42 使徒
青木ケ原での生活は十三日が経ち最終日の朝、白馬はピリピリとした空気を感じとり部屋を出た。
部屋を出ると他の団員も集まり、息苦しい緊張感に包まれていた。
狂花が重く口を開く。団員は緊張した面持ちで言葉を待つ。
「我々は後半刻もすれば使徒の襲撃を受ける。だが我々は襲撃を受ける前に奇襲をかける。貴様らは死ぬ気で戦え、しかし死ぬな。以上だ。」
白馬達は強力な運の気配がする北東の方へ急ぐ。そして白馬達の向かったその場所は開けた空間だった。
「待ちくたびれたよ、君達が来るのがもう少し遅かったら迎えに行こうと思ってたよ。」
「僕の名前は黒騎士南病ビ、この幸薄イケメンが魔神テラ君。」
「そこの陰湿そうなのがカーポ君、そして我らのアイドル戦神の亜レルちゃん。」
「自己紹介はこれくらいで、これからは同じ使徒として仲良くやろうね。」
「断る、我らの目的は神を殺すことだ。使徒になる気はない。」
「へえー、そっか、そうなんだ。だったら死んで。」
南病ビは狂花に斬りかかる、しかし狂花には速すぎて反応が出来なかった。そこに陽真が割って入り斬撃を受け流す。
「へえー、僕の初撃を人間に受け流されたのは初めてだよ。人間にしとくのは勿体ないね。でもおかしいな、君からは何の運の力も感じないね。」
「それもそうですよ、私は神に愛されなかった人間なので。」
「でも今日は遊びに来たんじゃないから、本気で殺すね。」
南病ビの純粋な戦闘センスや力、テラの速さ、カーポの能力による幻覚、亜レルの戦闘に特化したスペック。
結果を言えば狂花達は負けた。狂花達は諦めなかったが純粋な力の差に圧倒されていた。
陽真は胸ポケットから何かを取り出し、地面に叩きつける。すると黒い煙のようなモノが使徒に纏わりつき行動を阻害する。
「柘榴さん、わたしの家にゲートを開いていただけますか?」
石榴はゲートを開いた。陽真は迅を呼び出し、あるモノを渡す。
「これは私のご先祖様が地上に降りて来た神様を助けた時に貰った水晶です。これを割れば霧の迷宮は君の能力となります。」
「君がうちに来てからずっと水晶が淡く光続けていました。この能力は君が授かるに相応しいモノです。」
「そんな大切なモノ、僕なんかが受け取れません。」
「この世界に自分を否定する理由はどこにもありませんよ。自分を信じなさい。」
ゲートを通り、迅を連れて来た陽真は決意する。
「狂花さん、これは鬼童子家の当主が最後に打った刀です。この刀は生きている。貴女に託します。刀に呑まれないようお気をつけて下さい。」
「私が殿を勤めます。」
「貴様死ぬ気か。」
「守りたいモノを全部守って逝けるのです。大変喜ばしい事です。梶原迅、強くなって下さい。貴方は私に持ってないものを持っています。」
「お前はこんな所で死んでいい人間じゃない。」
「先人が後人の為に死ねるのです、未練は無いつもりでしたが…私は狂花さん、貴女が好きでしたよ。迅君をよろしくお願いします。」
「ちょっと待て行くな。」
「私は最後の勤めを果たします。皆様は生きて下さい、さあ、早くゲートを通り青木ケ原の外へ。」
「ふざけるな、お前を残して行けるか。」
陽真は何も言わず口元を綻ばせた。
サヤにハルが狂花を強引にゲートに押し出す。それが最後に見た陽真の姿だった。




