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彩音は瞠目した。
最初の打撃を無効化した、敵の硬度は今や失われた。
全ての打撃がゴーレムの身体を凹ませ、こそぎ取り、削り飛ばす。
ゴーレムが叫ぶ。
それはもはや雄叫びではない。
弱りきり、許しを乞う断末魔だ。
「「おおおおおーーーーーっ!!」」
2人の彩音が、さらに攻撃を加速する。
みるみるうちにゴーレムの身体は千切られ、穿たれ、ボロボロとなって崩れ去った。
飛び散った断片が次々と霧散していく。
その壮絶な様子を立ち上がったサイラスとモグが見つめている。
2人は彩音の規格外の攻撃に舌を巻いていた。
烈火の如き猛攻を放つ彩音は、まさに戦神のようだ。
「イ、イメージ変わりますね…」
モグがサイラスを横目で見る。
サイラスは激しく気を吐く想い人に、うっとりと見惚れている。
(お、王子はMっ気もおありなのかしら?)
モグは思った。
そして、彩音にお尻を叩かれ喜ぶサイラスの姿を想像して赤くなる。
やたらと見つめてくるモグにサイラスが「な、何だ?」と不思議がった。
そうしている間にゴーレムは完全に消失し、2人の彩音は元の1人へと合体し、融合した。
(よっしゃー!! 片付いたね。あとは、あのバカ女神を)
ウーがそこまで喋った、そのとき。
「アハハハハ!!」
リディアの笑い声が響いた。
いつの間にか、グラウンドの中央に立ち、彩音をにらんでいる。
今まで何をしていたのかと、サイラスが疑問に思う。
ワイバーンとゴーレムを両方同時に召喚し、なおかつリディア本人も戦うのが、常道ではないだろうか?
しかし実際の流れはワイバーン、ゴーレム、そして今、リディアの順番に現れている。
まるで時間稼ぎをしていたようだ…時間稼ぎ…何のために?
サイラスの思考が、そこまで及んだところで。
「春人さんっ!! 風香さんっ!!」
彩音の苦悶の叫びが聞こえた。
そう、リディアの横には春人と風香が立っていた。
身体を赤く発光するロープ状の魔法エネルギーに拘束されている。
「彩音っ!!」
「彩音ちゃん!!」
2人が彩音を見て叫ぶ。
(あの女の狙いはこれか!!)
サイラスはギリギリと歯噛みした。
2匹のモンスターを彩音にぶつける間に、決定的な弱点である春人と風香の身柄を押さえたのだ。
こうなると彩音はリディアに逆らえなくなる。
「アハハハハ!!」
またも、リディアが大笑した。
心の底からの歓喜の笑顔。
「お前がわらわの命令に従わねば、この2人を殺す」
「やめてーーーーーーっ!!」
彩音が絶叫した。
これ以上ないほどの絶望に、顔が歪んでいる。
「なっ!? ど、どういうことだ!?」
春人が顔色を変える。
「ややこしくなるから、お前は黙っておれ。痛めつけられたくなければな」
リディアの眼が鋭くなる。
サイラスはリディアに気づかれぬよう、モグに囁いた。
「隙を見て2人を救出してくれ。その間、僕を守らなくていい」
「お、王子っ!?」
モグが慌てる。
小声で囁き返す。
「ダメです…私はどんなことがあっても王子をお守りします。それが私の役目ですから」
「これは王子としての命令だ。絶対に春人さんと風香さんを殺されてはならない。彩音さんの大事な家族なんだ」
「お、王子…」
「頼む、モグ。お願いだ…」
サイラスの真剣な眼差しに、モグは真っ青になった。




