表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/38

29

「僕は彩音さんの友達です」


「えー?」


 風香が眼を細める。


「何だ、風香?」と春人。


「私は今までずっと彩音ちゃんの面倒を見てきたんですよ。云わば姉のポジション」


「姉って…年齢的に、素直に母親で良いのじゃないか?」


 春人が首を(ひね)る。


「嫌じゃー!!」


 風香が春人に掴みかかった。


「お姉さんにしてくれーい!!」


「うわー!! 分かった、分かった! お姉さんだな! お姉さんのポジションからの意見を言ってみろ!!」


「あっしの見立てによりやすとねー」


「お前は岡っ引きなのか!?」


「彩音ちゃんは田中くんのこと、まんざらでもありやせんぜ!!」


「な、何ーーーーっ!?」


 春人が両眼を吊り上げる。


「ふ、風香さん!!」


 彩音が真っ赤になって抗議する。


「ほらほら、赤くなってる!」と風香。


「田中ーーーっ!!」


 春人がサイラスに掴みかかった。


「お、お父さん、落ち着いてください!」


 サイラスが慌てる。


「お前にお父さんと呼ばれる筋合いはなーい!!」


「ケケケ!!」


「ふ、風香さん、笑ってないで春人さんを止めてよ!!」


 彩音が春人を羽交い締め「ちぇっ」と不満げな風香が作った夕食をサイラスも含めた4人で食べ、その後は平穏に時間が過ぎた。




 リディアは自らが支配する空間の玉座で座り、激しい憎悪に美しい顔を歪めていた。


 またも彩音に敗れた。


 かつてこれほどの屈辱を受けたことなどない。


 もはや手段を選んではいられない。


 どんな卑怯な手を使おうとも彩音を転生させ、勇者にしなければ。


 異世界を救うという目的さえ、今はどうでもいい。


 この美しい正義の女神に逆らう者が存在するという現実が、どうしても許せなかった。


 絶対に屈服させてみせる。


 リディアは策を練るため、もう一度、魔法の力で彩音の素性を洗い直した。


「フハハハ」


 突如、笑いだすリディア。


「見つけた! 見つけたぞ!」


 リディアの双眸が興奮で血走る。


「これが小娘の弱点か」


 リディアが注目したのは、彩音の保護者である春人と風香。


 現状、卑怯などというものはない。


 とにかく、彩音を勇者にさえすれば良い。


 作戦を考えるリディアの顔が、次第に満足げに微笑んでいった。




(やっぱり来たよ…)


 ウーが呆れた。


(アタシはこの世界で日常生活が楽しみたいわけよ。それなのにこんな頻繁(ひんぱん)に、このクソ女(失礼)がやって来ると、こいつを追い返す係みたいになってやしませんかねー。彩音、お分かり?)


 ウーの口調には(とげ)がある。


「ご、こめん」


 彩音が謝る。


 頭の中で答えたつもりが、思わず口で話してしまった。


「え!?」とサイラス。


 彩音の横に立っている。


 サイラスの後ろには、影のようにモグが控えていた。


 午前中、最後の授業中にまたもや、時が止まった。


 グラウンドへと向かう彩音にサイラスがついてきたのだ。


 彩音とリディアの戦いの詳細を知ったからには、全面的に同級生に加勢すると決めていた。


 同級生…否、それ以上の感情が自分にあるとサイラスは自覚している。


 彩音を異性として意識していた。


 完全なる恋愛感情。


 しかし、まだ告白する勇気はない。


 友達として会話しだしたのも、つい最近だ。


 とにかく、異世界の女神とやらから、想い人を守らねばならない。


「あ、サイラスくんじゃなくて、ウーちゃんに謝ったの」


 彩音が説明する。


「なるほど、ウーちゃんに」


 サイラスが頷いた。


「彩音さんの中に居る別の生物だね」



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ