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(何とかならないの!? このままじゃサイラスくんとモグちゃんが!!)
彩音が拳を握りしめる。
(おおっ!?)
ウーが驚きの声を発する。
(エネルギーが急激に上がってきた! 彩音の2人を助けたい気持ちが強いからだね!!)
(使える!? 必殺技!)
(うん! ただ、あいつをまずこっちへ引き寄せないとね)
(引き寄せる?)
(牡羊座でいくよ!!)
彩音の思考に技のイメージが浮かんできた。
「銀河十二星座拳、奥義その1!!」
彩音が吼える。
「アリエスッ!!」
叫び終わると同時に、彩音の身体が、一気に数えきれないほどの数に増えた。
大勢の彩音は顔だけを出した、ゆるキャラのような羊の着ぐるみを着ている。
「「ええー!?」」
周りを複数の羊の彩音に囲まれ、サイラスとモグが驚く。
「こ、これは!?」
サイラスの動揺は特に激しい。
どちらを向いてもかわいいコスプレをした好きな女の子が居るので、やたらとドキドキする。
顔が真っ赤だ。
「何か、王子やらしーです…」とモグ。
「や、やらしくはないだろ!!」
サイラスが怒る。
「そんなことより、王子!!」
「お前が言い出したんだろ!!」
「あんな所に!!」
モグが、やや離れた場所にいつの間にか建っている木製の柵を指した。
「?」
サイラスが首を傾げる。
上空のワイバーンも戸惑っているのか、攻撃を止めてこちらを窺っている。
すると突然、大勢の彩音たちが次々とその柵を飛び越え始めた。
「羊が1匹!!」
柵を飛び越えた彩音の声が響く。
「羊が2匹!!」
次の彩音が柵を飛ぶ。
そして次々と。
「羊が3匹!!」
「羊が4匹!!」
「な、何だ、これは!?」
サイラスの口が開く。
「王子!」
モグが呼んだ。
「ワイバーンの様子が!!」
サイラスがモグの指先を追うと、上空のワイバーンが羊の彩音たちを食い入るように見つめている。
その瞳が次第にトロンとなって、瞼が落ちてきた。
「え!? ね、寝そうになっているのか!?」
サイラスが気づいた。
何故かは分からないが、大勢の羊彩音が柵を飛び越す姿を見て、ワイバーンが眠気に襲われている。
とうとう、頭をグラグラと揺らし始めたワイバーンは全身を脱力させ、真っ逆さまに地上へと落下した。
大勢の彩音の姿が消え、元の1人に戻る。
(よし! 上手くいった! これで落ちてくるよ!!)
ウーのテンションが上がる。
(次は牡牛座!!)
必殺技のイメージが彩音の頭の中に浮かぶ。
「銀河十二星座拳、奥義その2!!」
彩音が叫んだ。
ワイバーンの落下点を目指して、突進していく。
両手を腰の辺りで構え、頭を突き出す。
「タウラーーーーースッ!!」
彩音の咆哮と共に、強烈な頭突きがワイバーンの頭頂部に炸裂した。
衝撃を受けたワイバーンが、苦悶の大絶叫を上げる。
横方向にきりもみし、地上へ激突した。
その姿が、身体の端々から徐々に消失していく。
許容量を越えたダメージを我が身に受けたためだ。
「彩音さん!!」
敵を倒した彩音にサイラスとモグが駆け寄った。
「やったね!」
サイラスの言葉に彩音が頷く。
しかし、その両眼は全ての元凶、リディアを捜している。
ワイバーンを倒した今、残るリディアを懲らしめるだけだ。
だが。
どこにも正義の女神が見当たらない。
(あれ?)
彩音が一抹の不安を覚えた、次の瞬間。
大地が大きく揺れた。
3人がバランスを崩し、膝を着く。
「な、何っ!?」
彩音が慌てる。
3人の上に大きな影が覆い被さった。
彩音が背後を向くと。
10mはあろうかという巨大な怪物が、3人を見下ろしている。
「ゴーレム!!」
サイラスが驚愕する。




