第七話 決着
「はっ、せい!やっ!」
気合いと共に燃え盛る剣が振るわれる。
振るうのは桃色の髪の少女、レナ。
そしてそれを避け続ける黒髪黒目の少年、カイン。
「くっ、『炎弾』!」
「……っ」
地面に放たれた炎弾によって、二人は距離をとる。
「……ふぅ」
「中々やるじゃない。でももう終わりよ!」
再びレナは駆け出す。
先程よりも苛烈に攻めるレナだが、その攻撃がカインを掠めることは無かった。
のらりくらりと、最低限の動きで避け続けるカイン。
「……凄まじいな」
「全くだ。あんな動きそうそう出来ねぇぞ」
カインの動きをじっと見つめるハラルド達は、もう何度目とも分からない再評価をすることとなっていた。
「森の中で過ごしていたとは思えん対人能力だな」
「師がいた可能性が高いな。……あの森に住むとかどんな変人だ?」
右手に燃え盛る剣を持ち、空いた左手で魔法を放つ。一見隙間がなさそうな猛攻の隙間をカインは次々と潜る。
「穿て!」
「ふっ」
詠唱を完全に破棄したレナによる数多の魔法の炎が飛び交う。
その様子を見ていた魔法使いの女性、クリシュナはふと零す。
「……不味いわね」
「あぁ」
「何がっスか?」
同意するハラルド達。唯一分かっていないのか寝癖の目立つ髪の少年、レックは疑問を浮べる。
それに答えるのは眠そうな猫耳の少女、フィーナ。
「ん〜、魔力切れ〜」
「少年は身体強化以外に魔力を使っていない。それに対し、レナは魔法を使い過ぎている」
「確かに、カイン君避けてばっかっスね」
今もヒラリとレナの攻撃を躱したカイン。その顔に疲労の色は無い。
対して、レナの顔には若干疲労が滲んでいた。
「でもレナの魔力量半端ないっスよね?」
「確かにレナの魔力量は多い。しかしこの状況、痺れを切らして大技を放つ可能性が高いだろう。そうなった時、それを回避する能力を少年は有していると見てまず間違いない」
「なるほどっス」
「そろそろだね〜」
フィーナの言葉通り、レナが放つ魔法は次第に威力を増していた。
それでもカインを掠めることは出来ない。
レナのイライラが募っていく。
「さっさとやられなさいよ!」
「……」
「あぁもう、『ファイヤーボール』!!」
当たらないことにとうとうキレたレナは火の初級魔法、ファイヤーボールを放つ。その一つ一つは拳大の大きさで、当たってもさほどのダメージは無い。
ただそれは、一つだけならの話。
手のひら、では無くレナの周囲から無数に放たれる火の玉。
それらは凄まじい勢いでカインへ迫る。
「……これは、ちょ、っと、……きっ、つっ!?」
「よし、やっと当たった!」
「くっ、親火!」
その密度は流石のカインも回避できず。ついに被弾してしまう。
機嫌を良くしたレナはそのまま更にファイヤーボールを撃ち続ける。
拳大の火の玉が雨の如く降り注ぐ。だが、それがカインにダメージを与えることは無かった。
避けきれないと判断したカインは飛んでくるファイヤーボールを殴り飛ばす。
魔法で形成されたファイヤーボールは魔力を纏うことで弾くことが出来る。拳にグローブのように魔力を纏ったカインは必要最低限のファイヤーボールを弾くことで回避出来る隙間を作っていた。
「器用だな」
「うむ。どうやら少年はレナと直接ぶつかる気は無いようだな」
「ふふ、優しい子なのね」
徹底的な回避の姿勢は、明らかにレナのガス欠を狙っている。
二人の顔色からも、決着が迫っていることは明らかだった。
それはレナも自覚しているようで、ファイヤーボールの打ち込みを続けたまま新たな詠唱を始めた。
「【喚け、聖なる大地の番犬よ!その言葉、万物縛る鎖たれ!】『紅蓮式・籠鳥』」
ファイヤーボールの嵐の中、レナの詠唱が終わる。
カインを囲うように四隅に火柱が立つ。その四点を起点にカインを囲う鳥籠が作られる。
既にファイヤーボールの雨は止んだが、カインは鳥籠に捕らえられてしまい、殆ど身動きが取れない状態になっていた。
「ようやく、捕らえたわよ!」
逃げようにも檻に隙間はなく、無理矢理にでも抜けたら勝負に負けてしまう。
檻は狭く、レナの魔法は必ず当たる。
勝負アリ。レナはニヤリと笑う。
「……なぁ、あいつ避けなかったよな」
「うむ。見えていない、なんてことは無いだろうな」
「なにかする気だね〜」
ハラルドは明らかに囚われに行ったカインを見て、顔がニヤけるのを抑えられなかった。隣にいるシロウ、フィーナも勝負の行方よりカインが次に何をするのか楽しみ、といった様子。
「逃げられなきゃこっちの勝ちだっての」
「……灯せ」
「【我が魂の叫びに応えろ!】」
警戒するカインは腰を低く構える。その前でレナの体がドクンと波打つ。
その右胸は赤く染め上がっており、心臓の鼓動のように脈動していた。
おもむろに右手に持つ剣を真上に掲げる。
すると、右胸にあった脈動するなにかはゆっくりとその剣へと移動していく。
「……まじかよ」
「終わりよ。『紅蓮之太刀』ッ!!」
何度目かの終了宣言。しかし今のレナの目に容赦の二文字は無い。
燃えていた剣がより一層激しく燃え上がる。
やがて炎は形を変える。
ぐんぐんと大きくなっていく炎は滑らかに鋭さを増していく。
あっという間にレナの身長の三倍にも膨れ上がったそれは鋭利な刀となる。
瞳を赤く染めたレナの振り下ろした刀がカインに迫る。
「……『不知火』」
振り下ろされた刀は爆発し、地下を光で埋め尽くす。
上の建物さえ僅かに揺らすほどの轟音と衝撃。
カインの動向に注視していたハラルド達は舞い上がった土埃に加えて爆発の光に目をやられていた。
「あっ、くそ。目が」
「凄まじいな」
「んにゃー!目がー、目がー!」
後ろでドタバタと転げ回るフィーナをよそに、土埃の晴れてきたフィールドの様子を見る。
そこには。
地面に仰向けに倒れるレナと、そのすぐ横に立つカインの姿があった。
ピクリとも動く気配の無いレナ。
横に立つカインに目立った傷の後はない。
その様子は完全に勝負が決していた。
「し、勝負あり!勝者、カイン!」
爆音と閃光の間に決着の着いた戦いは、カインの勝利で幕が閉じる。
……二日に一回の更新が自分の限界かもです。それでも見てくれると嬉しいなって。
今まで言い忘れてたというか忘れてたんですが、ブックマークとかもしてくれるとしゅごい嬉しいので、ほんの少しでも暇があったら、してください。お願いします!