第五話 目覚め
「では、依頼は完了となります。ご苦労様でした」
受付嬢のにこやかな笑みに見送られ、にわかに騒がしくなってきた建物を出る。
報酬の入った小袋を懐にしまい、仲間達の待つ宿へ足を運ぶのは短髪の男、ハラルド。
「戻ったぞ」
「おかえり〜」
「様子はどうだ?」
大通りに建つ宿の一番大きい部屋、三階の一番奥の扉を潜る。
戻ったハラルドを迎えたのは猫耳の少女、フィーナ。
ハラルドはその奥、ベッドで寝る黒髪黒目の少年、カインの容態を問う。
「悪くはないって〜。傷は治ったんだけどね〜」
「そうか」
護衛の依頼をこなしていたハラルド達は自分達を庇って傷を負ったカインの治療の為に、急ぎ足で街へ到着。
無事に依頼を完了し、カインの回復を待っていた。
若葉色の髪の少年、レックが介護するも、未だに苦しそうな様子のカイン。
しかし両腕に負った傷は既に治っていた。
「魔力の使いすぎ、か」
「多分ね〜」
ハラルドは椅子に腰掛ける。
傷が治っているはずカインの不調の原因に、ハラルド達は心当たりがあった。
それは魔力。
魔法だけでなく、自身の身体能力を大幅に上げることにも使うことができる魔力。カインの子供とは思えない力の一端はこの魔力によるものだった。
魔力は、枯渇すれば生命の危機にもなりうる。
本来であれ魔力は自然に回復するものなのだが、カインは特異体質のために回復が難航しているようだった。
「帰ったぞ」
新たに部屋に入ってきたのは不思議な服装の男、シロウとツインテールの少女、レナ。その手には服や食料が沢山あった。
シロウはその中から一つの小瓶を取りだす。
「ローポーションか」
「……6歳以下、という事はなかろう」
シロウは買ってきた効き目の弱いポーションをレックに渡す。
レックは寝ているカインの口元にそれを運ぶ。一本分を飲ませる頃には、目に見えてカインの顔色は良くなっており、ハラルド達は安堵した。
「さて、と。このガキが目覚めるまでは動けねぇ。各自ゆっくり休め」
「あいわかった」
「フィーナ、付き合って」
「あいよ〜」
ハラルド達はカインが目覚めるまで、久しぶりの暇を楽しむのであった。
■■■
―上も下もない、何も無い空間に浮いている。
最初に感じたのは、そんな感覚。
誰かが俺を呼ぶ。懐かしいその声は、きっと大切な誰か―
永い夢を見ていた。
カインはそんな余韻に浸りながら、ゆっくりと目を覚ました。
朧気な意識の中、見知らぬ天井に強くない朝の頭を回す。
「あ、目が覚めたっスね!」
「ッ!!」
そしていきなり視界に入る、見覚えのない顔。
そばかすの少年の満面の笑みに、カインの体は反射的に動いていた。
掛かっていた布を捲りあげ、少年の視界を塞ぐ。
ベッドから飛び起き、すぐさま距離をとる。まるで野生の動物のような俊敏さで部屋の端へ移動する。
「ちょっ、ちょっと!?落ち着いてっス!」
「何事だっ!?って」
新しく部屋に入ってきた男に視線を向けるカイン。
その男、ハラルドと目を合わせたカインは段々と記憶が戻ってくる。
そして今自分がしてることを何となく把握して、みるみるうちに顔を青くする。
「あー、まぁなんだ。危害を加えるつもりはねぇから、安心しろ、な?」
「………………」
それから少しして。
カインは改めて、ハラルド達と対面していた。
幾分か落ち着いものの、先程の失態にカインは落ち込んでいた。
今までの対人に対する緊張が鳴りを潜めたのはいいものの、それを遥かに上回る落ち込み具合はやりにくさを加速させていた。
そんなやりにくい空気の中、ハラルドは極力普段通りを意識して話を始める。
「ごほん。改めて、うちの若い命を2度も救ってくれたこと、感謝する」
「あ、ありがとうっス!」
「……ありがと」
最初に救われた若葉色の髪の少年、レックはにこやかに。
その次に救われた桃色の髪の少女、レナは渋々と礼をする。
「それで、だ。俺たちはお前に恩返しがしたい。とはいえ俺たちはただの冒険者。出来ることは限られてるがな」
「やれることはする。それが某たちの誠意だ」
ハラルドの言葉を繋いだのは独特な雰囲気を待とう男、シロウ。
シロウの言葉にようやく顔を上げたカインは何かを話そうとして、また俯いてしまう。
「……」
「あーもう焦れったいわね!早く言いなさいよ!」
「レナ」
「だってっ!」
「落ち着け、お前ら」
カインの態度が癪に障るのか苛立ちを隠せないレナ。
シロウが宥めるも、納得はしていないようだった。
「なーなー、名前もいっかい聞いていいか〜?」
「……カイン」
「カインはさ〜、なんで森から出てきたの〜?」
「ばっ、かお前!」
猫耳の少女、フィーナが普段通りののんびりとした雰囲気で爆弾を投じた。
何も考えていなさそうな笑顔とは反対に、その視線はしっかりとカインを見ている。
会話の切り口として良いのか悪いのか。
だが、少なくとも効果はあったようで。
「……俺は、森で……暮らしてた」
「あの森でか!?」
「……そう」
カインの口から出た事実は、はラルド達を唖然させるのに十分な威力を含んでいた。
確かに、森から出てきたことや化物をやすやすと吹き飛ばしたこと、素早く魔物をみつけ、誰も反応できない速度の奇襲を庇う。と、カインが何か事情を抱えており、それを隠していることは薄々分かっていた。
分かっては、いた。
ただその事情があまりにも想定を上回ったと言うだけのこと。
「みゃ〜、考えもしてなかったに〜」
「全くだ」
「ちょちょちょ、そんな簡単に信じるんスか!?」
フィーナやハラルドはカインの発言を受け、ただただ驚愕している。しかし、この中では新人であるレック、そしてレナはその発言を虚言だと疑っていた。
「あの森で暮らすなんて不可能よ。せいぜい一日生き残れたらいいほうじゃないかしら」
「だが嘘をつく理由もねぇ。それに、そうでもねぇと説明がつかねぇだろ」
「むぅ……」
魔の森は、誰もが知っている魔境。
そんな森に、いくら強いとはいえただの子供が暮らすなど、レナからすれば到底ありえないことだった。
未だ納得いかないレナは、一つ提案をする。
「わかったわ。あんた、私と戦いなさい!」
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