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第三話 もやもや、敵



「よし、出発だ!」


昼を少し過ぎた頃。

パーティのリーダー、ハラルドの号令で馬車が再び動き出す。

六人の冒険者と、それに混ざる一人の子供。

緊張感をある程度保ちつつ、リラックスした様子で歩く七人は思い思いに過ごしていた。


「なーなー、腕どうしたんだ〜?」

「……えっと、怪我」

「むっ。もしかしてさっきの〜?」

「うん」


黒髪黒目の少年、カインの横を歩くのは猫耳の少女、フィーナ。

フィーナは昼前にはなかった右腕の包帯に、その原因を思い出して顔を顰める。


「ごめんね〜。私のせいで」

「……そんなこと、ない」


パーティの索敵を担当するフィーナ。

自分がいれば奇襲なんて有り得ない、と自負していたフィーナにとって、先程の襲撃は強く記憶に残っていた。


自分がもっと早く気づいていれば、パーティメンバーを命の危機に晒すことはなかったかもしれない。こんな子供に怪我をさせることもなかったかもしれない。

そんな思いがフィーナの胸の中にあった。


それはカインも同様で、自分がもっと早く化物を止めることが出来たなら、と自責の念に苛まれていた。


両者の間に重い沈黙が流れる。

先に沈黙を破ったのはカイン。


「……あの森は、ちょっと変。もやもやが濁ってる」

「もやもや?」

「うん。なんか、もやもや」


目の前でよく分からない手の動きを見せるカイン。

もやもや、などというよく分からない表現に、しかし真剣な表情でフィーナは思案する。


「もしかして、こんな感じ〜?」


そう言うとフィーナは左手をカインの前に出す。

不思議に思ったカインが近づこうとするのを制すると、フィーナは何かを呟いた。

すると、フィーナの指先が揺らぐ。まるで透明なカーテンを取ったようにゆらりと湧いたそれは、火。


フィーナの人差し指から、小さく、確かに火が点っていた。

ゆらゆらと継続的に燃える炎。しかし、カインが近づいても本来感じるはずの熱を感じない。


「多分、これがもやもやの正体〜」

「……指が伸びてる」

「にょはは、確かにそう見えるかもねぇ〜」


フィーナの指先から灯る火。

カインはもやもやを意識しながら目を凝らす。すると、カインの目からはフィーナの指が火のてっぺんまで伸びているように見えていた。


指が伸びる、という子供らしい表現に、フィーナはコロコロと笑う。


「これはね〜、魔力って言うんだよ〜」

「……魔力」

「魔力をね〜、こう、ぶわーってやると周りが良く見えるんだ〜」

「……ぶ、わー?」


テンションが上がったのか擬音と手の動きが増えるフィーナ。

再び緊張が増していくカイン。ふとその視界の端に何かが映る。

フィーナの指先と同じもやもや、魔力が遥か先に映っていた。

輪郭だけのそれは今のカインよりも同じか、若干小さい。輪郭からでも分かる異様に大きい頭ととんがった耳。

嫌に細い手足が連想させるのは、人類の敵、魔物の代名詞とも言えるゴブリンであった。


「……もやもや。敵」

「んにゅ?」

「あそこ。もやもや、えっと。魔力が見える」


あそこ、とカインが指差すのは遥か先。当然、魔物の影など無い。

フィーナは普段は全方向に向けている意識を前方に集める。

うっすらとそれらしき影が認識できたフィーナは、思わずカインを見る。


不思議そうに首を傾げるカインはただの無邪気な子供にしか見えない。

しかし、その力は凄まじい。

フィーナ達は、五万といる冒険者の中でも上位に位置するパーティであり、その実力は下手な国に匹敵するとすら言われる。


そんなフィーナ達が苦戦する化物を平然と吹き飛ばし、認知するのすらようやくの距離にいる魔物を易々と発見、慌てることなく報告をする。

年齢を省いたとしても恐ろしい程の実力。


もし本気でこの子と戦ったら、軽く想像しただけで直ぐに苦戦の模様が浮き出たことに、フィーナは苦笑する。


「うぅん、みゃー報告しとくかにゃ〜」

「……俺が、行く。陣形、大事」

「へーきへーき。こういうのは私の役目にゃし」


軽い足取りで先頭にいるリーダー、ハラルドに報告に向かうフィーナ。

しかしその表情は暗く、張り詰めた顔をしていた。


報告から帰ったフィーナと入れ違いに、ハラルドに呼ばれたカインは馬車の先頭にいた。


「……魔物を見つけてくれたらしいな。ありがたい」

お昼()のお礼」

「そんなんでいいならいくらでもやるさ。魔物の詳細を聞きたい。出来るだけでいい、情報はあるか?」

「……えっと、数は3。俺と同じぐらいの体格で頭がでかい」

「ゴブリン、か」


想像を遥かに上回る正確な情報と、そこから導き出される魔物の種類。

ハラルドは本格的にカインへの評価を改めていた。普段から陽気なパーティメンバーのフィーナが珍しく凹んでいたこともあり、ハラルドの中でカインの存在はどんどんと扱いにくいものとなっていった。



■■■


「……増えた」

「なに?」


あれから暫くして。

引き続きハラルドの横を歩いていたカインは、もうそろそろ目視出来そうな距離まで近づいていた魔物の異変を知らせる。


「3体だったのが、20体ぐらいに増えてる」

「ゴブリンじゃなかったのか?ってか分裂する魔物なんて聞いたことねぇぞ?」


困惑するハラルドとカイン。

悩んだところでどうにもならず、とうとう魔物が姿を現す。


現れたのは合計27体のゴブリン。

緑色の肌に子供のような体躯、尖った耳と鼻が特徴的な魔物。一様に醜悪な笑みを浮かべている。


ゴブリンはカイン達を見つけると、統率も無く襲い掛かる。

既に馬車を留め、戦闘態勢に入っていたハラルド達は慌てることなく構える。

馬車を守るようにVの字に展開したハラルド達。その真ん中はツインテールの少女、レナ。


「『インフェルノ』!!」


元気の良い咆哮と共に、ゴブリンにかざしたレナの左手から全てを焼き尽くす灼熱の炎が現れる。

レナの左手から炎が溢れ、空気を焼きながらゴブリンを飲み込む。


広範囲に広がる炎は瞬く間にゴブリンを全て飲み込み、天を焦がして消える。

その跡には何も残らない、はずなのだが。

皮膚を焦がしながらもダメージを受けた様子のないゴブリンが一匹。


「まだ生きてる?」

「ロードかもな。気をつけろよ」

「っ、いかん!」

「えっ?」


大抵の魔物を焼き払うレナの魔法。それを受けても生きていたゴブリンに警戒を強めるハラルド達。


─警戒は、していた。


瞬き一つの間に懐にいたゴブリン。余りにも急な接近に、シロウの声ももう遅く。


レナの目の前に、ゴブリンらしき魔物の鉤爪が迫る。

そして。


レナの視界に鮮血が舞う。

読んでいただきありがとうございます!

面白いじゃん、続きないの?って方、なんやこれつまんな、もう読まねぇわって人。

良かったら下にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてくれたらとてもとても嬉しいので、一手間加えて下さい!


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