第一話 六年ぶりの出会い
ほぼ初投稿です。
よろしくお願いします
鬱蒼とした森の中。
木漏れ日が照らす開けた空間に建つ小屋が一つ。
そしてその前に佇む年端もいかない少年が一人。
ボサボサに伸びた黒髪を雑に纏め、服には継ぎ接ぎが目立つ。道行く人があれば十中八九が浮浪児と呼ぶであろう格好の少年は、目の前のボロボロな小屋に向かって勢いよく頭を下げた。
『お世話になりましたっ!』
顔を上げて、小屋を背に歩き出す少年。
この少年、名をカインと言う。
教会から虐げられ、家族から追放された“忌み子”である。
■■■
追放の経緯は六年前。カインの出身国であるスラプコース王国で行われた、とある儀式でのこと。
色を授かる、という儀式でカインは忌み子の象徴とされる“漆黒”を授かった。
忌み子は厄災が訪れる前触れとも言われ、存在そのものを否定されることが多い。
その事を受け、国教であるライトゥル教が介入。
家族はカインを除籍処分とし、教会に保護という名称で拉致されたカインは挙句の果てに辺境へと追放された。
場所は“魔の森”。
この世の地獄とすら言われる魔境に追放され、凶悪な化け物が跋扈する中でのサバイバルを迫られたカイン。
幸いにも追放された直後に、後に師となる男に保護されたことで生き残ることが出来たカインは六年という歳月と男が突然消えたことをきっかけに帰ることを決意した。
男と共に六年間をすごした小屋に別れを告げ、三日が経過した今に話は戻る。
カインは今、木の上にいた。
そろそろ広大な森も終わりが見えかけた頃。
巨木の枝の上でカインは息を潜め、眼下を眺めている。その視線の先には大きな化物。
ゆっくりと移動するそれは5mを容易に超える。
毛に覆われたそれは所々から骨のようなツノが露出し、異様に発達した前腕には乾いた血がこびりついていた。
(縄張りのボスレベルがなんでこんなところに……)
このような森の端の方にいるはずのない強者の存在にカインは警戒しつつ、その化物の動きに注視する。
すると、化物はこれまでとは違う動きを見せた。
何かを感じとったのか、急に立ちどまり一点を見つめる化物。
かと思えば、今までの動きからは想像できない俊敏さで見つめていた方向に駆けだした。
(ん?その方向は……っ!?)
その方向の先にあるものを思い浮かべたカインは、長らく感じていなかった焦りの感情と共に体を動かす。
木から飛び降り、幹をおもいきり蹴る。
弾丸のように地面に着地したカインは木々を薙ぎ倒し突進する化物を追いかけた。
幸か不幸か、破壊しながら進む化物を見失うことは無い。
化物の向かう先は森の外。
森に棲む化物の強さを肌身に感じていたカインは、化物が森から出ることで何が起こるかを容易に想像できていた。
(よりによってなんでこんな強い奴が外に?)
化物や魔物は基本、自分の縄張りから離れることは無い。
ましてや生息する地域を逸脱することなど有り得ないと言える。
ここ、魔の森は特にその色が強く、弱い魔物ですら森の外に出ることは稀。
化物の謎の行動を疑問に思いつつ、カインはさらに速度を上げる。
凄まじい速度で驀進する化物。その速度はどんどんカインを突き放していく。
距離を離されることに焦りは募っていく。
巨大だった木々は次第に小さくなり、森の密度が薄れることで周囲は明るくなっていく。いよいよ森の終わりが見えてきた。
(間に合ってくれよ!)
「グオァァァァァァァァッ!!」
カインの思い虚しく響く化物の雄叫び。
直後に聞こえ始める戦闘音が化物が森を出たことを物語っていた。
遅れること数十秒。
森を飛び出したカインの目の前にあったのは─。
暴れ回る化物と、馬車を守るように戦う冒険者達。
どうやら化物はその馬車を狙っているらしく、冒険者達は注意を散らそうとして苦戦しているようだった。
巨大な体を俊敏に操り暴れ回る化物。
冒険者はどうにか化物の猛攻を捌いているものの、傷が目立つ。
状況を何となく把握したカインは地面を強く蹴り、化物へと駆け出した。
「あっ」
「おい!」
ついに冒険者の一人が膝を突いてしまう。その僅かな隙はこの時においては命取り。好機と見た化物の前腕が迫る。
死を覚悟し目を瞑る冒険者。カインは庇うように冒険者の前に滑り込み、化物の腕を殴り返した。
「なっ!」
恐る恐る目を開けた冒険者の目の前にあったのは、吹き飛ばされた化物と平然と立つ子供の姿だった。
「っ、あのガキに遅れるな!行くぞ!」
「ウオォォォォォォ!!」
チラッとリーダーらしい男に視線を送ったカインは再び襲いかかる化物と衝突する。
目の前で起こった事態を把握出来ずフリーズしていた冒険者達はリーダーの檄に再起し、化物を倒さんと一層激しく攻撃を繰り出していった。
カインの助力もあり、化物は討伐された。
─それから少しして。
カインは今、リーダーを名乗る男と向き合って座っていた。
「お前のおかげでうちのが一人死なずに済んだ。礼を言う」
「……」
冒険者達のリーダー、ハラルドがカインに頭を下げる。
それに対し無言で頷くカイン。
その顔は傍から見ても分かるほどに緊張していた。
六年という年月を森の中で過ごし、師との会話が唯一だったカインにとって人との会話は命懸けの戦いよりも緊張を伴うものとなっていた。
「改めて礼がしたい。今は依頼中だから直ぐって訳には行かねぇが、次の街で依頼は終わる。良ければ着いてきて欲しい」
「……」
またもや無言で返すカイン。
カイン自身、自分がここまで緊張していることに驚いていた。
別に言葉を発することが出来ない訳ではないが、実際声は出ていない。
「ったく、緊張しちゃってるじゃない。私がやるわよ」
ガッチガチになっているカインを見かねた冒険者の一人がハラルドの前に出る。
鮮やかなピンク色の髪をツインテールにした目付きの鋭い少女、レナ。
レナはカインの前に座り、爽やかな笑顔を向ける。
「さっきはありがとう。お名前はなんて言うの?」
「……カ、カイン」
「カイン君って言うのか。いい名前ね」
笑顔を絶やさず喋るレナ。その背後ではハラルドを含めた仲間の冒険者達が有り得ないものを見るような表情を浮べていた。
その顔にはでかでかと、なんだこいつは?と書いてあり、恐ろしいものを見るような目を、レナに向けていた。
「……なによ」
「お前、きもいぞ」
「うっさいわね!」
成り行きで冒険者達と行動を共にすることとなったカイン。
自分のコミュ障具合に一抹の不安を覚えながら、冒険者達の雰囲気に安心感を覚えていた。
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