出会い
続きをご覧いただきありがとうございます。
仕事から帰宅する途中で交通事故にあったはずだったが目が覚めると見知らぬ森の中にいた。
とりあえず人里を目指すため森の中をなんとなく風上に歩いてみる。
森を歩くのなんて学生時代の遠足以来だが、木の薫りを胸いっぱいに吸い込むと気分が良くなった気がした。
木に詳しくないので種類は分からないが葉は広葉樹のものだ。
この土地は温暖な気候と思われる。
今は薄手のジャケットでも快適だ。
しかしこのまま夜を迎えるのは危険だろう。
森の中は冷えるかもしれない。
それにどんな野生動物がいるか分からないのだ。
目標がないまま歩き続けると幸運なことに川が見えた。
近付いて川の水を掬い臭いを嗅いでみると特に何も感じられなかった。
「飲んでも大丈夫かな?」
手の水を飲もうとした時
「飲んだら駄目だ!」
と大きな声がした。
驚いて水をこぼし声の方を見る。
すると赤髪の男性が怒った顔でこちらに向かって歩いてきた。
「申し訳ございません!」
思わず直角に腰を折って謝るとため息が聞こえた。
「謝ることじゃない。そのまま飲むと腹を下すから注意しただけだ。」
顔を上げると苦笑いを浮かべた顔と目があった。
黄色の瞳が綺麗だ。
「よほど喉が渇いていたんだろう?
遠くから来たようだし」
そう言うと私の服を見た。
自分と男性の服を見比べるとスーツでもTシャツでもない。
歴史の教科書で見た革命家のような真紅の服に綺麗な刺繍が施されている。
豪華な衣装でこんな森にいるのだから森林浴にでも来た貴族なのだろう。
そして髪は短く重力に逆らっており燃えるような赤色で目は黄色、背が高く彫りの深い顔立ちであることから日本人ではないようだ。
歳は近そうな印象を受ける。
もしこれが夢であれば先週観に行った舞台の影響を受けているようだ。
あの舞台は素敵な王子様とおてんばな町娘のラブコメディで笑いあり涙ありで最高だった。
つい素敵な記憶に浸っていると心配した顔で覗き込まれた。
「突然ぼーっとして大丈夫か?」
近くでみるとなかなかのイケメンなことに気付き、驚き慌てて答える。
「だ、大丈夫です!
実は自分がどうやってここに来たか分からないのですが、ここがどこか教えていただけますか。」
するとイケメンは納得したような顔をした後、答えてくれた。
「ここはコリーヌベルト国のベルナルド領です。」
全く聞いたことがない地名だ。
そして今更言葉が通じていることに驚く。
「ありがとうございます。
変なことを聞きますが、なぜ私の言葉が通じているのでしょうか?」
こんなことを聞いても意味がないかもしれないが口から出てしまった。
するとイケメンは笑顔で答えた。
「それは魔法で翻訳されるようになっているからですよ。」
思わずぎょっとすると更に続けた。
「あなたは異世界から来られたのでしょう?」
私は背筋が寒くなった。
なぜ異世界から来たことを知っているのだろう。
そういえばいつの間にかイケメンの口調が丁寧になっている。
「なぜそのことを?」
「その変わった服を見れば分かりますよ。
それに召喚の魔法を使ったのは私ですから。」
そう言うなり、イケメンは跪いて私の手を取った。
「私の嫁になっていただくため召喚致しました。
申し遅れましたが、私の名はルイ・ベルナルドと申します。
お名前をお聞きしても?」
私は唖然とし後ずさったがベルナルドさんは手を握って見つめてくる。
名前を聞くまで手を離さないつもりのようだ。
「マナミ・スズキです。」
するとニコリと微笑んで立ち上がり、手を引いて歩き出した。
「ちょ、ちょっとどこに行くんですか!?」
私は大声を出したがベルナルドさんは動じることなく答える。
「私の家です。
両親に召喚が成功したことを報告しなくては。」
そう言いながら腰に手を回された。
嫁にするために召喚したと言っていたが、このまま行って良いのか?
しかし今逃げたところで行く宛もない。
私は諦めのため息を吐きながら連れられて行くのだった。
読んでいただきありがとうございました。
たくさん書いたつもりでしたが、なかなか進みません。
次回は1週間後が目標です。
よろしくお願いします。