ベルナルド城へ
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私を異世界に召喚したと言う男、ベルナルドさんに連れられて歩くと一頭の馬が草を食んでいた。
「城には、この馬で帰ります。
乗馬の経験はありますか?」
とベルナルドさんが尋ねた。
記憶を探るが幼い頃に牧場で乗ったことしか思い出されない。
元の世界では乗馬の経験がある人の方が少ないと思うが。
「ありません。」
「そうですか。
では、お手伝いします。」
「ベルナルドさんは城に住んでいらっしゃるのですよね?」
「はい、ここの領主の息子ですから。」
貴族のような服装だと思っていたが正真正銘のお貴族様だったのか。
これからご両親に会わなくてはならないのが一段と憂鬱になる。
「それから、私のことはルイとお呼び下さい。」
まだ会ったばかりなので気が引けるが、ご両親もベルナルドさんであるわけだ。
後の会話がややこしくならないよう素直に受け入れる。
「承知しました。
私のことはマナミとお呼び下さい。」
するとルイは嬉しそうに
「ええ、そうします。」
と微笑んだ。
イケメンの笑顔はずるい。
先程まで憂鬱だったのに吹き飛んでしまった。
馬の横まで近付くとルイは真剣な顔で言った。
「馬は繊細な生き物ですので、大きな声を出されますと驚いて暴れます。
くれぐれも気を付けて下さい。」
これは脅されているのだろう。
城までの道中で人に会っても助けを呼ぶなと。
突然異世界に召喚され嫁になれと言われているわけで、戸惑いは勿論あるが今逃げたところで良いことは無さそうだ。
「承知しております。
乗り方を教えて下さい。」
ルイは優しく教えてくれたが、乗るのは一苦労だった。
太ってはいないと思っていたがよじ登る様は滑稽だったろう。
下から見られていたのが恥ずかしい。
それでも、いつもより高い目線は少し楽しい。
するとルイも軽快な動作で後ろに乗ってきた。
「っっ!」
驚いて声が出そうになったが、なんとか手で押さえることに成功した。
そんな私を見てルイは楽しそうに言った。
「短いですが馬の旅を楽しみましょうね。」
そして右手は手綱を握り、左手は私のお腹に回される。
背中にルイの体温が生々しく感じられ、顔が熱くなる。
「よ、よろしくお願いします…」
なんとか声を絞り出すとルイがクスッと笑い、それが耳元で聞こえるものだから更に熱くなってしまう。
短い馬の旅って何分だろう?
そう思うと同時に馬が駆け出した。
ベルナルド城は大きな池の中に建てられていた。
白亜の美しい城だ。
これからここに住むことになるのだろうか。
嬉しさと緊張で頭の中が忙しい。
ところで城にはどのようにして入るのだろうか。
橋はなさそうだ。
不思議に思っているとルイが何やら呟いた。
すると池の中から石造りの大きな橋が現れた。
「これも魔法なんですね!」
感動してルイを振り返ると思ったより顔が近く、慌てて前を向いた。
「喜んでいただけたようで何よりです。」
ルイの楽しそうな声が聞こえると共にコツコツと馬が橋を渡る軽快な音が響いた。
城に近付くと兵士と思われる人々が迎え入れる列を作っていた。
どの人も微笑んでいるので少しほっとした。
自分のような平凡な人間が入るのは場違いな気がしていたが、歓迎されているのが伝わってきたからだ。
列の前で馬が止まった。
思わずキョロキョロしていると左側から台を持った兵士が現れた。
大変ありがたい!
どうやって降りるのかも心配の1つだったのだ。
「私が先に降りますのでお待ち下さい。」
そう声をかけられ待つ間はルイの動作をしっかり見た。
これを真似しなければならないのだ。
ルイは簡単そうに台に降り立ち、私に両手を伸ばした。
「両足をこちらに揃えて私に飛び込んで下さい。
必ず受け止めます。」
別の意味でハードルが上がった。
兵士が大勢見ているのに恥ずかしくないのだろうか?
しかしルイはニコニコと楽しそうだ。
自分1人では降りられない。
かといって抱きつくのは恥ずかしい!
私は葛藤したが
「さぁ!」
とルイに言われたら覚悟を決めるしかない。
「行きます!」
と謎のかけ声を発して私はルイに飛び込んだ。
ルイは宣言通りに受け止めてくれる。
凛とした花の香りと少し汗のにおいがした。
顔が真っ赤になったのが自分でも分かる。
すると兵士たちから拍手と歓声が起きた。
穴があったら入りたい。
今までのどんなミスよりも恥ずかしい。
でもとても幸せに感じている自分がいた。
書きたい部分に到達するまでが焦れったくて仕方ないです。
そのせいか想定より早く書いてしまっています。
おかしなところがあれば教えてください。
投稿目標は1週間後です。