十一 いざアンナプルナへ
修行に明け暮れて、運命の五月十三日。
ボスの呼び出しで God Killer メンバーは会議室に全員集合していた。
「貴様ら、時は来たぞ。呼び出しの理由は分かっているだろうな?」
「ハッ! もちろんでございます!」
勢いよく返ってきた声に、狂花は満足げにニヤリと笑う。
「そうだ――アンナプルナ遠征だ」
空気が一瞬で熱を帯びる。
白馬の修行の成果を試す時が、ついに訪れたのだ。
「明日より我らGod Killerはアンナプルナへ出立する。今日中に準備を済ませろ。遅れたモノは置いていく。以上、解散」
狂花の言葉が終わるやいなや、何故か男性メンバーはガッツポーズで歓喜していた。
「うおおおおお!!」
「ついにこの日が…!」
「ロマンが俺を呼んでいる!!」
白馬は引きつった笑みを浮かべる。
「いや…山ですよね? なんでそんなテンション上がってるんですか…?」
傭推が肩を叩きながら爽やか(?)に笑う。
「白馬君、君も水着買わないとだね」
「……はい?」
「アンナプルナですよ?」
傭推はウンウンと頷きながら説明する。
「遠征帰りに海で遊ぶのが恒例なんだよ。まぁ…男には外せない理由もあるけどね?」
「理由?」
「うちのメンバー美少女揃いでしょ? そう…ロマンさ!」
横でミナサがじとーっと冷たい視線を投げる。
「キモ」
「ミナサさん!? 直球!」
「白馬、行こっ」
彼女は慣れない小走りで白馬の手を掴み、ずるずると水着売り場へ連行した。
「じゃあ俺、猫カフェで待ってるから! 30分後ねー!」
傭推は逃げるように食堂から消えた。
売り場に着くなり、ミナサは布団こそ被っていないものの、いつもの癖で白馬の袖をちょんちょん引っ張る。
「白馬、どんな水着が好き?」
「ミナサなら…どれでも似合うと思うけど?」
瞬間、ミナサの頬が赤く灯った。
「…カ…ワ……イイ…って言った?」
「言ってないです」
「今絶対言った」
「言ってません」
ミナサは口を尖らせつつも、まんざらでもなさそうに更衣室へ消える。
そして――カーテンがそっと開く。
「白馬、どうかな…似合ってる?」
白のワンピース水着。
雪のような人工肌と銀の髪に映えて、まさに“白の調和”。
「うん。すごく可愛い」
「……なら、これにする」
彼女は素直にこくんと頷いた。
その後、白馬も自分用の水着を選び終えると、ふと視界の端でミナサがフリフリの洋服をじっと見つめているのに気づいた。
(ミナサも…やっぱり女の子なんだな)
「服も買っていこうよ」
ミナサは驚いて目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに微笑む。
「じゃあ…白馬はどんな服が好き?」
「白のワンピース、かな」
「了解。白馬の好みインストール」
「言い方」
彼女は楽しげに更衣室へ入っていった。
数分後、またカーテンが開く。
「…似合ってる?」
「うん。やっぱり何着ても似合うね」
「ありがと」
その小さな一言に、白馬の鼓動が跳ねる。
「じゃあ、あと何着か買っていこうよ」
「え、そんな買うの?」
「いいでしょ別に」
「…嬉しい。今…私、とっても幸せ」
「大袈裟だなぁ」
白馬は苦笑するが、ミナサは首を振る。
「大袈裟じゃないよ。今日は“初めて”がたくさんあったし…白馬と一緒で、私は幸せ。…ごめん、今の忘れて」
誤魔化すように視線を逸らし、耳まで赤くするミナサ。
「いや…忘れないけど」
「忘れてよ!」
「やだ」
言葉とは裏腹に、どこか穏やかで柔らかい空気が二人の間に流れていた。
買い物を終えて猫カフェ前で傭推と合流。
アジトに戻る道中も、ミナサと白馬は目が合うたびに即そらし合うという謎のゲームを続けていた。
「お前らさぁ」
「なんでもないです」
「なにもないです」
「息ピッタリで逆に怖い」
その日の夜。歓迎会の余韻も残る食堂で、凪沙が湯気の立つ椀を白馬に差し出す。
「今日の味噌汁、じゃがいもを入れてみましたけど」
「またですか!」
「具材の自由はメイドの特権なので」
「強い」
「ちなみに味は保証する」
「…なら、いただきます」
口に運んだ瞬間、ほっと息が漏れた。
(なんだろう…懐かしい味がする)
白馬は椀を持ったまま、静かに笑った。
「…うん。めちゃくちゃ美味いです」
「でしょ?」
凪沙は得意げに微笑み、ハルは呆れながらも笑い、サヤは炭酸ぱいなっぷるみるくを飲みながら「じゃがいも味噌汁ブームいつ終わんの」とツッコミを入れ、狂花はすでに寝落ちしていた。
こうして、God Killer一同は翌朝プライベートジェットでアンナプルナへ出立した。
白馬の胸には、新しい力と、新しい仲間と、そして――
(じゃがいも味噌汁、また出そうだな)
そんな無駄な確信だけが、妙にしっかり根付いていた。




