15
「目立つなと仰られたのは王子です!!」
モグの言葉にサイラスはハッとした。
確かに、その通りだ。
眼前の戦いは明らかにサイラスとは無関係。
だが。
クラスメイトが。
しかも龍王院彩音が。
危険と向き合っている。
助けたい。
「王子!!」
モグの声。
「もしも王子に万が一があれば、マレーネ様はどうなります!?」
サイラスの動きが止まった。
(こんな…これではまた…あの時と同じ…)
以前の記憶に胸が痛む。
(彩音!!)
ドラゴンの炎をかわす彩音にウーが呼びかけた。
(何!?)
(このままじゃ、らちが明かない!! 必殺技かますよ!!)
(使えるの!?)
(うん!!)
(じゃあ、使おう!!)
(まずは天秤座!!)
「銀河十二星座拳、奥義その7!!」
彩音が叫ぶ。
と同時に大地が揺れた。
地面にひびが入り、下から巨大な物体がせり上がってくる。
彩音以外の全員が驚愕で言葉を失った。
物体の正体は巨大な天秤。
一点の曇りもなく、金色に輝いている。
地中から現れる際、左側の半円球の受け皿にドラゴンの身体をすっぽりと収めたため、そちら側に天秤が傾いた。
ドラゴンは突然の事態にパニックを起こし、器の中でバランスを崩すとひっくり返った。
「な、何じゃこれは!?」
ようやく呆然から回復したリディアが叫ぶ。
前回の戦いから、まだ完全に立ち直ってはいない。
策はそれなりに考えたのだが、結局、具体的な案が浮かばないうちに、一介の小娘に敗れた屈辱感が甦り、怒りのままに再戦を挑んでいる。
この世界には魔法のフィールドを張ってある。
その効果で母神ヘレスには気づかれない。
後は彩音を痛めつけて改心を促し、異世界転生を承諾させるだけ。
それだけという思いが却ってリディアの恨みの炎に油を注いだ。
早く。
とにかく1秒でも早く、彩音を屈服させ、泣きながら謝る顔が見たい。
反省し「リディア様が正しかったです」と言う姿を。
そして最後にはこの正義の女神を敬い、忠誠を誓った勇者の1人となるのだ。
それが叶うまでは、一時も心が休まらない。
気がつけばリディアは配下の火竜を召還し、彩音の世界への門を開いていた。
(今度こそ!!)
しかし今、現実に眼の前に繰り広げられる光景とは。
ドラゴンが天秤の左の器内でもがく姿。
彩音が空中高く飛び上がった。
そして飛び蹴りの姿勢で、右の天秤へと猛スピードで落下してくる。
「ライブラーーーーッ!!」
彩音が叫ぶ。
轟音と共に彩音が右天秤に激突する。
その勢いで左天秤がシーソーの如く、跳ね上がった。
天秤は、まるで投石機のようにドラゴンの巨体を上空に射出した。
体重を感じさせず、ドラゴンが宙を舞う。
必死にもがくが、翼の無い身では空中で体勢を制御できない。
ただジタバタするのみ。
(とどめは山羊座!!)
ウーが吼える。
「銀河十二星座拳、奥義その10!!」
彩音が咆哮した。
またも呆然としていたリディアが、ビクッと身体を震わせる。
打ち上げられた後、今度は猛烈なスピードで地上へと落ちてくるドラゴンへ彩音が跳躍する。
その身体が空中で天地逆となり、両脚を上にして天に昇っていく。
「いやん!!」
技の最中にも関わらず、彩音が突然、妙な声を上げた。
体勢が逆さになったので、このままでは膝辺りまでの長さのスカートがめくれ上がり、下着が露になると気づいたからだ。
校舎近くで彩音を見上げるサイラスが、スカートがめくれる気配を察知して「わ!?」となる。
(りゅ、龍王院さんのが見える!?)
しかし次の瞬間には、サイラスの両眼はモグの小さな両手で塞がれた。
「ダメです、王子! 眼の毒です!!」
「な、何も見えないー!!」
サイラスが、やや残念そうに叫ぶ。




