表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

第二話 距離と緊張



雲ひとつない晴天の中、のどかな平原をゆっくり走る馬車が一つ。

一般的なものに比べて遥かに豪華で質のいいその馬車は、周りを歩く人々と同じ速度で道を進む。


馬車と併走するのは六人の冒険者と一人の子供。

馬車を囲むように併走する七人はある程度の警戒はしつつも、その意識の大半は一人の少年に向いていた。

ボサボサの黒髪を後ろで雑に纏め、継ぎ接ぎの目立つボロ布のような服を纏った黒目の少年、カイン。

明らかに他の六人と比べて浮いている様子のその少年は今、絡まれていた。


「なーなー、なんで喋らないの〜?」

「……」

「なーなー、お前強いよな。どこで鍛えたんだ〜?」

「……」


歩きながら器用にカインに絡む猫耳の少女、フィーナ。

液体のようにカインに絡みつき、フンフンと匂いを嗅ぎながら質問攻めを繰り返している。

それに対しカインは、無言を貫いていた。

正確に言えば、喋れていなかった。視線は泳ぎまくり、心臓は早鐘を打っている。


(……なんかこの人距離近くない!?てか俺今までどうやって会話してたんだ?)


声を出そうとするも上手く行かず、異様に距離の近い少女に対し緊張するばかりであった。


そろそろカインが彼方へ走り出してしまおうかと迷走した頃、馬車の動きが止まる。

先頭を歩いていたパーティのリーダー、ハラルドから休憩の声が掛かった。


「んにゅ、休憩か。じゃあまたね〜」


ぬるりと滑らかに消えるフィーナ。

嵐のように過ぎ去っていったフィーナに疲れ果てた様子のカイン。

その背後にはいつの間にか、一人の男が立っていた。


「うちの者が失礼した。彼奴は誰にでもあれでな」

「……刀」

「む、これを知っているのか。珍しいな」


カインの背後に立っていたのは不思議な服装の男、シロウ。

独特な雰囲気を持つシロウの腰にある武器を見てカインはポツリと零す。


それを喜んだのかシロウは自慢げにそれを撫でる。


「これは某の先祖に伝わるものでな。伝えによると勇者様が発明したものらしい」

「勇者……」

「なにしてんのよ、飯よ!」

「おっと、怒られてしまった。では行こうか」


シロウに連れられ、歩くカイン。カインの視線はしばらく刀に吸い付いていた。


「じゃ、こっちから言うから」

「半刻はとる。それ以降はそっちに合わせる」

「分かってるわよ」


レナを含む女性陣が馬車の方へと向かう。

そしてカインを含む男たちは馬車からだいぶ離れた位置に腰を下ろした。

ハラルドは全員に干し肉を配り、懐から地図を取り出す。


「食いながらでいい。見てくれ」


皆に見えるように地図を広げる。

そこには今いるであろう道に隣接する巨大な森と平原。更に、その所々に赤いバツ印が描かれていた。

ハラルドはその中の一つを指差す。


「今俺達がいるのはここだ。街までは早くても二日かかる」

「ふむ」

「ほぼほぼ順調、魔物らの襲撃もさっきのやつだけだ」

「……」


その言葉に申し訳なさそうに俯くカイン。

森を抜け出すことを阻止できなかったことを悔やむカインだが、事情を知らないハラルド達からすれば、何か訳ありなんだろう、程度の認識であり、どうにも微妙な雰囲気が漂う。


「ま、まぁ依頼主から襲われるかもしれないから、とは聞いている。理由はどうであれ、再度襲われる危険も無いわけじゃない」

「寧ろ、皮切りに増える可能性もある。我々がテリトリーに踏み込んでいる可能性も考えた方がいいだろう」

「あぁ。索敵は変わらずフィーナに任せるが、あんまり期待するな」


索敵を得意とするフィーナが直前まで感知できなかった、という前回の失敗を踏まえ、奇襲前提の動きになるとハラルドは説明を続ける。


「ハラルド〜、ちょっとちょっと」


見計らっていたのか、話が終わると同時に馬車の方からハラルドを呼ぶ声が届く。

声の主は猫耳の少女、フィーナ。


「休憩は半刻はある。各自休んでくれ」


馬車の方へとハラルドが消えた後、カイン達の間には沈黙が漂っていた。

沈黙を破ったのは、一人の少年。


「あっ、あの!」

「……?」

「さっきは、その。助けてくれて、ありがとうっス」


そう言って、カインに頭を下げる少年、レック。

鮮やかな若葉色の髪には寝癖が目立ち、その眩しい笑顔とそばかすはまるで田舎の少年のよう。

少年、レックは先程カインに化物から救われた冒険者だった。


「某からも改めて礼を言おう。レックを助けてくれたこと、心から感謝する」

「……」


レックとシロウから頭を下げられたカインは困惑と恥ずかしさと緊張で声は出なかったものの、雰囲気が軟化したことは明らかだった。


「そ、そっそれで、なんスけど。もしかして腕、怪我してないっスか?」

「……大丈夫」


レックが指差すのは、カインが化物を殴り飛ばした右腕。

パーティの回復担当でもあるレックは、礼を言うタイミングを見計らうのにカインを凝視していたため、その異変に気付いていた。


「大丈夫な訳ないっス!あんな化物吹っ飛ばすなんて相当な無茶っスよ!?」

「落ち着け、レック。少年が戸惑っている」

「え?あ、あっあぁ、ごめんなさいっス!」


猫耳の少女、フィーナを思い出させる距離感でいきなり熱く語り出すレックに、少しは軟化していたカインの態度が再び硬直する。

呆れ気味に助け舟を出したシロウは、レックの援護にでる。


「少年、某からも頼む。どうか治療を受けてくれないか?」

「これでも自分、回復は得意っすから!」

「……お願い、します」


恩人の怪我の可能性を見過ごせないと迫るレック達に、カインは右腕を差し出す。

すぐさまレックは触診、腰のバッグから取り出した塗り薬を塗り、手際よく包帯を巻く。

あっという間に終わった治療にカインは感嘆する。


「よし、これで大丈夫ッス!あんまり無理はしないでくださいね」

「……ありがとう」


はにかむカインの表情は年相応に幼いもので、初めて見えたカインの表情に二人も笑みがこぼれるのであった。

読んでいただき、ありがとうございます!

面白かった、早く続きを出せと思う方、つまんなかった、どうでもいいって人、もし良ければ

下にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして下さると大変喜びます。

是非よろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ