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横一回転したリディアが鼻血を飛ばしつつ、体勢を立て直す。
右手から雷撃を放とうとするが、すでに眼前に彩音が迫っていた。
「おのれっ!!」
リディアが叫ぶと、彩音が右手の人差し指を顔の前で振りながら小首を傾げた。
(か、か、かわいいっ!!)
またもリディアの眼がハートになる。
(かわいいっ…て、これは何じゃ!? 彩音の能力か!?)
思考が戻ったが、もう遅い。
「でぇーーーーいっ!!」
彩音の左膝蹴りが、リディアの腹部に突き刺さり、斜め上方へと撃ち上げた。
空中で自由なく、両手をバタつかせるリディアへと彩音がジャンプする。
3度目の魔法を試みるリディアの視界に、身体をくねらせたセクシーポーズの彩音が飛び込んできた。
(ええい!! そんなものに3度も引っかかるわらわでは…ない…ない…か、か、かわいいっ!!)
眼がハートになったリディアに、上空から彩音の右脚の蹴りが振り下ろされる。
「ヴァルゴーーーーーッ!!」
彩音の咆哮。
蹴りを背に受けたリディアが、地面へと猛スピードで落下する。
「あ、彩音さんがやけにセクシーなのは乙女座の技のせい…? そもそも、お、乙女座はセクシーなのかっ!?」
サイラスは興奮を隠しきれない。
その横でモグがサイラスを非難するような細目を向ける。
「な、何だ!? これは僕のせいじゃないぞ!!」
「サイラス様、何だかエッチな感じです…」
「こ、こらーーーっ!」
2人が揉めてるうちに、リディアはグラウンドに激突し、巨大な穴を空けた。
まだ空中に居る彩音の頭の中でウーが叫ぶ。
(蟹座でトドメ!!)
「銀河十二星座拳、奥義その4!!」
彩音が吼えた。
両手を肘の部分でバツの字に交差させ、穴の底で倒れたリディアの上へと降下していく。
激突の衝撃で全身を泥で汚したリディアが両手を突いて、身体を起こす。
その脚は、おぼつかなかった。
「お…おのれ…小娘っ!!」
怒声を張り上げ、天を仰ぐ。
そこに空中から両手をハサミの如く振りかざした彩音が降ってきた。
先ほどの攻撃ダメージで、リディアには反応する余裕はない。
交差させた彩音の両腕が蟹のハサミのように、リディアの胴体をガッシリと挟み込んだ。
「キャンサーーーーッ!!」
彩音の咆哮。
挟まれたリディアの全身に、すさまじい衝撃が走る。
「うぐぐ…ぐはっ!!」
リディアが吐血した。
美しい唇から血を垂らし、恐ろしく凄惨な表情を浮かべている。
彩音が両手を離した。
リディアが再び、穴の底に倒れる。
(ざまあみろ!!)
ウーが叫んだ。
かなり溜飲を下げたようだ。
(一昨日来やがれってんだ!!)
江戸っ子みたいなことを言う。
彩音の側へ、サイラスが駆けつけた。
「龍王院さん、やったね!」
サイラスは興奮を隠せない。
「田中くん…ありがとう」
彩音が、はにかむ。
ウーの「乙女座」の必殺技ビジョンによって使用したセクシーポーズを思い出し、急に恥ずかしくなってきたのだ。
(私、田中くんにまで、かわいいポーズしてたよね…)
彩音の顔が赤らむ。
「龍王院さんが無事で良かった」とサイラス。
「そだ!」
彩音が気づいた。
「田中くん、どうして動けるの? 魔法みたいのも使ってるし…」
「あー」
サイラスが右手で頭を掻く。
しばらく考えたが、真剣な顔で彩音を見つめた。
「ちゃんと説明するよ」
(お取り込み中、悪いけど)
ウーが割り込んだ。
(何?)
(バカ女が逃げたよ)
彩音がリディアに視線を戻すと、その姿が消えていた。
人間大の真っ黒な穴が空いている。
(さすがに懲りたでしょ?)と彩音。
(いやー。ああいうのは執念深いからね。また来んじゃね?)
ウーが諦めぎみに言った。




