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「そうそう。宇宙人…って言ってもサイラスくんの世界…カルナディアには居ないのかな?」
「ああ」
サイラスがポンと手を打つ。
「宇宙については、この世界に来てから勉強したよ。なるほど、宇宙人か」
前回の戦いの後、彩音の度外れた戦闘力についてはサイラスに説明していた。
サイラスなりに彩音の状況を理解しようとしてくれているようだ。
彩音はそれが、何だか嬉しかった。
やたらと2人の仲を煽ってくる風香のせいだろうか?
彩音は異世界の住人であるサイラスをすんなりと受け入れ、なおかつ異性として意識し始めている。
(そんなにイケメンかなー? 少なくともアタシの好みではないなー)
(ウーちゃん! 勝手に私の心を読まないで!)
(仕方ないじゃん! 自然に流れ込んでくるから)
(やだ! やめて、やめて!)
(そんな都合良く出来ないよ! とにかくこのバカ女神をやっつけて、早く日常系に戻ろう!!)
彩音が頷き、10m先のリディアをにらみつけた。
リディアは透け透けのオレンジ色のドレスに身を包んでいる。
その下には、同じ色の水着のような物が大事な部分を隠していた。
ファンタジー世界ではベタな衣装かもしれないが、彩音はサイラスもそんなセクシーなリディアを見ているのに、何やら複雑な気持ちになった。
リディアって、胸が大きいなー。
サイラスくんも、ああいうのが好きなのかな?
私みたいな感じはどうなのかな?
(よっ! 乙女心!!)
(ちょっ、変なかけ声しないで!)
彩音がウーに怒る。
(バカ女神じゃなくて、もっと私を見て見てっ、サイラスくーん!!)
(そんなこと思ってない!!)
リディアは不敵な笑みを浮かべ、両手を胸の前に突き出した。
呪文を唱える。
黒雲に包まれた空に大きな穴が出現し、そこからギザギザの牙だらけの口を開け、巨大な怪物が出現した。
てらてらと滑る鱗を光らせ、大きな翼を羽ばたかせる飛竜。
「ワイバーンか!?」
サイラスが叫ぶ。
そう、それはまさしくカルナディアにも生息する、空の怪物ワイバーンだった。
サイラスの知るものよりは、かなり大きい。
本体だけで、8mはあるだろうか?
ワイバーンは長い尾をくねらせ、彩音たちの頭上を旋回している。
物騒な口を開き、耳を突く甲高い雄叫びを上げた。
そして、その口中に輝く炎の兆しにサイラスは気づいた。
「彩音さん、危ない!!」
サイラスが彩音の前へ飛びだす。
瞬間、ワイバーンが火の球を吐き出した。
猛烈なスピードで火球がサイラスに激突する。
と、思われたが。
「モグ!!」
自らのさらに前に飛び込んできたモグが、防御魔法シールドで火球を受け止め切ったのをサイラスは見た。
モグが振り返り、ニコリと笑う。
「王子は私がお守りします」
「すごい、タケちゃん!!」
彩音が感心する。
モグは顔をしかめた。
「あ! ごめん、モグちゃんだった!!」
本当の名で呼ばれたモグの機嫌が直り、笑顔を浮かべる。
上空のワイバーンは続けざまに火の球を吐き出した。
次々とモグのシールドに激突する。
「ぐぬぬ!」
モグの顔が歪む。
このままでは一方的に攻撃され、モグがもたない。
サイラスがモグの側に立ち、両手をかざした。
モグのシールド魔法を強化する呪文。
「お、王子!?」
モグが驚く。
「お退がりください!!」
「どの道、モグのシールドが破られたら、皆やられる!!」
サイラスが叫ぶ。
彩音は2人の呪文に守られつつ、上空のワイバーンを観察した。
(ウーちゃん、あそこまでジャンプ出来る!?)
(無理!!)
ウーが即答する。




