専属執事と女の必需品
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異世界に召喚され、流されるまま婚約した私は夕食後、寝室に戻るなり眠ってしまった。
目が覚めて身支度を整える。
今日はライトイエローのドレスを着てみようかな。
ドレスを取り出すと私の手から離れて浮き、コルセットが開いた。
どうやら自動で着付けてくれる魔法がかかっているらしい。
ドレスに体を入れると苦しくない程度に着付けられた。
「魔法って便利ね。
早く覚えたいな。」
朝食を取るためダイニングに来るとルイが食べているところだった。
昨日はノリノリで婚約したはずだけど何だか気恥ずかしい。
でも挨拶はしないと。
「おはよう。」
「おはよう、よく眠れたか?」
「とてもよく眠れたよ。
良いベッドを用意してくれてありがとう。」
「とんでもない。
そのドレス似合ってる。」
「ありがとう。
魔法のお陰で簡単に着られたの。」
「その魔法は俺の弟が開発したものだ。
そういえば、弟達が昼頃に帰ってくるそうだ。
俺達の婚約が決まったから職場から休みを取らされたらしい。
軽く挨拶してくれるか?」
「わかった。
緊張するな…。」
「弟達にも堅苦しい挨拶はしないよう連絡してあるから心配するな。
そういえば朝食後に専属の執事が決まったから挨拶したいと言っていたよ。
俺は今日から仕事に戻るから同席できないが、よろしく頼む。」
「大丈夫。
お仕事頑張ってね。」
「ありがとう。」
ルイは食事を終えて立ち上がり私のところに来ると額にキスをして出て行った。
思わず額を押さえて赤くなる。
早く慣れないと心臓が壊れる!
朝食を終えて部屋に戻ると扉の横に3人の執事が並んでいた。
1人は執事長のセリューさんだ。
私に気付くと礼をしてくれる。
「おはよう。」
と声をかけると
「おはようございます、マナミ様。
こちらはマナミ様専属の執事でございます。
左がジャン、右がポルトです。
どちらか1人は必ずお側にいることになります。」
ジャンと呼ばれた青年を見るとセリューさんと同じくらいの背丈で細身、髪はダークブラウンで斜めに流されているが緩くカールしている。
優しそうな顔立ちで髪と同じ色の目は営業スマイルのため弧を描いている。
ジャンは一歩進み出て口を開いた。
「初めまして、ジャンと申します。
ルイ様とは幼なじみで今でも時々晩酌する仲です。
ルイ様のことは色々お教えできると思いますよ。
これからよろしくお願いします。」
ジャンがお辞儀して一歩下がると今度はポルトが進み出た。
ポルトは背丈こそ他の2人と変わらないがガタイが良く、くすんだ緑髪を斜めに流し、垂れ目はダークブラウンで大人しそうな顔立ちをしている。
「ポルトと申します。
元は農民でしたので至らぬ点もありますが、よろしくお願いします。」
と深々とお辞儀し一歩下がった。
ジャンは年が近そうだが、ポルトは若そうだ。
ジャンからルイのことを色々聞かせてもらおう。
「本日はジャンが付きます。
スケジュールは伝えてありますので、それに従っていただきますようお願い申し上げます。」
「了解しました。
ジャン、ポルト、2人ともこれからよろしくね。」
「「よろしくお願いします。」」
セリューさんとポルトは別の仕事があるそうで去っていった。
私とジャンは私の部屋でスケジュールの確認を行う。
「午前中は自由にしていただいて構いません。
昼頃にルイ様の弟君がご帰宅されますので挨拶して下さい。
ご挨拶の前に身支度を整えていただきたいので、よろしくお願いします。
道具は用意してありますので後程使い方を説明します。
たぶん弟君と昼食を取ることになると思われます。
昼過ぎはベルナルド家に仕える兵士の隊長達をご紹介致します。
また挨拶をお願いします。
その後は自由です。」
お城に住む以上、挨拶回りはするべきだろうけど、全員に挨拶が完了するのはいつになるのだろう?
「了解。
挨拶って簡単な自己紹介でいいの?」
「大丈夫です。
お互いの顔と名前が分かればいいので。
兵士は出迎えをしたので貴女の顔は分かってるはずですがね。」
そういえばあの時馬から降りるためにルイに抱きついたのを見られていた。
兵士に会うのが恥ずかしくなる。
「そんなに緊張されなくても大丈夫だと思いますよ。
転移者に常識を押し付けないようにと国の法律で決まっていますから。」
「転移者に優しい国なのね。」
「以前、色々ありまして…。
ご興味があるなら別の機会にお話しますよ。」
色々ってなんだろう。
好奇心と少しの恐怖がある。
それより私は聞きたいことがあった。
「ルイと幼なじみだそうね。
どんな方なのか詳しく教えて。」
するとジャンはニヤリと笑った。
「貴女がルイ様のことを知りたがっていると知ったら、非常に喜ぶと思いますよ。
何故かって、ルイ様は貴女を転移させるためご苦労なさったからです。」
私を転移させるのに苦労した?
どういう意味だろう?
「転移者はランダムなのかと思っていたけど違うの?」
「最初はそうでした。
でもルイ様は貴女を指名したのです。
貴女は忘れているようですが、お2人はお会いしたことがあるのですよ。」
「嘘!?」
「本当ですよ。
でも無理もないです。
何年も前にたった数分会っただけですからね。」
どういうことだろう?
ルイは私の世界に来たことがあったのか?
それにしても、あんな鮮やかな赤髪を忘れるだろうか?
「無理に思い出す必要はないですよ。
それより、ルイ様のことをお教えします。
ベルナルド家の長男で真面目なお方ですが、少し頑固なところがあります。
魔法がお得意で特に魔方陣を創られるのがお上手です。
別の世界から転移させる魔方陣を創られたのはルイ様です。」
ルイって凄い人なんだ。
そんな人に好いてもらっていたなんて、数年前に私は何をしたんだろう?
大学生の頃の話だろうか?
特に思い当たることはないな。
「少し話は逸れますが、この世界での魔法の力と毛髪の因果についてご存知ですか?」
「いえ、知らないわ。」
「では説明します…」
要約すると
・この世界には火、水、木、金、土の5種の魔法がある
・この世界の人はそれぞれ得意な魔法が違っていて髪の色で見分けることができる
・火は赤、水は青、木は緑、金は金、土は茶である
・魔法の力の強さは髪の色の鮮やかさで分かるためルイはかなりの力がある
・ちなみに黒は全てを足した色なので、どれもそれなりに扱えるが、力の強さは期待できない
とのことだ。
私は黒だから器用貧乏なわけか。
でも魔法で何か競うつもりはないから何でも使えた方が有り難みがあるかも。
「ルイは凄い人なのね。」
「そうなんです!
だから突然召喚した上に婚約させられて悪印象かもしれませんが、悪いようにはしない方だとご理解いただきたく。」
ジャンがルイを大切に思っているのが伝わってくる。
こんな素敵な幼なじみがいる人が悪い人だとは思えない。
そもそも悪印象ってほどではないし、むしろ好きになってると思うけど。
「ルイのことは私も悪く思ってないよ。
召喚されたのは驚いているし、複数人と結婚しないといけないのは戸惑ってるけどね。」
それを聞くとジャンは苦笑いした。
「複数人と結婚なんて普通は嫌ですよね。
強要することは法律で禁止されてますから、ご安心下さい。」
「そうだったの。
ジャンは法律に詳しいの?」
「執事はある程度勉強しています。
マナミ様も家庭教師から教えられると思います。」
法律を知らないと損をするのはどの世界でも同じだろうから安心だ。
「結構話し込んでしまいましたね。
そろそろ身支度を整えるためのツールの説明をさせて下さい。」
そう言うと綺麗な彫刻の施された木製の箱を空間から取り出した。
「どこから出したの?」
「魔法で自分だけの亜空間を造りだし収納していました。
これは生活魔法と呼ばれる簡単な魔法ですので、家庭教師から教えられるはずです。」
ゲームのツールボックスも同じ原理なのかも。
「この箱はメイクボックスというものです。
蓋を開けると蓋裏に鏡が付いています。
箱の中には魔方陣が書いてありますので、手をかざして下さい。
そして頭の中にどのような自分になりたいか思い浮かべてください。
はっきり思い浮かべば魔方陣が反応し化粧が施されます。
ちなみに、今日はフォーマルな装いをしていただきたいので例となる写し絵を持ってきました。」
どんな髪型を要求されるのかと怯えつつ渡された紙を見るとシンプルなシニョンに赤を基調としたメイクだった。
少し派手だがやってみよう。
ジャンから箱を受け取り蓋を開ける。
魔方陣に右手をかざすと僅かに光を帯びる。
蓋裏の鏡を見ると自分の顔が写っている。
こちらの世界で再構築されたお陰か肌が綺麗に見える。
その顔にメイクが施され髪がシニョンに纏められた様子を想像する。
すると魔方陣が眩く光り思わず目を閉じる。
目を開くと鏡の中にはメイクアップされた自分が写っていた。
「成功ですね。
お上手です。」
「ありがとう。
とても便利なツールね。」
「これはルイ様の弟君が造られたそうですよ。
マナミ様に差し上げます。」
「弟さんも凄いのね。
素晴らしいモノをありがとう。」
「それはご本人に直接お伝え下さい。
そろそろ帰られるはずです。
ダイニングへ行きましょう。」
ジャンに促されダイニングへ向かった。
ご覧いただきありがとうございました。
本当は一気に登場人物を増やしたかったのですが、
魔法や便利道具の説明に費やしてしまいました。
人物は何話かに分けて説明します。
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次回の投稿は明日です。