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第八話 ギルドマスター



「勝負あり!カインの勝利!」


審判を務めたギルド職員の女性、サーシャの声と共に、フィールドに展開していた結界が解除される。

大きく息を吐くのは黒髪黒目の少年、カイン。その近くの地面には桃色の髪のツインテールの少女、レナが仰向けで倒れている。


勝負を終えた二人に短髪の男、ハラルドが歩み寄る。


「いやー、見事だったな」

「……やりすぎた?」

「そんな事はねぇよ」


ニヤニヤと悪人にしか見えない笑みを浮かべて喋るハラルド。

その視線は未だ倒れたままの少女、レナに向いていた。


「こいつにもいいお灸になっただろ」

「……うっさいわね」


レナは倒れたまま膨れっ面で答える。

その顔は汗ばんでおり、疲労が溜まっているのが分かる。

第二の血液とも言われる魔力。それを膨大に消費したレナは立ち上がるのが億劫な程に疲弊していた。


「はぁ、負けるとは思ってなかったわ」

「鍛え直しだな、レナ」


いつの間にかハラルドの後ろにいたのは独特な雰囲気の男、シロウとゆったりとしたローブの魔法使い、クリシュナの二人。

レナの師でもある二人の視線は全く笑っていなかった。

師匠の熱い視線を浴びたレナは慌てて飛び上がる、が直ぐにふらついてしまう。


「っと、無理すんなよ」

「……うっさいわね。…………ありがと」


倒れそうになるレナを支えるハラルド。

その背後から新たな人影が現れる。

拍手をしながら歩み寄ってきた初老の男性。白髪ひとつ無い髪を左右に流し、ギルドの制服を着ているその男性は人が良さそうな笑みでハラルドの正面に立つ。


「久しぶりだな、ハラルド」

「元気そうだな、テルウ」

「良いものを見せてもらったよ。……揺れるとは、思ってなかったがな」


ハラルドと熱い握手を交わす男性、テルウ。

テルウは視線を横に動かし、レナとカインを見つめる。その雰囲気は物腰柔らかな紳士のよう。

優しそうな雰囲気のテルウに見つめられ、レナは居心地が悪そうに視線を彷徨わせる。


「熱い戦いだったからな、それぐらい許容範囲だろ。それで?このギルドのギルドマスター様がわざわざ何の用だ?」

「そんな言い方はないだろう。旧友が訪れたと聞いたんだ。挨拶ぐらいするさ」

「けっ、何が旧友だ」


ハラルドの言葉には棘があるものの、両者に流れる雰囲気は純粋に再会を喜んでいるようだった。他のメンバーもこのやり取りはいつもの事なのか特に心配する様子はない。

再会を喜んだハラルドはテルウに視線を固定したまま動かないカインまで近づく。


「一応紹介する。こいつはうちの新人だ。訳あってまだ冒険者じゃねぇから登録しに来た」

「また厄介事か?懲りないな、お前も」

「言ってろ」


テルウはカインに合わせ腰を落とし手を差し出す。

ニッコリ微笑むテルウにしかし、カインは手を出さない。短い付き合いではあるがなんとなくカインのことを分かってきたハラルド達は、ただ単に見知らぬ人に緊張しているのだろう程度にしか見ていなかったが、カインの視線は警戒そのもの。

まるで肉食動物と対峙した草食動物のように、いつでも動ける体勢で構えていた。


「そう怯えなくてもいい」

「あん?」

「クックック、少し試させてもらったよ。中々筋がいいじゃないか」


楽しそうに笑うテルウ。

そこに先程までの柔和な雰囲気はなく、どこか冷たい印象を受ける。

ようやく肩の力を抜いたカイン。

しかしその目前に、掌が迫り。


「ぐぁっ」

「ってめ、なにしやがる!」

「少し眠ってもらうだけだ。休みは必要だろう?」


テルウが唐突にカインを殴り飛ばす。抵抗なくフィールドの端まで吹き飛ばされるカイン。

言い争う二人を視界の端に捉えながら、カインの意識はゆっくりと暗転していった。



■■■


「……説明してもらおうじゃねぇか」


思わぬ形で増えた負傷者二人をギルドの医務室に運んだ後、ハラルドとテルウは応接室で話し合っていた。

苛立ちが隠せない様子のハラルドと、涼しい顔で茶を嗜むテルウ。両者に流れる空気は険悪そのもの。

今にも爆発しそうなハラルド。その目はテルウの一挙一動を追っている。


「……説明を求めるのはこっちだ、ハラルド」

「なんだと?」


カップを置き、ハラルドの目を見て話すテルウ。


「あの子供、どこで拾ってきた?」

「……何処でもいいだろ」

「良くないから言っている。お前は依頼でセクタールから来たな。ルートは……魔の森沿い」

「だから何だ」

「惚けても無駄だ。大方、森で拾ったのだろう?」

「…………」


テルウの鋭い言及に言葉が詰まる。

ハラルドはカインを信用しており、たとえ魔の森から現れた得体の知れない子供だとしても良いと考えていた。

しかし、この街の防衛の一部を担うテルウはそうはいかない。

ただでさえ危険の代名詞である魔の森と隣接する土地。その土地からやってきた子供など、信用出来るわけがなかった。


「お前、分かっているのか?」

「分かってるよ」

「分かってないからこんな軽率な行動をとるんだ!」

「……あいつは、俺らを二度助けた。それも自分が怪我を負うにも関わらず、だ」

「……それで信用足る、と?」


再び二人は睨み合う。

一触即発の空気。無意識の内に両者の手に力が篭もる。


「…………はぁ。本当に変わらないなお前は」

「……うるせぇ」

「いいだろう、お前が管理するなら目を瞑ってやる。ただし、少しでも目立った行動をしたら俺はあの子供を拘束するからな」

「……あぁ」


心底疲れた様子でテルウは天井を仰ぐ。

昔からお互いを知るからこそ、テルウはハラルドがテコでも動かないことを理解していた。


「本当に、変わらないなお前は」

「お前に言われたかねぇよ」


ようやく自然な笑みが戻った二人に、外からノックの音。

外にいたのはシロウ。


「少年の意識が戻った」

「分かった。今行く」

「私も同席させてもらおう。先程の無礼も詫びなければ」


本当に詫びる気があるのかという疑問は呑み込んで、三人はカイン達が休む医務室へ足を運んだ。

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