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 またも、なす(すべ)なく弾き飛ばされるのか?


 否。


 彩音は両手を広げ、周りの水を掻くとスラリとした白い脚をイルカの尾びれの如く打ち振って、先ほどまでとは全く次元の違う素早い動きで、敵の体当たりをあっさりとかわした。


 そのまま水中を魚雷並みのスピードで旋回し、クラーケンの真下へと潜り込む。


 横腹をさらす敵の胴体に、突き上げるような右アッパーを食らわせた。


「ピスケスーーーーッ!!」


 十二星座拳魚座の効果で、水中でもその声はハッキリと響き渡った。


 打撃が捉えたクラーケンの胴体が円形に凹み、水面にくの字となって吹っ飛ばされる。


 巨体も水の抵抗も一切、感じさせないすさまじい勢いでクラーケンは急上昇していく。


 そしてついに水面を越え、水上へと打ち上げられた。


 それでも勢いは止まらず、元々居た屋上よりもさらに上空に到達した。


 クラーケンの後を追い、彩音も水上に飛び出す。


 空中に浮き、頭上のクラーケンをにらみつける。


 屋上の3人、リディアとサイラス、モグは空中でジタバタするクラーケンに驚愕し、眼を白黒させている。


(彩音! 射手座でとどめだ!!)


 再び水面に向けて落下し始めた彩音が頷く。


「銀河十二星座拳、奥義その9!!」


 彩音が叫ぶや、左手の中に金色に輝く弓が、右手には同じく金の矢が現れた。


 左腕を真っ直ぐに突きだし、矢をつがえる。


 そして弓の(つる)を引き絞った。


 上から落ちてくるクラーケンに狙いを定める。


「おおおおおーーーーっ!!」


 彩音が咆哮した。


「サジタリアスッ!!」


 右手が金色の矢を放した。


 矢が猛烈な勢いで撃ち出される。


 爆進する矢は、クラーケンの両眼の間に深々と突き刺さった。


 海の怪物が苦悶の断末魔を上げる。


 体内へと侵入した矢は光の塊と化して、大爆発した。


 クラーケンの巨体が粉々に四散する。


 バラバラの身体は瞬時に消失していく。


 ドラゴンと同じく、許容量を越えた攻撃を受けたため、無に帰したのだ。


 彩音が水面に落ちる。


 今度は水中には沈まず、プカッと浮かんでいる。


 屋上のサイラスが、ホッと胸を撫で下ろした。


 一方のリディアは。


 またしても、その美しい顔を激しい怒りに歪ませていた。


 前回とは違い、力任せではない策を考えた上での襲撃であった。


 彩音が全力を発揮できない水中での戦い。


 意表を突き、目論見通(もくろみどお)りに事は運んだ。


 にもかかわらず。


 またしても負けた。


 正義の女神が、これで3度も辛酸(しんさん)を舐めさせられたのだ。


「龍王院…彩音…」


 リディアが絞り出すように敵の名を吐き出す。


 双眸は憎悪に血走っている。


 屋上のフェンス越しに彩音を見下ろす。


 彩音は力強いクロールで校舎にたどり着き、3階の窓の出っ張りに手をかけた。


 身体を引き上げ、両脚で立つ。


 すると濡れていた彩音の全身が、瞬時に乾いた。


(風邪引かないように乾かしたよ)とウー。


 彩音が頷き、上方へと跳び上がった。


 一気にフェンスを越え、屋上に降り立つ。


 眼前にはリディアが居る。


 2人の女の視線が火花を散らす。


 彩音がリディアをにらみつつ、顎で暗黒の穴を指した。


「帰れ」という意思表示だ。


 リディアも彩音を視線のみで殺そうとするほどの敵意を放ちながら、無言で穴へと歩きだす。


 その姿が穴の中に消え去った。


(あの女…また来るよ)


 ウーがため息をつく。


 リディアの消えた穴が消失すると、周りの時間が正常に動き始めた。


 彩音が「ふぅ」と息を吐く。


「そだ。お昼ご飯の途中だった!」


 ベンチへと振り返り。


「あっ」と声を上げる。


 ベンチの側に立つ2人に気づいたからだ。


「りゅ…龍王院さん」


 サイラスが慌てて呼びかける。


「田中くん!?」


 彩音が眼をパチパチさせた。


 そういえばリディアがこちらの世界に来る直前、誰かが屋上のドアを開けたような…。


 それどころではなくなって、入ってきた人の姿までは確認しなかったのだ。


(田中くんだったのね…)






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