(昼休みは残り十分…。ただの便ならまだしも下痢だと少しきついかもしれん…)
俺は授業には間に合う事を祈り、迫り来る便の解放を再開した。
丁度その頃の教室。
「でさ〜、あいつパなくない?教師殴って停学だってさwww」
「やばい、マジウケるw」
「ゆずゆず〜。数学の宿題見して!」
「またぁ?」
「…チッ。騒がしい」
「コラッ!走るな青木!」
今日も賑やかな教室。ギャルや陽キャは大声で会話に勤しみ、普通の生徒達は気ままに青春を謳歌する。未だ厨二病を拗らせた生徒は現状に悪態をつき、真面目委員はクラスの風紀を取り締まる。
しかし終焉は突如として訪れた。
「…なんか揺れてないか?」カタカタ…
「…地震?」グラグラ
「怖いねゆずゆず」グラグラ
「そうね…ってキャッ⁉︎」グラグラ…ピカッ‼︎
「な、なんだあこの光は⁉︎」
「ちょっ、皆落ち着いて!誰か先生に…」
「そんな暇ねえって…うわぁああぁあぁ!!」
「キャアアァアァアアアアァァァァ!!」
「誰か助けッ…」
フッ…
同時刻、トイレにて
「…んっ⁉︎…地震か?」カタカタ…
そういえば最近起きてなかったな。ちょい半寝状態だったから無駄にびびってしまった。
「強くなってきたな。早く尻拭かんと…」グラグラ
(あれ?紙がどこにも…って、なんだ。揺れで落ちたのか)
誰も居ないのに無意識に個室の中を見回し、俺は下に落ちていたロールペーパーに手を伸ばした。正にその瞬間だった。
「うわっ⁉︎」ピカッ
突如として床が光り出し、猛烈な量の光が狭い個室を駆け巡った。
(なっ、なんだこりゃあ⁉︎)
フッ…
この日、とある学校の一クラスと一つのトイレの個室が地球上から消え去った。