第六話 対決
「私と戦いなさい!」
ビシッ、とキメ顔で指を指すツインテールの少女、レナ。
その指の先、机を挟んで座る黒髪黒目の少年は突然のその発言に首を傾げる。
正確に言えば、レナ以外のその場にいる全員が首を傾げていた。
「……いやいや、なんでそうなる」
「簡単よ。私より強ければあの森で生き残れるのも納得だもの。私に勝つことができれば、その話信じてあげる」
「……え、いや。……信じて、もらうも何も……」
「てかお前単純に戦いたいだけだろ」
「うっさいわね!」
ハラルドの言葉が図星なのか、レナは動揺が隠せない。
「とっ、とにかく行くわよ!」
視線が痛いのか、部屋を出るレナ。ドタバタと走る足音だけが静かに響いていた。
出ていった後、ハラルド達は再びカインと顔を合わせる。
「あー、すまんが付き合ってくれるか?」
「……まぁ、問題は、無い」
■■■
宿を出たハラルド達は大通りを歩いていた。
時間帯は昼。人通りは多い。
そんな中でも特に人の往来が激しい建物が一つ。
剣と杖が交差したマークを真正面に飾るその建物は、冒険者たちの集う場、冒険者ギルド。
「……ここは?」
「冒険者ギルドだ。最終仕事斡旋所、なんて言われ方もするけどな」
常に開いている両開きの大きな扉をくぐると、中は沢山の冒険者達で賑わっていた。
ハラルド達はその正面にある受付の一つへと足を運ぶ。
(チンピラでも絡んできたらテンプレなんだけど……)
「おい、あれ……」
「あれがBランク……」
冒険者ギルドから連想されるお決まり事を期待していたカインは周りの冒険者の反応を観察する。
しかし、カインの期待していた展開は起こらず、寧ろどこか距離を置かれていた。
「お待ちしておりました。レナ様から事情は承っております」
対応に現れたのは冒険者ギルドの制服らしき姿の女性。
右胸の名札にサーシャと書かれている女性は満面の営業スマイルでハラルド達を案内する。
案内はれたのは建物の地下。
地下とは思えない広さの空間は円形のフィールドを座席が囲むように作られており、その作りはコロッセオを彷彿とさせる。
コロッセオのような空間の中心、フィールドのど真ん中にツインテールの少女、レナは立っていた。
どちらかと言うと装飾の意味合いが強そうな防具を装備しており、その腰には二振りの剣が存在感を放っている。
その全てが、赤色を基調としていた。
「……来たわね」
「なんかさっきから変だぞ、あいつ」
仁王立ち、腕を組むレナ。
その顔はまるで歴戦の覇者。新たなる挑戦者を待ち受ける試練……のような雰囲気。
ここまで来たら面白くなったのか、ハラルド達パーティメンバーは腰を据えて鑑賞の姿勢。唯一、カインだけが未だに困惑していた。
「付き合わせて悪いな。だが丁度いい。どれだけ強いかは気になってたんだ」
「……えと、その」
「あぁ、心配はいらねぇぞ。決闘なら殆ど何しても死ぬことは無い」
「……そういうことじゃ……」
「では対戦者の方、こちらへ」
脳天気なことを言い出すハラルド。何も分かっていないカインは更に困惑するが、そんな事は関係ない冒険者ギルドの女性、サーシャは淡々と進行を進める。
「では、カイン様とレナ様の模擬決闘を行います」
フィールドに降り立ったカインは中央でレナと対面する。
横には審判も務めるのか変わらず笑顔のサーシャ。
「ではコチラに手を。……はい、ありがとうございます」
「悪いけど、全力で行かせてもらうから」
「…………挑まれたからには、俺も、やる」
水晶のようなものが埋め込まれた機械に手を翳す。ボワッと薄く光ると、フィールドを囲むように薄い膜が形成されたのがカインの目からは分かった。
「……もやもや」
「これは特別な結界よ。この中ならダメージは無いわ」
「…………へぇ」
「では両者離れて」
互いに背を向け、フィールドの端まで歩く。静寂はまるで西洋のカウボーイの決闘前。
「……宜しいですね?では改めて……ここに、レナとカインの決闘を行う!─いざ尋常に、始め!」
「『インフェルノ』ッ!!」
その合図で決闘が開始する。
先に動いたのはレナ。先手必勝とばかりにカインへと容赦のない一撃を放つ。
広範囲、高威力。レナの十八番は一撃で勝負を終わらせる。
そう思っていたのはこの場においてはサーシャただ一人。
レナ含め、ハラルド達でさえもこれで終わりではないと確信していた。
「……ふっ!」
燃え盛る炎の中、では無くレナの横。数少ない炎が届いていない場所にいたカインは勢いよく駆ける。
「『炎弾』っ!」
直ぐにレナの手がカインを捉え、大きな炎の弾丸が迫る。
身長ほどもあるそれを横に飛ぶことでカインは避ける。
「逃さないわよ!」
「……っ!」
更に炎弾がカインを襲う。
カインは休みなく放たれる巨大な炎の僅かな隙間を潜り抜けていく。
「『紅蓮槍』!!」
「……ヤバッ」
常に動き続けていたカインが一瞬足を止める。
その瞬間を見逃すはずが無く、レナが新たな魔法を放つ。
レナの体から魔力が溢れ、渦巻いていくのがカインの目に映る。その蠢きが今までのものとは比べ物にならないほどの威力を秘めていることを感覚で理解したカインは、全力で避ける体勢へ。
範囲を捨て、威力を求めた炎の槍。竜すらも貫くと言われる灼熱がカインの目の前に迫る。
そして。
「ちっ」
間一髪で身を捩ったカインの左脇腹を炎の槍が掠める。
必殺に思われた一撃は掠り傷を生むだけに終わった。
「流石に強いわね。これが躱されるのは予想外だったわ」
「……今のは、危なかった」
「良く言うわ」
呆れたように言うレナはその腰にある剣を一つ抜いた。
抜かれた刀身は一度火花を散らすと、瞬く間に炎に包まれる。
「ヴァンガルグ」
「燃えてる……もやもや?」
「行くわよ。はっ!」
燃え続ける剣を片手に、レナは一気に距離を詰める。
魔法による遠距離攻撃とは正反対、燃える剣による超近距離戦へと戦いは移行していく。
読んでいただきありがとうございます!
中々筆が進まず、遅れてしまいました。
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