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彩音がすぐ側の気配に気づいた。
そちらに眼をやると、両手のひらをこちらに向けたメイド姿のモグが居る。
「え!? タケちゃん!?」
彩音が驚いた。
「あ! 解除できた!? もっと時間がかかるはずなのに…?」
モグが戸惑う。
そして彩音にペコリと頭を下げた。
「ど、どうも」
引きつった笑い。
「どうしてここにタケちゃんが!?」
「あわわ! そ、そんなことより、サイ…ひ、英雄様を…お、お兄様を助けてください!!」
モグが彩音の前方を指す。
「え!? 田中くんを!?」
彩音がモグの指先を見ると、リディアと互角の戦いを繰り広げる男の姿があった。
その男は確かにサイラス、否、彩音にとっては田中英雄だ。
次の瞬間、彩音は弾丸の如く走りだした。
リディアに殴りかかる。
「くっ!?」
リディアが後方へ跳び、それをかわす。
彩音はサイラスの前に立ち、リディアと相対した。
背後に首を向ける。
「田中くん!? 何故、ここに!?」
彩音が訊いた。
「あー。そ、それは…」
サイラスが答えに困る。
「詳しい説明は後でするよ。それよりも今は!!」
サイラスが彩音の腰を抱きかかえ、真横へ跳んだ。
リディアの放った雷撃が、2人の居た場所を通り過ぎる。
突然のボディタッチに彩音がキョトンとなり、その直後に顔を真っ赤にする。
「やーんっ、た、田中くんっ!!」
いつもクールで大人しい彩音のまさかの「やーんっ」を初めて聞いたサイラスも、瞬時に顔を朱に染めた。
「うわ!! ご、ごめん!!」
慌てて彩音の腰から手を離す。
「い、今のは緊急だから! けして、けしてエッチな気持ちではないから! ご、ごめん!!」
もう一度、謝る。
彩音はサイラスに触られた辺りの制服を整えた。
恥ずかしそうに下を向く。
(わ! 何これ!? 必殺技の発動条件のエネルギーが、一気にMAXになったんだけど!? テンション爆上がり? あれ? これって、もしかして…彩音は田中英雄が)
(ウーちゃん、言わないで!!)
彩音が顔を真っ赤にして、頭の中で絶叫した。
(わー、すごい声!! ビックリした!!)
(リディアを倒すよ! 必殺技、よろしく!)
(え!? あ、ああ、オッケー! まずは乙女座!!)
彩音の脳裏に必殺技のイメージが湧き上がる。
(ええ!? ウ、ウーちゃん、この技、ちょっと…)
(何、言ってんの! このぐらい大丈夫、大丈夫! 早くリディアを追い払わないと、田中も危ないよ!!)
(むー、し、仕方ない…)
「銀河十二星座拳、奥義その6!!」
彩音が吼える。
途端に彩音の雰囲気が激変した。
全身から立ち昇る、ふんわりとしたフェミニンな空気。
甘い匂いが辺りに発散される。
これにはサイラスがビクッとなった。
(何だ、この感覚!? あ、彩音さんが…めちゃくちゃ…色っぽい…)
サイラスが首をブンブンと横に振る。
(た、戦いの最中に、僕は何を考えてるんだ! これは…さっき彩音さんにタッチしてしまったせいなのか!?)
狼狽えるサイラスの眼と、彩音の眼が合った。
彩音がかわいいポーズをとり、右眼をパチッとウインクさせる。
(う、うわーーーーーっ!!)
サイラスの胸に特大のハートの矢が突き刺さった。
(か、か、か、か、かわいいーーーっ!!)
サイラスにウインクした彩音の身体が、そのまま横にスライドし、リディアへと跳んだ。
右手をバックスイングする。
右拳を繰り出す予備動作であった。
「ええいっ!!」
苛立ちで顔を歪めたリディアが両手を上げて迎え撃つ。
魔法のシールドを展開しようとした、その時。
彩音が髪の毛をサラッと掻き上げた。
そして、爽やかに微笑む。
ドッキーーーーンッ!!
リディアの瞳がハートになった。
(か、か、か、かわいいーーーっ!!)
ときめいたリディアの一瞬の隙に。
「どりゃーーーーっ!!」
彩音の右ストレートがリディアの顔面を捉えた。
「ぐえっ!!」




