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(相談するって?)
(そうそう。説明するより早いから、もう連絡するわ。もしもし、親父ー)
(何だ?)
今度は中年男性の声が彩音の頭の中に響いた。
(実は宿主が死んじゃってさ)
(もうトラブルか!?)
男の声が明らかに不機嫌になる。
(しょーがないじゃん、慣れないうちに事故っちゃったから。で、1回無かったことにして欲しいの)
(何!?)
(お願い!! だって、この娘がかわいそ過ぎるでしょ?)
(しかし…)
(パパーん)
(や、やめろ、気持ち悪い!!)
(ケチくさいなー。そんなんじゃモテないよ)
(確かにな…母さんと別れてから、もう3000年ぐらい経つか…そろそろもう一度、身を焦がすような熱い恋愛を…って何を言わせるんだ!!)
(勝手に言い出したんじゃん!! で、どうなの!? ダメ!?)
(仕方ないな…1回だけだぞ)
(お父様ーん、ありがとーん)
(やめろー!! じゃあな!)
(待って、待って!)
(何だ!? 俺も忙しいんだぞ!)
(この娘を元に戻すにしても、変なのが出てきてさー。そっちから確認してみてよ)
(どれどれ…ほー、女神系か。ややこしいのに絡まれてるな)
(だよね。だから、この変な女に対抗する力をさー)
(解放しろと?)
(そうそう。どうせ親父はルールで介入できないとか言うっしょ?)
(ああ、そうだ)
(じゃあ、アタシがこの娘に力を貸すから。ちょっとだけ、ねぇ?)
(まったく…)
(20%でいいから!)
(5%)
(15!)
(7)
(12)
(10%だ。それで充分だろ?)
(もう! オッケー、仕方ない。拳法でいいよ。どれを使わせてくれるの?)
(今なら…銀河十二星座拳だな)
(ええー!? そっちも制限されんの? 激殺ビッグバン拳にしてよ!!)
(あのなー。お前はあの女といっしょに地球も破壊するつもりか?)
(分かったよ、もういいですー。じゃあね、バイバイ!!)
呆れるため息を最後に、男の声がしなくなった。
(さあ、始めよっか?)
(な、何を?)
親子の会話に呆然としていた彩音が訊く。
(決まってんじゃん。この勝手放題の女をボコる!!)
(出来るの!?)
(出来る! そしてあんたを日常生活に戻す。アタシはホームステイ…じゃないな、ボディステイを続ける)
(分かった)
(時間を元に戻すよ)
(あ! 私は龍王院彩音。あなたは?)
(あー。名前なー。もちろんあるけど、地球の言葉だとめちゃくちゃ長いし、発音できないとこがあんのよ)
(じゃあ、宇宙生命体だから『ウーちゃん』で)
(ウ、ウーちゃん!?)
(ウーちゃん、よろしく!!)
(えー…まあいいか、何でも。やるよ!!)
「龍王院彩音」
リディアが呼びかけた。
「どうじゃ、気が変わったか?」
青い炎の中、彩音が動き始める。
苦悶のそれではない。
意思のある動き。
ゆらり。
ゆらゆらり。
「むむ?」
リディアが小首を傾げる。
彩音が立ち上がった。
女神に背を向けた仁王立ち。
星雲学園の制服の背には縦に大きく「銀河」の2文字。
「な、な、何じゃそれは!?」
リディアの声が上ずる。
彩音の首が横を向き、顔の左半分が女神から見えた。
「私は絶対に」
彩音が口を開く。
「異世界転生しない!!」
あまりの怪事に、リディアの口はあんぐりと開いた。
魔法さえ存在せぬ世界から呼び寄せた1人の小娘が今、女神である自分に真っ向から刃向かっている。
リディアの魔法の炎をものともせず、堂々と立っている。