四 神の子
施設内を歩き始めて、十分ほどが経った頃だった。
筑波は行き止まりに見える無機質な壁の前で立ち止まった。
天井近くに設置された監視カメラのような装置に、カードキーをかざす。
赤い光が走った次の瞬間、低い駆動音とともに床が左右に割れ、地下へと続く階段が姿を現した。
「……驚いた?」
「ええ。完全に壁だと思っていました」
「フェイクだよ。この場所は、それだけ隠す価値があるってことだ」
筑波は軽く肩をすくめ、階段を下り始める。
途中で振り返り、手招きをした。
白馬は一瞬だけ躊躇し、それでも後を追った。
辿り着いた先は、医療施設を思わせる白一色の空間だった。
中央には、明らかに“検査用”とわかる装置が鎮座している。
「ここが……」
「運命力鑑定室だ」
古代遺跡から発掘されたと聞いていたが、印象はまるで違った。
未来的ですらある。
「横になって。腕と頭に、これを」
言われるまま装着すると、筑波は隣の端末を起動させた。
次の瞬間、部屋全体が淡く発光する。
「……おや?」
筑波の声が、わずかに上ずった。
「どうしたんですか」
「いや……想定はしていたけど、これは」
画面を睨み、息を吸う。
「白馬君。君の運命力、異常値だ」
「異常……?」
「能力は、剛力、嗅覚強化、並行思考、疾走、脱兎……それと――」
筑波の指が一瞬、止まる。
「……未解析領域がある。称号は《逆転劇》」
「え……?」
頭が追いつかない。
「僕、無能じゃ……」
「違う。君は間違いなく“神の子”だ」
断言だった。
「神の……子?」
「詳しい説明は後だ。今すぐ、ボスに会わせる必要がある」
筑波は白馬の手首を掴み、歩き出す。
「やっとだ……ようやく、辿り着いたかもしれない」
その独り言に、白馬は気づかなかった。
——自分が“選ばれた”という事実に、思考を支配されていたからだ。
***
巨大な扉の前で、筑波は足を止めた。
「ボス、起きてますか。新人を連れてきました」
反応はない。
「……失礼します」
扉が開く。
中は簡素な私室だった。
ベッドの上には、一人の少女が裸で横になっている。
透き通るように白く、赤子のような弾力があり、
瑞々しいハリのある肌。
汗ばんだ肢体に艶やかな双丘、
キュッと引き締まった形のよい臀部。
「ぐーぐー、すやすや、
むにゃむにゃ、ペロペロ」
何か舐めてる?
外見は白馬より少し年上に見える。
だが、空気が違った。
眠っているだけなのに、空間そのものが張り詰めている。
その瞬間。
「……何をジロジロ見ている」
低く、冷えた声。
少女は目を開け、白馬を射抜いた。
全身が凍りつく。
「こいつが?」
「はい。Three faces bearを倒した少年です」
「ふん……」
少女はゆっくりと起き上がる。
「貴様が、神の子の一人か」
「え……?」
「面白い。今すぐ、手合わせをする」
「え、いや、それは——」
「拒否権はない」
一言で、空気が変わった。
「無理だと言う者に、前へ進む資格はない」
筑波が小さく肩をすくめる。
「……白馬君、健闘を祈るよ」
「軽く言わないでください!
それと前隠して」
少女は裸のまま立ち上がり、淡々と告げた。
「準備しろ。私が、お前の価値を測ってやる」
圧倒的な存在感。
年齢など、まったく関係ない。
羞恥心は無いのだろうか?
前を、少しも隠してはくれない。
そのとき、不意に祖父の言葉が脳裏をよぎった。
『逆風こそ、好機なり』
……逃げるな。
白馬は、拳を握った。
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