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星雲学園の屋上のベンチで座り、彩音とサイラスは2人、弁当を食べていた。
昼休み。
ベンチの側にはモグが控えている。
「モ、モグちゃんも座って、いっしょに食べようよ」
彩音が困り顔になる。
「そうだよ、モグ」とサイラス。
「いえ」
モグが首を横に振る。
「私は王子の従者でございますので。その一線は守らせていただきます」
「そ、そう…」
モグの真剣な顔を見て、彩音は諦めた。
2人は弁当を食べ終わり、ベンチから立ち上がった。
春先の晴れ渡った空の下、心地良い風が吹いてくる。
2人は金網の向こうの街並みを眺めた。
平和だ。
この前までのリディアとの戦いが、とても遠い過去に思える。
日常とは、それだけで価値があるのだと2人は感じていた。
理不尽な要求から自分の居場所を守りきった彩音と、自らの世界を追われ新しい居場所に根を下ろし始めたサイラス。
2人の時間は、これから重なっていく。
「彩音さん」
サイラスが口を開いた。
「この前は…戦ってる最中だったから」
そこまで聞いた彩音が、顔を赤らめた。
サイラスが次に何を言い出すか分かったからだ。
「もう一度、ちゃんと言うよ」
「うん」
「僕は君が好きだ」
サイラスが爽やかに告白した。
彩音の顔が、さらに赤くなる。
2人の間に、しばしの静寂が流れた。
モグがゴクリと唾を飲み込む。
(あー。早く答えた方がよくね?)
ウーが話しかけてきた。
(え!?)
(どうすんの? 付き合うの?)
(ど、どうしよう?)
(何? 好きじゃないの?)
(す、好きだよ)
(じゃあ、悩むことなくね? Go! Go!)
(う、うん)
「私も」
彩音が口を開く。
「サイラスくんが好き」
言い終わった彩音がはにかむ。
サイラスが手を伸ばし、彩音の手を握った。
モグが両手で顔を隠す。
しかし指の隙間から、しっかりと覗いている。
「僕の母も紹介したい」とサイラス。
「う…うん」
彩音が頷く。
モグがハッとした。
サイラスが彩音と付き合うと告げる時、マレーネの反応やいかに?
想像すると怖すぎる。
サイラス王子はこの難局をどう切り抜けるつもりなのかしら?
モグの心配をよそに、サイラスは告白の成功に満面の笑みを浮かべている。
「それと、もうひとつ言っておかないといけないことが」
サイラスが続けた。
「何?」と彩音。
「僕は実は…」
そこでサイラスは1度、深呼吸をした。
「前の世界で結婚してた。今はフリーだけど」
「へー。結婚…そうなんだー」
彩音が頷く。
そして。
「ええーーーーーーーーーーっっ!!」
彩音の絶叫が、学園中に響き渡った。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
ホントに大感謝です(≧∇≦)