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「な、何たる不敬!」
リディアが怒りに叫んだ。
そう、これはけして見過ごせぬ。
身の程を知らぬ小娘に現実を教えねば。
リディアが右手を空中にかざす。
女神の頭上に4本の光の矢が出現した。
先ほどの青い炎は苦痛を与えこそすれ、彩音の魂を傷つけるものではなかった。
しかしここまであからさまな叛意を見せられれば、もはや手加減はせぬ。
手足を串刺しにしてくれる。
女神の右手が振られると同時に、光の矢が弾かれたように高速で彩音に突進した。
彩音の四肢が4本の矢に正確に貫かれ。
ない。
リディアに背を向けていた彩音の身体が瞬時に移動した。
目標を失った光の矢同士が相討ちとなって、消滅する。
予想外の事態に驚愕する女神の眼前に彩音が迫った。
「なっ!?」
リディアが両手を前に出す。
跳びかかりつつ、後方へ引き絞られた彩音の右拳がリディア目がけて打ち込まれる。
彩音の打撃はリディアに到達する前に止まった。
女神が突き出した両手のひらの辺りに、突如出現した半透明の円形の盾によって防御されたのだ。
リディアの魔法の盾であった。
リディアと彩音が相対し、にらみ合う。
リディアは唇を噛んだ。
思わぬ反撃はシールド魔法で防いだものの、彩音の急変に納得がいかない。
青い炎の中から立ち上がったことも信じられぬのに、その上、あろうことか女神に拳を浴びせるなどとは!
こちらをにらむ彩音の表情は正義の女神を敬い、異世界を救う任務を嬉々として受け入れる勇者のそれではない。
明らかな反抗心に満ち満ちている。
懲らしめねば。
身の程をわきまえさせねば!
一方の彩音は。
自らの身体がまるで格闘技経験者の如くスムーズに動くことに内心、舌を巻いていた。
(これがさっき言ってたやつ?)
(そう、銀河十二星座拳。この女をボコるには充分っしょ。アタシが彩音とシンクロしてるから、自由に使えるよ。遠慮せず、ガンガンいこうぜ!!)
(うん!)
彩音が左右の手の甲を下に向け、腰の辺りで拳を握りしめた。
息を深く吸い込む。
そして咆哮した。
「おおおおおおーーーーーっ!!」
雄叫びと共に猛烈な速さで左右の拳が矢継ぎ早に打ち出される。
高速の打撃はリディアの張った魔法のシールドに激突し、その度に火花を散らす。
「フフフ」
リディアが薄く笑った。
素手でシールドを破ろうなどとは、愚かにも程がある。
やはり魔法の「ま」の字も知らぬ下級世界の原始人。
が。
次の瞬間。
彩音の打ち出す連打の回転がはね上がり、シールドの色が真っ赤に染まった。
魔法の盾が軋む。
「な、なっ!?」
驚くリディアの眼前で、シールドに無数のひびが走る。
あっという間に盾は粉々に砕け散り、彩音の右拳がリディアの顔面に迫った。
「ぐーーーっ!!」
リディアが襲い来る打撃をギリギリで避ける。
女神は後方へ跳び退がった。
と、同時にその両手から皿状の光が2つ出現する。
光の円盤がバネ仕掛けの如く放たれた。
今度は彩音がすれすれで、それをかわす。
しかしこの円盤は先の魔法の矢とは違う動きを見せた。
彩音の背後で曲線を描き、再び襲ってくる。
その気配を察知した彩音が空中に跳び、身体をきりもみさせる。
2つの円盤はリディアの側まで戻り、またもカーブした。
そして着地した彩音へと高速で突っ込む。
「アハハ!」
リディアが声高らかに笑った。
「無駄じゃ! どこへ逃げようとも、お前を追いかけるぞ!!」