プロローグ 神の正体
「キミたちは、かつて神の楽園にいた」
最初から、人間ではなかった。
我々と同じ場所で、同じ光を浴びていた。
「だがキミたちは、我々の叡知を盗んだ」
知りたい、理解したい、選びたい。
その欲望こそが罪だった。
だから追放したのだ。
「キミたちは人という、新しい種族として地上に落ちた」
それが、始まりだ。
「知恵の実を食べた人間は、代償として“運”を得た」
祝福だよ。
未来を進ませるための、必要な仕組みだ。
運がある者は成功し、
運がない者は沈む。
貧富、差別、才能、出会い。
すべては、運によって均されている。
「不平等? 違うね。
均衡だよ」
運がなければ、人間は前に進めない。
だから我々は、運を管理した。
「だが、例外が生まれる」
百年に一度。
八人。
運に抗い、
運を踏み越え、
我々に届いてしまう存在。
「我々は彼らを“神の子”と呼んでいる」
滑稽だよ。
身の程を知らず、神を討とうとする。
何度も来た。
何度も同じ結末だった。
「だから我々は学んだ」
排除するより、
折った方がいい。
運を少し歪めてやればいい。
希望を削って、従順にすればいい。
「神の使徒。
キミたちの言葉で言えば、下僕だ」
それで世界は回る。
「勘違いしないでほしい。
我々は感情を持たない」
憐れみも、怒りもない。
ただ、役割を果たしているだけだ。
「神とは、そういうシステムだ」
キミたちが神を殺しても、意味はない。
神という概念を作ったのは、キミたち自身だから。
「人間が存在する限り、我々は滅びない」
それが真実だ。
「さあ、また始めよう」
運に縛られた戦いを。
抗う者と、折れる者の物語を。
「これは、キミたちのための世界なのだから」
――本当に、そうだろうか。
神はそう語った。
いつも同じ言葉で。
何度も、何度も。
均衡。
管理。
システム。
便利な言葉だ。
それは責任を持たないための、完璧な言い訳だから。
運を与えた?
違う。
奪ったのは、選択肢だ。
人間は“運”を得たのではない。
“因果を固定された”だけだ。
生まれる前から決められた道。
成功する者。
踏み潰される者。
神は、それを正しさと呼ぶ。
だが――
百年に一度、必ず現れる。
修正できない異分子。
折っても、捻じ曲げても、完全には消えない存在。
神の子?
違う。
あれは――
誤差だ。
神が認めない、
システムに含まれていない“何か”。
だから神は笑う。
余裕のふりをする。
繰り返す、と言いながら。
理解できない、と言いながら。
それでも、同じ言葉を吐き続ける。
――本当は、気づいているくせに。
運を制御しているつもりで、
運に縛られているのは、どちらだ?
神という役割から降りられない存在が、
果たして“上位”と言えるのだろうか。
始まりの戦歌?
いいだろう。
だが、それが誰のための歌なのか。
終わりに近づいているのは、
本当に人間だけなのか。
それを知る者は、
まだ、語らない。




