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神に愛された子供たち  作者: 七星北斗
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73/74

十 ネガティブ機械少女

 修行開始から二ヶ月。

 地獄みたいな日々にも、身体だけは嫌でも慣れてきた頃だった。

 狂花に呼び出され、白馬は「作戦会議室」とひどく丸っこい下手な字で書かれたプレートの扉をノックする。

「……入れ」

 返ってきたのはいつもの覇気ではなく、なぜか妙に落ち着かない声だった。

 部屋に入ると、ソファに座った狂花の視線がふらふらと泳いでいる。

 まるで最強刀姫じゃなく、宿題忘れて叱られる直前の中学生みたいだ。

(いや、違うな。中学生というより――ポンコツだ)

 ボス自ら白馬をソファに誘導し、隣に腰を下ろす。

「頼みがある。……ラストナンバー候補がいるんだがな。何度誘っても全っっっ然、入ってくれねぇ」

「つまり……僕に勧誘しろと?」

「察しが早くて助かる」

 狂花は真剣な顔で頷いた。だが耳だけは赤い。

「鍵渡しとく。初任務だ。失敗すんなよ?私は寝るから、頑張れー」

「え、ちょ、丸投げ――」

 言い終える前に、ボスはすでに服を脱いでから、毛布を被って寝る体勢に入っていた。

 ……この人、本当に自由すぎる。

 白馬は鍵を握りしめ、指定された部屋――自室の左隣から三番目の扉を開けた。

 部屋の隅。

 布団をすっぽり被った何かが、小刻みに震えている。

「どなたですか……今は誰にも会いたくないです。……出ていってください」

 澄んだ声が布団越しに届く。

 透明で、寂しくて、少しだけ震えている音色。

(ああ……ハルさんとは違う意味で心臓に悪い)

「僕は黒水白馬。……君の名前は?」

 沈黙。数秒。数十秒。

 やがて布団がもぞっと動く。

「……みな、さ」

「みなささん?」

 少女はこくこく頷く。

「なんで勧誘を断ってるの?」

「嫌、嫌、嫌、嫌、嫌……!」

 布団がさらに震えた。

「私なんかが入ったら足手まといだし、迷惑だし、リア充は爆発するべきだし……外に出たくない……」

「いや最後のはただの私怨じゃん」

 白馬は苦笑しつつ、軽い気持ちで布団をめくった。

 ――直後。

 そこにいたのは、人間ではありえないほど精密で美しい機械仕掛けの少女。

 光を吸い込む金髪、薄い金属光沢の肌、どこか儚い関節の継ぎ目。

「布団……返してぇ……」

 みなさは涙目で震えている。

「ご、ごめんって!」

 白馬は慌てて布団を戻し、隣に座る。

「君……僕を怖がらないの?」

「怖がる理由って何?」

「だって私は人間じゃないし、声も変だし……」

「綺麗な声だと思ったよ。……それに、怖がる理由なんてないだろ?」

 みなさはぽかんと目を丸くした後、ふっと笑った。

「……変な人ですね」

「よく言われる」

 夕方、傭推ようすいが食堂へ呼びに来るまで、白馬はこれまでの戦い、称号、能力、そしてボスの理不尽すぎる愚痴まで語り尽くした。

 みなさは一度も遮らず、静かに頷いて聞いてくれる。

 時折目が合うと、また布団をきゅっと握りしめて顔を隠した。

 翌日。

 修行を終えた白馬が扉をノックすると、今度は震えていない。

「白馬って変わり者だね」

「それ昨日も聞いた」

「……でも、ちょっと好き」

 布団から顔だけ出して、みなさは笑う。

「いつも何で布団被ってるの?」

「死にたくなるから。友達いないし。リア充は爆発すべき」

「こだわりすぎだろそこに」

 白馬は笑う。

 だがその笑いは嘲りじゃない。理解のある笑いだった。

「じゃあさ。……僕と友達にならないか?」

 差し出した手。

「……ほんと変な人」

 そう言いながら、みなさは白馬の手をぎゅっと握り返した。

「友達の頼みだから、私ラストナンバーに入る。でもその代わり……部屋の外へ出る時は、ずっと一緒にいてください」

「もちろん。……僕でよければ、そばにいる」

「……嬉しい」

 その声は、今まで聞いたどんな声よりも澄んでいた。

 白馬も少し照れて、つられて布団を被りたくなる。

(いや被らないけど!)

 ……でもちょっとだけわかる。恥ずかしい時の気持ち。

「じゃあ……また明日な」

「はい、また明日」

 God Killerのアジト地下。

 テロでも修行でも怪物でもない、ただの少年と機械少女の約束が、静かに結ばれた日だった。

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