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「まあ、良い」


 リディアの口の両端がニッと上がった。


「お前に自分の立場を分からせてやろう。少々、痛い目に遭わねば眼が覚めぬようじゃな」


 リディアがしなやかな動きで右手を挙げた。


 白魚のような指が開き、手のひらが彩音に向く。


 ぼそぼそと何かを唱えた。


 瞬間。


 リディアの右手のひらより青く透き通った炎が、弾丸の如き速さで球体となって飛び出した。


 火球は彩音を直撃し、あっという間に炎に包み込む。


 身体を焼かれる激痛に彩音は悲鳴を上げ、その場に倒れた。


 この魔法の炎は苦痛こそあるが、けして対象を焼き殺しはしない。


 これはすなわち、美貌の正義の女神の申し出を愚かにも断る者を懲らしめる炎。


 改心を促す愛の(むち)


 この生意気な勇者候補も、これで許しを乞い、素直になるだろう。


「アハハハ!!」


 リディアが口元に右手を当て、背を反らせ笑った。


「わらわに逆らえると思うたか!?」


 女神の嘲笑(ちょうしょう)は彩音には聞こえない。


 猛烈な炎がその身を焼き焦がすからだ。


 あまりの苦痛に立ち上がることはおろか、息さえ出来ない。


 しかし、それでも。


(異世界転生なんて)


 彩音は思った。


(絶対にするものか!!)


 彩音には強い想いがある。


 元の世界に残りたいという揺るがぬ意思。


 ああ。


 だが突如、理不尽な要求を突きつける横暴な女神の魔法は強力だ。


 ただの高校生である彩音に抗う術はない。


(私はこの女の言いなりになるしかないの!?)


 激痛にのたうち回りながら、彩音は唇を噛み締めた。


 うっすらと血がにじむ。


 突然。


 全身の痛みが嘘のように消失した。


(え!?)


 彩音が戸惑う。


(まあ、こんなとこかな)


 彩音の頭の中に、若い女の声が響いた。


(このままだと、この馬鹿女のやりたい放題にされるからね)


(だ、誰!?)


 彩音が心の中で呼びかける。


(あん?)


(誰なの!?)


(あー。アタシ? アタシは留学生? うーん、旅行者って言うか…人生経験を積みに来たって感じ?)


(?)


(宇宙から来た。昨日ね)


(う、宇宙!?)


(あー。そだね、リアクションそうなるよねー。説明するか…宿主への状況説明時に許される時間調整能力を使うよ)


(?)


(ほい! これでしばらくは時間はゆっくり流れるから)


(な、何の話!?)


(まあ、聞きなって。アタシは宇宙のずっと遠くから来た精神のみの生命体なんだわ。ここまでお分かり?)


(………)


(でー。アタシもそろそろ自立しなきゃあってわけで、家から出てきたんだよ。親父が選んだのが、たまたまこの地球だったっつーねー)


(………)


(まあ仮免みたいなもんだから、アタシの能力は99%封印されちゃってんのよ。そういうのムカつかね? どんだけ信用してねーのよって?)


(………)


(あれ? いまいち共感してない? まあ、いいや。でー、アタシは適当に現地人を選んで…あ、それがあんたよ! 身体の中に入って、地球での生活を体験するわけ。あんたが死ぬまで黙って過ごす予定だったのに…たはーっ!! いきなり死んじゃったから焦ったわ!!)


(………)


(あのさー。確かに聞けとは言ったけど、完全にノーリアクションってのもどうかと思うのよねー。『ふむふむ』とか『宇宙生命体カッコいいー!!』とかさ。良い相づちってあるじゃん?)


(………)


(もういい! 先に進む! それでまだあんたの身体に入って間もないからアタシもパニクっちゃってさー。事故った瞬間、助けりゃよかったんだけど全然、間に合わないっつーね。そしたらこのわけの分かんない変な女が出てきてさー。『異世界転生して世界を救うのじゃ』とか何とか? ウケるー!! 可笑しくね? 面白すぎてヘソで茶ー沸かすっつーの!)


(………)


(あれ? 地球人ってヘソ無かったっけ? まあ、アタシも無いけどさ! で、このままあんたが死んだら、ちょっと後味悪いっつーか忍びないじゃん? だから親父に相談しようと思ってさ)


(親父?)


(あ、やっと喋った! いよいよ寝てんのかってツッコむとこだったよ!)







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